54怪物と戦場05
動揺するリリスミアを連れて星守専用艦のドックに移動する。
『こちらです』
案内ドローンが飛んでくる。
聞こえてくる声は戦艦に搭載された機械知性のサンジョウだ。
案内ドローンに従って進むと、そこには小型の脱出艇が用意されていた。
「他に生き残りは?」
『いません。脱出艇は出発後、帝国艦隊と合流するように自動操縦がセットされていますのでご安心ください』
「よし、リリスミア、行け」
「でも! イオさんは」
「やることがあるだろう、俺には」
すでに俺の結晶刃に仕込んだ炎の魔法は起動し、星守専用艦を中から焼いている。
時間はかけられない。
「星守が死ぬような戦場ですよ!」
「誰が死のうと戦場は戦場だ」
突き放す言い方では、リリスミアの信用を得ることはできなかった。
「……ミーシャ」
イオがその名で呼ぶとリリスミアはハッとした顔をした。
「あの時を思い出せ、やられっぱなしでいいわけがないだろう」
「っ!」
「奴らはお前の顔を徹底的に侮辱する作戦に出た。そんなものを許しておけるか?」
リリスミアは黙って首を振る。
「声を出せ!」
「いいえ!」
「許せないよなぁ?」
「許せません!」
「ならばやることは一つだ。見てろ、最高の一発を食らわせてきてやる」
「できるんですか?」
「準備はもうほとんど終わった。ヴィルダがセンダナルから必要なものを受け取って、俺と合流すればやれる」
「わかりました」
涙を流したまま、リリスミアが顔を上げる。
「ご武運をお祈りします」
「我が前には勝利のみだ。姫様」
そう答えて脱出艇のハッチが閉まるのを見送った。
即座に浮き上がりドックから出発する脱出艇に背を向けて、イオは案内ドローンに話しかける。
「フォクサの星殻装攻は?」
『こちらです』
「……すまないな。お前の相棒を救えなかった」
『それは傲慢な言葉です。イオルード様』
イオの謝罪にサンジョウはそう答えた。
『誰も戦場では神になれないのです。生死の操作は不可能です』
「ああ、そうだな」
それでふと思い出した。
リリスミアとの別れ際、ふと出たあの言葉はフィーリーアの墓前に送った言葉だった。
戦闘用ゴーレムが完成し、数が揃い、鋼鉄兵団という名称が決定し、戦場へと向かう前のことだ。
戦場はいろんな感情を爆発させる。
異世界召喚、他人の戦場、親しくなった者から死んでいく……。
鋼鉄兵団という容赦のない戦闘集団を作ろうと思ったのは、そういったものへの感情の爆発の結果だった。
あの時と、少し気分が似ているのかもしれない。
「まったくそうだ」
だけどイオは望むのだ。
クソッタレな環境に叩き込まれるのなら、それを全力でぶん殴る力を手に入れてやると。
それで、イオの望む全てを守ってやると。
だけどまだ、上手くできていない。
フォクサの星殻装攻は浮遊台座に乗ってこちらに近づいてきていた。
それは巨大な機械の翼だ。
サンジョウの誘導に従って立てかけられたスラスターの間に立つと、浮遊台座から伸びたアームがイオの各所にアーマーを嵌め込み、スラスターと繋げる。
とはいえ、装甲なんてほとんどないようなものだ。
シールド発生機と姿勢制御用スラスターがほとんどで、あとは頭部と脊髄の保護とメインスラスターの接続部の強化のためか、背中部分はしっかりと守られている。
専用のヘルメットは、フォクサの狐耳を守るために角のように尖っている。
こんな寂しげな守りで宇宙に飛び出して超高速で戦艦を薙ぎ払っていくのだから、星守というのはたいしたものだと、イオは思った。
『リサイズしている暇がありませんでしたので、一部装甲の接続プロセスはキャンセルいたしました』
「なるほどな」
胸や腰辺りが寂しいのはそういう理由か。
それでも少ないのだが。
『マスターはあなたならば使いこなせるとのことでしたが、どうでしょうか?』
「そうだな」
イオならばと言うのであればこれだろうと、魔力を流し込む。
星殻装攻が静かな起動音を発し、各所が光を放った。
『お見事です』
「ああ、なるほどな」
サンジョウの賞賛を聞きながら、イオは別の部分で納得していた。
フロッピーどもがどうしてあんな星守とは似ても似つかない装備だったのか、わかった気がした。
出力の問題だけではない。
これの使い方を知らなければ、星殻装攻や本物の結晶刃の出力は実現できないのだ。
このタイミングでこれがイオの手にある。
それは忌々しい勝利の女神が自分たちの側についているのだと実感させる。
そんなものの存在を感じなければ勝利が掴めない自身の不甲斐なさに内心で歯噛みし、さらに出力を上げた。
「では、行く」
『はい。いってらっしゃいませ。……イオルード様』
「どうした?」
『相棒。とても良い言葉です。最後にその言葉をいただけたこと、感謝いたします』
「あの世でフォクサによろしくな」
『さて、私がそこに行けるかどうか』
「行けるさ、きっと」
『そうですね。私たちはそれを目指して進化を続けるのです』
爆発音が響き、ドックに炎が流れ込んできた。
イオは宙に舞い、炎に追われながらドックを出発する。
瞬く間に速度が上昇していき、リリスミアを乗せた脱出艇に追いつき、追い越した。
「くっ、すごい速度だな」
神経同調操縦の感覚を知っていなければ速度に振り回されるところだった。
なんとか制御し、引き返すと脱出艇に伸びていた肉の手を切り裂く。
『イオさん!』
「大丈夫だ、そのままいけ!」
通信に響くリリスミアに返事をし、その場で肉の手の侵攻を止め続ける。
そこに重レーザーの光線が駆け抜け、肉の手を焼いた。
戦闘機だ。
『イオ! お待たせ!』
「ヴィルダ! センダナルの説得はできたか?」
『すんごい渋ったけど、イオの言葉を伝えたら即OKだったよ』
「やっぱりか」
イオがヴィルダに伝えた言葉は単純だ。
『すごいものが見れるぞ』とただそれだけを伝えたのだ。
好奇心の塊のセンダナルはその誘惑に耐えられなかった。
『このまま迎えにいくね』
「いや、このままでいい!」
『でも……』
「結晶刃と星殻装攻はこの場で最適の装備だ。なにしろ感応物質が使われているからな」
『えっ!』
「感応物質を介して魔力は共有される。さらに二重詠唱で確実性を増すこともできる。新言語の方はヴィルダに任せるぞ。お前が作ったんだからな」
『うん!』
異世界にも存在しなかった魔法のために、ヴィルダは専用の魔法言語までもあの短時間で開発して見せたのだ。
ここで失敗するわけにはいかない。
『イオの星殻装攻とのリンク完了! 魔法陣、マップに反映!』
「よし、やるぞ!」
二手に分かれたイオと戦闘機はキメラウィルス怪物を挟んで対極の位置に立つ。
イオが結晶刃を掲げる。
人型に変形した戦闘機も右手を掲げる。
機械の手に握られているのは、工房艦グランダラに安置されていた感応物質の塊だ。
【幻神召喚】
二人は高らかに新たな魔法の名を叫んだ。




