58戻るために
イオは即座にセンダナルを呼び出した。
そうすれば、もちろんヴィルダとママスカヤもやってくる。
星守専用艦イシュタールの一室に集まった彼女たちはリリスミアの現状を知り、表情を曇らせた。
とはいえ、出てきた言葉は冷静そのものである。
「ううん」
「まぁ……そういうこともあるかなぁ」
「デジタルタトゥーの消去は個人のものであったとしても困難です。今回の件を皇室が重い事態として受け取ることは十分にあり得ます」
唸る二人と冷静に発言するママスカヤ。
それを見たリリスミアは床に視線を戻した。
「それで、イオはどうしたいのかな?」
センダナルが尋ねた。
「要らんのなら俺がもらう」
「イオさん!」
「イオっ!」
「あっ、いや……ニュアンスがおかしいな。うちで引き取る」
断言した後の反応を見て、イオは表現を変更した。
「ええ……」
「そこで下手れるのはカッコ悪いなぁ」
「いや、うん、それでいいよ」
リリスミアとセンダナルが呆れるのとは対照的に、ヴィルダは喜んでいる。
「また、ミーシャに戻ればいいだけだ」
周りの反応を無視して、イオはそう言い切った。
「第五皇女としてもはや顔が変えようがなかったとしても、ミーシャとしてならいくらだって整形はできるだろう?」
「顔の変更なんてそんなに難しいことでもないし」
「グランダラの医療ポッドでも可能です」
「なんなら、私のように脳だけにしてしまうかい? 姿なんて自由自在だよ?」
「あの……皆さんは、私を受け入れてくれるのですか?」
リリスミアが恐々と尋ねる。
「問題ありません」
「我々は一度困難を共にした仲だよ? いまさらだねぇ」
「むう、仕方ないよね」
三人が順に答える。
リリスミアはイオを見た。
「……いまさら答えが必要か?」
「はい!」
「……仲間は見捨てない」
異世界では誰一人そんな者は残らなかった。
それらしい関係になった者たちは皆、戦場の火と煙の中に消えてしまった。
さらに国からはもうお前は要らないと捨てられてしまった末に、イオはヴィルダと会い、相棒と呼び、そしてセンダナルやママスカヤ、そしてミーシャと会った。
生きている仲間たちだ。
もう、簡単にあの向こうに行かせたりはしない。
「俺の仲間になったなら、そう簡単に墓に入れると思うなよ」
「どんな脅しですか、それは……ふふふ」
笑っていたリリスミアの瞳の端から涙が溢れる。
「……私も、イオさんたちと一緒にいたいです」
「決まりだ」
イオはその涙を拭い取る。
「しかし、どうするつもりだい? ここから連れ去るというわけにはいかないだろう?」
「そう難しい話じゃない。この場で最も権力のある人間を共犯にするだけだ」
センダナルの質問に、イオは間を置かずに答えた。
「権力って……もしかして、お姉様ですか?」
「それ以外に誰がいる?」
イオの断言に、リリスミアは考え込む。
「たしかに、お姉様が協力してくだされば、でも……もう私の生存そのものはお父様に伝わっているはずです。それを誤魔化すとなると……」
「やってもらうさ。それとも、あの姉は妹のためにそんな嘘も吐けないのか?」
「そんなことは、ないと思いますけど」
カリスティアならば協力してくれると、リリスミアも思う。
実際、この処分になるだろうと告げられた時、カリスティアはリリスミアを守る発言をしている。
「もしかして、そのために結晶刃と星殻装攻を返還したのかい?」
「あれとこれは別問題だが、向こうがどう受け取るかはまた別の話になるな」
フォクサの遺品を返したことを貸し一つにするのはイオとしても本意ではない。だが、それが有効打になるのであれば、交渉材料にすることも辞さないつもりだ。
「ともかく、交渉してみるしかないだろう」
その他にも作戦会議をした結果、結論が揺らぐことはなくカリスティアを呼び出すこととなった。
「それで、作戦は決まったか?」
カリスティアは部屋に入るなりそう言った。
前回もそうだが、今回も護衛なしの一人である。
星守としての彼女の自身が窺えた。
「その言い分だと、こちらの提案はすでに承知しているようだ」
「ほう、口の利き方が変わったな。イオルード」
「腹を読まれているなら、こちらの本性を見せた方が話もしやすい」
「ふん、いい度胸だ。お前が星守になるのであれば、リリスミアを妻として下賜することも可能かもしれんぞ」
「自分に権限のないことでこの場を誤魔化すのは感心しないな」
「ふん。では、そちらの作戦を聞かせてもらおうか」
「作戦というほどではないさ」
イオは代表して、こちらで考えた作戦を伝えた。
「作戦とも呼べんな」
イオの話した内容を、カリスティアは同じ言葉で切って捨てた。
「だが、《《ミーシャ》》の話を聞く限り、有効な方法だ」
「まだ、そう名乗ることになると決まったわけではないぞ」
カリスティアが睨む。
その圧力には機械知性のヴィルダやママスカヤでさえも肩を震わせたほどだ。
だが、イオは身じろぎもせずその目に視線を絡ませた。
「肩身の狭い宮殿で腫れ物扱いされたまま一生を過ごさせるか、多少の危険はあっても自分らしさを探すことのできる外の環境で生きるか。家族ならどちらを選ぶ?」
「嫌な聞き方をする。まぁ……いいだろう」
顔を顰めたカリスティアは頷いた。
「だが、条件がある」
「それは?」
「保護者の実力が見たい」
そう言って、カリスティアはイオを見た。
「このカリスティア・ファーラ・ダグワーレンの大事な《《妹だった者》》を預けるのだ。半端な実力など許せるわけがないよなぁ?」
凶暴な笑みを浮かべるカリスティアに、イオは無言で首を傾げた。




