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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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22/61

22工房籠城劇



 十日目を迎え、警備艦隊の戦艦の中で社員証の更新が行われ、戦闘機パイロットのライセンスが追加された。

 すっかり馴染みになった教官や他のパイロットたちやクルーと戦艦の食堂で打ち上げをしている間にアクセンブル・バーン星系支社コロニーに到着する。


「おいおいおい、これを見ろよ」


 食堂にいた戦艦クルーが、艦橋からの通信を受けて食堂にある壁面モニターをオンにした。

 映し出されたのは外の光景だ。

 支社コロニーに横付けするように、巨大な戦艦が停泊している。


「うへぇ、1kmクラスじゃないか?」

「ドックに入らないや〜つ〜」

「いや、それより戦艦のカラーが白だぞ。それにあの紋章……」

星守ステラガーダー専用艦じゃないか⁉︎」

「No.38って、フォクサ・アンヘイン?」

「なんでこんなところにいるんだよ?」

「あれか? ちょっと前にあった交易コロニーのD事故。あれの調査に来たとか?」


 ざわめくパイロットたちの話を聞いて、イオは嫌な予感がした。

 話の通り星守が来ているのなら、ミーシャを迎えに来たという考え方が妥当のはずだ。

 しかし……なぜか、胸騒ぎがする。

 いままでは通信範囲ではなかっただろうと思い付けていなかった通信機を耳に嵌めてみると、微かな雑音が聞こえてくるだけだった。

 ジリジリとした気分のまま、イオは戦艦が支社コロニーに入るのを待った。

 外に出られるようになると、即座に飛び出す。

 通信機はいまだに繋がらない。


「ただいま✖︎✖︎方面への移動は禁止となっております。ご注意ください。繰り返します。〜〜」


 そんなアナウンスがドック内からの出口から聞こえてくる。

 チューブトレインや自動カートを使う気にはなれない、居住区に入ったと同時に飛行の魔法を使った。


 センダナルの工房は包囲されていた。

 飛行型の戦闘ドローンが工房の周囲を守り、その周りを多数の兵士たちが囲んでいる。

 正面出入り口ではすでに砲火を交えているようだった。

 宙を舞うドローンからの多角的な射撃を、兵士たちは腕にはめたシールド発生装置によって防いでいる。

 他の場所でも侵入を試みようとする兵士たちを妨害し、別の場所ではハッキングによって工房のシステムをダウンさせようとしたり、あるいは電源を落とすなどという試みが行われている。

 だが、その全てが失敗に終わり、事態はこう着状態となっていた。


 しかし、その事態を動かす存在が、兵士側にやってきた。

 一台の軍用車が到着し、後部座席からその人物を下ろす。

 長身の女性だった。

 均整の取れた美しい肢体をイオが見れば和風が変態進化したと考えるような衣装で覆っている。

 小麦色の長い髪は戦場の熱によって発生した風を受けてなびき、翡翠色の瞳を顕にさせた。

 より特筆すべきはその頭にある狐の耳と、尻から伸びる長い尻尾だ。

 ダグワーレン銀河帝国に獣人と呼ばれる種族は存在しない。

 彼女は歴とした人間である。

 生体強化の末に狐の耳と尻尾を獲得した強化人間ハイブリッドだ。


「どないなっとるん?」

「はっ! 工房の者が目標の確保を妨害し、戦闘と……」

「それは知っとるんよ。だから支社長のところに直で挨拶に行ったんやから」

「はっ、それは……」

「で、なんでまだ中に入ってへんの?」

「申し訳ありません。戦闘ドローンの抵抗が激しく。どうやら機械知性制御のようで」

「ドローンやボットを使いこなすのなんか機械知性に決まっとるやないの。対策してへんの?」

「は、それがこちらからの情報圧攻撃は弾かれてしまいまして……」

「へぇ、さすがはアクセンブル社。うちの戦艦にいる機械知性よりも上なんやね」

「は、申し訳ありません」

「まぁええわ。もう待ってられんからうちが行く」

「申し訳ありません」

「ええんよ。うちが短気なだけさかい」


 ひたすら恐縮する現場指揮官に女性は目を細めて笑いかけると、腰に手を伸ばし、なにかを取り出した。

 それは手から余るほどの長さの、装飾が凝らされた棒だ。イオが見れば、日本刀の柄と鍔の部分に似ていると言うだろう。

 それを振り上げる。

 なにもなかった鍔の先に白い刀身が誕生した。

 結晶刃だ。


「星守No.38。フォクサ・アンヘイン。推して参るで!」


 その瞬間、疾風が兵士たちの間を駆け抜け工房へと殺到していく。

 いち早く反応したドローンたちは疾風の先頭に向けてレーザー攻撃を放つが、それが命中することはなかった。

 瞬く間に距離を縮められると、結晶刃の一閃がドローンを襲い、ことごとく破壊されていく。


「はは! 機械知性が制御しとってもな! しょせんはドローンや!」


 フォクサは楽しげに叫び、工房へ向けて再び進もうとし……すんでで足を止めた。

 上からなにかが落ちてきた。


「なんや⁉︎」

「失せろ」


 イオだ。フォクサの前に着地したイオは広域に炎を撒く。

 しかしそれにフォクサは反応した。


「なんなん⁉︎」


 宙に飛び上がったフォクサにイオは光弾の魔法を撃ち込むが、それもまた結晶刃によって切り払われてしまった。

 その反射速度にイオは納得した。


「なるほど、お前が星守か」

「なんやあんた、変な手品使いよってから!」

「悪いが事情がわかっていない。今日のところは帰ってくれないか?」


 皇帝に忠誠を誓っている星守が、皇女であるミーシャのいる工房を攻めている。

 その事情がわからず、イオもどういう対応をすればいいのか迷っていた。

 とはいえ、防御の手を緩めるというわけでもない。

 こちらに銃口を向けた兵士が引き金を引くよりも先に光弾を放ち、相手のシールドを破ってみせた。


「うちの相手しとるのに、余裕やなぁ!」


 距離を詰めて来たフォクサの一撃をかわし、アイテムボックスから球体ゴーレムたちを吐き出し、兵士たちに向かわせる。

 殺傷ではなく鎮圧を命じられた球体ゴーレムは、球体のまま突撃して体当たりをしたり、平らな腕から麻痺電流を発生させて兵士を痺れさせた。

 兵士たちは球体ゴーレムに銃口を向けるが、海賊基地で手に入れたこちらの素材で作った新たな球面装甲は相手のレーザーやプラズマ弾に抵抗してみせた。


「なんで急にボットが湧いてきよんねん!」

「世の中にはお前が知らないこともある。ここは大人しく退け」

「ふざけとるんか、お前……」


 フォクサの顔付きが険しくなり、イオを睨む。


「要は、お前を倒したらそれで終わる話や。そうやろ?」


 殺気を含んだ低い声。フォクサが本気になった証拠だ。

 鉾を収める気のない態度に、イオはどうしたものかと考えていたのだが……。


「イオ、これを!」


 工房からヴィルダの声が響き、なにかが投じられた気配があった。

 振り返る余裕のないイオは、勘でそれを受け取る。

 それは、剣の柄の形をしていた。


「なんや、ふざけてるんか?」


 フォクサの明らかな苛立った声。


「どうかな?」


 そう応じたイオは、ヴィルダに乗っている時の感覚に従って柄に魔力を込める。

 青い刀身が姿を現した。


「星守⁉︎」


 こちらの様子を見ていた兵士たちがざわめく。


「まさか……」

フロッピー(なりそこね)だろ。そんなはずがない」


 そんな声が聞こえてくる中、フォクサは苛立っていた顔を深呼吸で落ち着かせた。


「退く気になったか?」

「まさか!」


 朗らかに、笑うように否定する。

 そして、手にある結晶刃を掲げるように構えた。


「うちの前でそれを持った以上、覚悟しときや」


 顔は目を細めるほどに笑顔に、しかし放たれる殺気は以前よりも濃厚になった。

 イオはもはや説得は不可能と諦め、迎え打つ意思を固める。

 だが、結晶刃は下げたままだ。

 わずかな時間、固体化したような静寂が周囲に圧を加えていたかと思うと、決着は刹那の間で付けられた。


「んな……」


 両者の位置がいつの間にか交代していたかと思うと、フォクサの持っていた結晶刃が砕け、彼女は地面に倒れた。


「見事」


 イオは結晶刃を解除し、球体ゴーレムに戦闘停止を命じる。

 そして兵士たちに呼びかけた。


「いま連れて帰ればおそらく助かる。どうする?」


 イオの刃はフォクサの結晶刃を砕き、その上で脇腹を切り裂いていた。

 結晶刃に込められた破壊力のほとんどは振り抜いた先で放散されているが、一部はフォクサの内臓にも達し、肺や心臓にもダメージを与えている。

 脳は無事だが、酸素が届かない状況で何分無事でいられるのか、銀河帝国の医療技術がまだよくわかっていないイオには判別できない。

 ここで兵士たちが逃走すれば、あるいは星守殺害の重犯罪人になる可能性もあったのだが、無事だった現場の指揮官が兵士と共にフォクサ回収のために動いた。


「今日は仕切り直しをしてくれるとありがたいが?」

「……貴様たちはすでに大罪を犯しているということを忘れるな」


 フォクサを回収する兵士と共にやってきた指揮官に睨まれても、イオには答える術がなかった。

 いまだ、なにが起こっているのかわかっていないのだ。

 感知できる範囲で兵士たちが去ったのを確認して、イオは工房に戻った。


「イオ君! たすかったよー」


 工房のシャッターが開き、中に導かれるとセンダナルが箱をガシャガシャさせて興奮していた。


「星守が来たときは終わったと思ったけど、まさか勝ってしまうなんてねぇ」

「なにが起きたんだ?」


 センダナルの側でミーシャの顔が青ざめている。

 ショックが強すぎて喋ることができないようだ。

 少し落ち着いてからでなければ、話すことはできないかもしれない。

 そう考えると、次だとイオはセンダナルたちの背後にあるヴィルダを見た。


「さっきのタイミングはよかったな。ヴィルダ」


 そう語りかけたのだが、ヴィルダの機体は沈黙したままだった。


「ヴィルダ?」

「ああ、それなんだけどね、イオ君」


 センダナルの声かけで、イオは視線を動かし、そしてそれに気付いた。

 少し離れたところで控えているママスカヤの後ろに誰かがいる。

 彼女と同じアンドロイドなのだろう。生命や魔力を宿さない機械の気配を探知するのはイオでも難しい。


「サプライズをしたかったんだけどね。いや、十分に驚いたかな? ヴィルダだよ」


 センダナルがそう言うと、ママスカヤの後ろに隠れていたそれが姿を見せた。

 身長はママスカヤの背中に隠れる程度、青銀の髪の少女だ。


「この外見はヴィルダの監修なのだけどね、いやいや、この子の美的感覚は素晴らしいじゃないか。はっはっは……」

「そうか」

「あ、あの……イオ、私……どうしてイオの隣にいつもいたくて」

「そうか」

「あの、イオ……」

「ヴィルダ。お前……やったな?」


 その姿は、年齢こそ違うが、つい最近イオが思い出した女性……フィーリーア王女の生き写しだった。

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