59決闘試練
P7反乱軍に伴うD事故調査として、カリスティアに同行を命じられた星守たち。
No.55バルバ・ローツ・バルバロン。
No.118ミッテーシャ・ユグラン。
No.167サンファン・ジン。
No.199テララ・テトラ。
以上の四人が星守専用艦イシュタールの訓練場に呼び出された。
「喜べ、お前たちに滅多にない実力者との試合を提供しよう」
カリスティアは底冷えのする笑みで四人を眺めた。
「なんですか、突然?」
「意味不明」
「嫌な予感しかしませんね」
「ウザァい」
公的な状況ではないと瞬時に悟った四人はそれぞれ好き勝手な感想を漏らす。
カリスティアはそんな四人の態度に動じることなく、笑みを深めた。
「この試合に勝った者は、空位となったNo.38への昇格を私が陛下に推薦しよう。なにしろ相手はフォクサに勝利したことがある者だからな。皆も記録映像は見ただろう?」
その言葉で四人の表情が真剣なものに変わった。
星守にとってNo.とは、すなわち強さの順位である。
フォクサ・アンヘインのNo.は38だった。
彼女は、この場ではカリスティアの次に強かったということである。
「ほう、それは面白い」
最初に乗り気になったのは、最年長のバルバだ。
「あの小娘が私より上だというのは納得できていませんでしたからな。死んだ後というのが気に入りませんが、実力を見せるいい機会ですな」
カイゼル髭を撫でるバルバに、残りの三人から冷たい視線が注がれる。
「男尊女卑クソジジイ」
「バルバさん、さすがにその言いようは」
「ええ、私は好きだったなぁ、フォクサ。死ぬ前にドヤドヤしたかったけど」
「では、四人とも受けるな?」
カリスティアは勝手に話を進め、待機室にいたイオを呼び出した。
四人の視線を平然と受け止め、イオは訓練室の中央に立つ。
片手には訓練用の模擬刀。
「で、誰からやる?」
カリスティアどころか、他の星守たちには近づきもしなかったのはそういうことだ。
「挨拶ぐらいしたらどうだ?」
カリスティアが苦笑を浮かべてそう言う。
それに、イオは肩をすくめた。
「挨拶? そうだな。いまからお前たちのことを叩きのめすが、どうかお恨みなさいませんように、栄光ある星守の方々? こんなところか?」
「「「「……」」」」
やや弛緩していた星守たちの顔が引き締まった。
「そうだ。そういう顔をしていた方がいい。なんなら結晶刃を持ってもかまわないぞ? 負けた時の言い訳だけはしないようにするためにな」
イオの態度に星守たちは静かに怒りを募らせる。
「なにこいつ?」
ミッテーシャは強化手術によって取り付けられた猫耳を後ろに沿って伏せる、いわゆる『イカ耳』状態にする。
「さて、ただの自殺志願者というわけではないようですが」
サンファンは作り笑顔を浮かべながら、手には必要以上に力が込められ、ゴキゴキと音を零す。
「うわぁ、泣き顔が見たーい」
テトラは真顔でそう呟いた。
「貴様らの出番などない!」
だが、先に爆発したのはバルバだ。
カイゼル髭の先から炎を吹かんばかりに怒気を放ったバルバは我先に前に出ると、模擬刀を掴んでイオの前に出た。
「結晶刃じゃなくていいのか?」
「吠えるな若造が。星守とそうでない者との違いを見せてやる」
「そうか。……楽しみにしている」
「これはあくまでも試合だ」
バルバのこめかみに浮かび上がった太い血管を眺めてカリスティアが告げる。
「だが、殺しても一向にかまわん。イオルードにはそのように告げている。もちろん、お前たちにもそう注意しておこう。どうする? 模擬刀でかまわないのか?」
「かまいませんな!」
「そうか、では……はじめ」
カリスティアがそう告げ、バルバが動く。
「若造が! わからせてくれる」
下げていた模擬刀を必殺の位置に運びながら、バルバは間合いを詰める。
体を横に捻り、戻る力を加えて放つ横薙ぎの一閃。
最速にして最高の一撃。
模擬刀であっても星守であるなら生物を両断するのも可能な膂力を込めた。
それがイオの胴体に……。
その前に、バルバは見た。
イオの持つ模擬刀がすでに上段にあることを。
そして、バルバに向かって振り下ろされていることを。
(バカな! 私よりも速いなど……)
模擬刀の一打は肩に落ち、バルバは訓練室の床に打ち伏せられた。
凄まじい衝撃音が訓練室の床を駆け抜けていき、その後に沈黙が降りる。
「さて、次だ」
動かなくなったバルバから目を離し、模擬刀を肩に掛け、イオは告げた。
残りの三人の顔付きがまた変わる。
驚愕、そして気持ちを鋭くさせ、それぞれに模擬刀を掴む。
「強い。あるいは一桁ナンバー並みかもしれませんね」
「最悪野良野郎」
「ざまぁできない奴ってきらーい」
サンファン、ミッテーシャ、テララがそれぞれに呟く。
だが、誰もがすぐには動かない。
「誰から来る?」
イオがそう声をかけても、動かない。
「それなら三人同時でもかまわないぞ?」
挑発と自信、両方を備えて放った言葉にも三人は動かなかった。
いや、動けなかった。
激しやすいという弱点はあるものの、それでもNo.55であり、この場ではカリスティアの次という高位であったバルバを、ああも容易く倒してみせた。
そして、フォクサとの戦いも記録映像で見ている。
バルバよりもナンバーが上のフォクサに勝っている映像だ。
それを見た時はフォクサが油断したのだと笑っていたものだが、その感想が間違いだということがこの場で明確になった。
そう感じた瞬間に、動けなくなった。
勝てる方法が思い付かない。
完全にイオの気に飲まれてしまっていた。
「悪いがびびっていても、勝たなくちゃならないんでな」
イオが一歩踏み出す。
「本番前の肩慣らしで悪いが……」
剣術でいう八相の構えをイオが取った瞬間、またも三人は異変を感じた。
星守たちの強靭な身体能力はエネルギー……イオの言う魔力を使用した身体強化の賜物だ。
ほぼ本能的にそれを行う星守たちは、イオの体からその魔力が意図的に外に放出されたのを感じた。
放出された魔力は、まるで生き物のように模擬刀に絡みつく。
体外に出たエネルギーを意図した方向へ動かす。
星守にも不可能なことを、イオはそこでしてみせた。
「まぁ受け取れ」
八相から肩越しの構えに移った模擬刀は、そこから真横に流れる。
剣先から放たれた魔力は高速で三人に襲いかかり、彼らは抵抗することもなく吹き飛ばされたのだった。
「ふふ、さすがだな」
その結果をわかっていたカリスティアは、イオを称賛した。
自身も模擬刀を握り、イオを倒れた四人から離れた場所へと誘う。
「最後のは、私にわかるようにやってみせただろう? なんのつもりだ?」
「まぁ、サービスだな」
フォクサに教えていたのだが、結局ああなってしまった。
それを改めて、見せただけとはいえカリスティアに示したのは、フォクサに対するなんらかの気持ちと、そして貸しをもう一つという計算からだった。
「リリスミアを引き受ける代わりに、星守に役立つ技術を、か? ずいぶん傲慢だな。何様のつもりだ?」
「こいつの使い方に関しては、間違いなく先輩だな。開祖ではないが」
「ほう、お前の師がいるか? 会ってみたいものだ」
「無理だろうな。生きているとは思えない」
ヴィルダから伝え聞いた話を信じるなら、もう一万年は時間が過ぎていることになる。
「だが、まだ足りん」
カリスティアの足が止まり、イオもそれに応じた。
「姉から愛する妹を奪おうというのだ。力を振り絞れ」
「できるものならやってみろ」
その瞬間、二人の握る模擬刀が衝突した。




