57戦後処理
ダグワーレン銀河帝国によってP7反乱軍と呼称された七つの星系国家による反乱は、その後すぐに終わることとなる。
パルミナエル星系の主星を全滅させ、セファタタ星系の戦場を蹂躙したキメラウィルス怪物の存在はP7反乱軍の士気を瓦解させて、残り五つの星系国家が早期に降伏を申し出てきたためだ。
銀河帝国が決して許さないD事故への関与という点で、すでにP7反乱軍の士気は底辺にまで下落していたところでの、キメラウィルスというバイオハザードである。
戦争にも一定の倫理観は存在する。
一般市民を犠牲にしたキメラウィルスは、自星系民からの支持さえも失う結果となったのだ。
全てをセファタタ星系国家の暴走ということで片付けようとする他の星系国家の敗戦戦術でもあるのだが、二つの事件の調査は続行し、またその調査への妨害行為は許されないという内容は、降伏文書にしっかり明記させられることとなった。
もちろん、各星系国家の王族をはじめとした首脳陣は全員拘束され、その後の星系運営は帝国中央から派遣された代官たちによって行われることになる。
場合によっては彼らがそのまま星系国王となるのが、銀河帝国のいままでの流れでもあった。
キメラウィルス怪物が活動を停止する前に見せた《《謎の精神汚染現象》》は戦場にいた多くの軍人や機械知性たちを悩ませ続けたのだが、アクセンブル社が試作したという《《リラクゼーション行為》》が功を奏し、沈静化する。
軽度の頭痛に悩まされていたリリスミア第五皇女もその施術を受けて、完治した。
「たすかりました」
星守専用艦イシュタールの一室で最後の施術を受けたリリスミアは作られた笑顔をイオに向けた。
「光栄に存じます。皇女様」
そんなリリスミアに対して、イオも教えられた儀礼を守って首を垂れる。
「私の前だからと無理をする必要はないぞ」
部屋の隅で様子を見ていたカリスティア第三皇女が苦々しい表情を浮かべて言う。
「それにしてもマナ粒子にはそういう使い方もあるのか」
カリスティアには魔法に関しての説明はしていない。
ただ、イオが独自に発見したマナ粒子活用法ということになっている。
リリスミアはある程度知っているはずだが、カリスティアにそのことを話していないのか、あるいは知らない振りをしてくれているのかは、イオにはわからない。
「まだまだ研究中の段階で、私しか使えないのです」
「なるほどな。アクセンブル社がその研究を発展させることを願おう」
「ありがとうございます」
「それと、フォクサの装備を回収してくれたことを改めて感謝する」
「はい」
フォクサから渡された結晶刃と星殻装攻は、カリスティアに返還した。
センダナルは求められてもいないのに自分から渡すことに反対したが、イオはそれを許さなかった。
「騎士の剣を奪うなんて無粋な真似はしたくない」
異世界で培った騎士道精神である。銀河帝国で通用する考え方ではないかもしれないと理解しているのだが、イオは強硬した。
譲られたのがイオである以上、センダナルも渋りはしたものの反対姿勢を貫くことはなく、フォクサの装備は返還された。
「フォクサの装備は私が責任を持って皇帝陛下へとお届けする。フォクサの魂もそれで安んじられるだろう」
フォクサの死はリリスミアを守った殉死ということになるのだそうだ。
皇帝は彼女の死を悼み、その武勲を誉めたと公報は告げている。
だが、イオはわかっている。
あの時、フォクサの星守専用艦がキメラウィルス怪物に突っ込んだのは、イオを守るためだ。
ヴィルダが魔法を作ることに集中した結果、イオの動きは鈍り、キメラウィルス怪物に追い詰められていた。
あの時、星守専用艦が特攻じみた攻撃をしなければ、イオは死んでいた。
魔法は完成することなく、キメラウィルス怪物の猛威はいまも続いていたかもしれない。
フォクサがそのことをわかっていたとは思えないが、結果的にはそうなった。
命の恩人の功績を穢したくないという想いからも、彼女の装備を持ったままにすることはできなかった。
「イオルード・ティンバーライン。お前は星殻装攻を使いこなしたそうだな?」
「どれぐらい使えれば使いこなしたことになるのかわかりませんが」
「変な謙遜を使うな。まぁいい。星守に興味はないか? 私から陛下に推挙することは可能だぞ」
「栄誉なことなのでしょうが、お断りさせていただきます」
「ほう? 一応聞くが、なぜだ?」
「前職の影響で大きな組織に不信感がありましてね。アクセンブル社にしてもいつまでいられるか」
これはイオの偽らざる気持ちである。
「ふむ、忠誠心が得られないというのであれば、無理強いはしない。皇帝陛下への忠誠は絶対だからな。だが……」
「わかっていますよ。帝国への叛逆行為なんて考えてはいません」
「ならばいい」
カリスティアは頷くと、壁から背を離した。
「さて、あまり邪魔していては妹に叱られる。最期の別れになるかもしれないからな」
そう言うとカリスティアは部屋を出て行った。
「……なにか、変な言い方だったな」
広大な銀河帝国の皇族と関わることなど一生に一度あるかないかとは、イオだって考えることだ。
しかしそれにしても、カリスティアの言い方には奇妙な含みを感じて、リリスミアを見る。
「……」
「なにかあったのか?」
「おそらく、私はこの戦いで死んだことになります」
「……どういうことだ?」
「キメラウィルスです。戦場で私の顔を使った怪物が一つの惑星を滅ぼし、戦場を蹂躙しました。すでに多くのメディアがその姿を報道しています」
「有名になりすぎたか」
その前に自分たちが行ったことを思い出し、イオは苦い顔を浮かべた。
クローンによってリリスミアは不名誉な立場となっていた。
そのために、自分が本物であることを示すために動画攻勢を行ったのだが、その結果が今度は足を引っ張ることとなってしまっている。
「キメラウィルスの怪物そのものは私のクローンであることは周知されています。ですが、その顔はいまさら消すこともできません。私の顔は今後、苦い記憶として記録されることになります」
「それで、死んだことになると?」
「第五皇女として成人したとしても、今後は皇室としての活動はなにもできないに等しいのです。でしたら、いっそあの戦いでフォクサとともに名誉の死を遂げたことにした方がいいのではないかと……すでに戦場にいた艦隊の記録はそのように《《調整中》》です」
「面白くない話だな」
「イオさん」
「まったくもって、面白くない話だ」
イオは静かに怒りを示した。




