35、イケオジ神様たちに甘やかされても困りません!
これで完結です。
『さて、落ち着いたかのう?』
「はい。神様、ごめんなさい」
いつの間にか神社の裏手にいた私たちは、野点のようなスペースで寛いでいた。
ただし、朱色の敷物の上に広がっているのはお茶ではなく、お酒とおつまみ各種だったりするのだけど。
さっきまで不満げにピィピィ騒いでいたオレンジ色の小鳥は、私が「シマエナガのエナちゃん」と呼びかけたら落ち着いた。
名付けすると落ち着くのね……氷室さんの居候だったのに、名前はなかったのかしら?
『あの者の役割りは別のところにあるからのう。五行の名付けは、お主が行うべきであるな』
「そうなんですねー。あっ、このカラスミ、大根の薄切りを合わせたいなぁ」
『……お主も大概じゃのう』
目の前にあるおいしいお酒と肴は、しっかり味わうことが重要だ。これを逃したら死ぬまで後悔しちゃうもの。
さて。ひやおろしをお猪口で一杯いただいたところで、私はしっかりと背すじをのばし、お爺さん神様を向き合う。
「もう大丈夫です。私は何をすればいいんですか?」
『いや、お主に何かしてもらうことはないぞ。願い事の続きを叶えようと出てきただけでのう』
「え? 御二方のことで、何かあるんじゃないんですか?」
『アレらは異界の者たちであろう? ここの神社は、この世界にしか干渉できん。ゆえに、お主に干渉するために出てきただけじゃよ』
「そんなっ!? じゃあ、御二方を解放できないってことですか!?」
『この世界の神には無くとも、お主には繋がりがあろう? じゃから、お主がお主の願い事を叶える力を、神が授ければいいだけじゃ。簡単なことじゃの』
……はい?
つまり、私が色々と頑張ってきたことは、無駄だったってこと?
『神殺しをすれば、お主もあれらも消えてしまうぞ。まったく、だから落ち着けと言っておる』
「すぅー、はぁー。もちつきました!」
『もち……いや、話しをすすめるかのう。お主が行ってきたことにより、儂が願い事の残りを使って力を与えられるようになったのじゃよ』
つまり?
『儂の神の力をお主に貸すことで集めた五行を安定させると、アレらの業を消すことができるということじゃ』
「やったー!! 神様ありがとー!!」
『……まぁ、本当に解放されるのかは知らんが』
お爺ちゃん神様が何かぶつぶつ言っていたけど、喜ぶ私はこの先の不安を忘れて、今は喜びMAXでお酒を浴びるように飲むのであった。
『あ……儂の酒……』
「ひゃっふぅーい!!!!」
むしろ酒を浴びるのであった。
皆、飲め飲め!!!!
祝い酒じゃーい!!!!
それから。
私の生活は元に戻った。
賑やかだった自宅も元の静かなワンルームに戻ったので、いつかこの部屋を引き払う時に揉めることもないと思われる。
元に戻らなかったこともある。
家事スキルが限りなくゼロに近い私だったから、元の状態(ゾンビ生活)に戻るかと思っていた。
だがしかし、あの御二方にぬかりは無かったのである。
「あ、今日もご飯ありがとう。前日飲み会で、朝のお味噌汁は赤だしが最高だよー」
『……』
「そういえば飲み会で聞いたんだけど、営業の池手くんが結婚するんだって。授かり婚、めでたいよねー」
『……』
「キラキラ君は工場に異動して、管理部で扱かれているらしいよ。あそこのおじさんたち、けっこう厳しいんだよね。お酒好きだから飲み会をすれば仲良くなれるんだけどさー」
『……』
静かな生活だけれど、もともと私の近くにいた守護霊?みたいな人たちは、そのまま家事をしてくれている。
一緒にやることもあるけれど、仕事が忙しい時は全部やってくれるのだ。
ああ……ダメ人間へのカウントダウンが、音速で進んでいるぅ……。
冷蔵庫にあるホワイトボードで会話もできるから、本当に便利です。
ありがとう、私の守護霊?たち。
そうそう。
五行の小動物たちは、異界でしっかりお仕事をしているみたい。
時々遊びに来ることもあって、仕事で疲れた私にモフられたり撫でられたりしている。アニマルテラピー最高です。
藤乃と氷室さんは、あの後私に謝ってくれたよ。
でも、事前に知ってたら神様が出てこない恐れもあって……人として強い想いが必要だったというのもあったらしい。
確かにお世話にはなったし、感謝はしている。でも、ああいうドッキリみたいなのは勘弁してほしい。
涙腺が壊れたかと思ったよ。
それと。
解放されたアカガネさんとギンセイさんは「また来る」と言って、あっけなく消えてしまった。
でも、不思議なことに胸の奥はあたたかいままで、ぜんぜん悲しくも寂しくもないんだよね。
「だって、また来るって言ってたし」
それがいつになるかは分からないけれど。
次に会う時まで、少しずつでいいから。
御二方から、甘やかされても困らないくらい、頑張って生きようと思うんだ。
春。
桜の花びらが舞う大通り。
澄んだ空気が嬉しくて、深呼吸しながら歩く私。
不意に強く風がふいた。
その向こう側に見えるのは、ゆらめく二つの影。
笑顔と弾む心をそのままに、私は駆け足で飛び込んでいく。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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