33、そろそろ向き合おうか
封印からの解放と、自由。
御二方からの言葉に私はぼんやりと考える。
「彩綾、どうした?」
「ねぇ藤乃。私はどうしたらいい?」
「いやこっちが訊いているんだけど……彩綾の好きにしたらいいと思う」
「ぐぬぬ」
そもそも、藤乃の忠告をうっかりスルーしてしまった結果が、今の状況なのだ。
私がおっちょこなのは理解しているけれど、つい藤乃を頼ってしまって申し訳ない気持ちになる。
「いつも頼っちゃってごめんね」
「そうじゃない。今の彩綾があるのは、どう転がろうとそこの二つがいたからでしょ。それらが彩綾の好きにしたらいいって言っているんだから、そうすればいい」
「お、怒ってないの?」
「過去は変えられないし、これはもう彩綾だけの問題じゃないと私は気づいた。何が悪いのかと聞かれたら、私は「運」だと答えることにする」
「Oh……あんらっきーがーる……」
この歳になって自分をガール呼ばわるするのは少し恥ずかしいけれど、きっと昔から私は運が悪かったに違いない。だからガールでいいのだ。
『運の悪さっつーのは……昔から彩綾の家系は魂が弱くて、それを俺らが補強したってのもあるな』
『こう見えて私とアカガネは人気がありますからね。力を与えたことにより、彩綾は嫉妬されることが多かったと思いますよ』
アレらが加護を与えている人間には感情が繋がりやすいですからね、とため息まじりに語るギンセイさん。
確かに、ここぞという時の運は悪くないけれど、日常生活の何気ない不運は昔からよくあった気がする。
鳥のフンが直撃したり、犬猫のブツを踏んだり……運なだけにね。(急に寒い)
あ、でも。
「家族が健康でいるのは御二方のおかげなのかぁ……。それなら私の運なんて気にしないことにする。元気が一番だもんね」
「きゅ!」
「しゅ!」
「みゅ!」
もふもふすべすべもちもちから顔にしがみつかれて、首がもげるかと思ったけど息が苦しいだけだった。むごむご。
『こらこら、抱きつくなら背中にしておけ。顔と胸はダメだ』
『消しますよ』
素早く顔から引っぺがしてくれるアカガネさんと殺気を放つギンセイさん。
まぁまぁ、子どもがやることなんだから落ち着いて。
『子どもだからこそ教育が必要なんだろが』
『己の弱さを自覚しているようですからね』
御二方を落ち着かせるために、藤乃が持ち込んだ日本酒をお酌しながら思い返す私。
ここまで色々と御二方から聞いた話をまとめると……。
・とある世界で罪?を犯した御二方は、力を封印された。
・異界で働いた期間で、御二方の封印が解かれていく。
・御二方の仕事は、異界にある「管理局」から与えられているらしい。
・私が各所で「やらかした」ことは、結果的に御二方の仕事に関わることだった。
『まぁ、そんな感じだな』
「前世の私とかは、こういうことをしなかったんでしょ? なんで今世はこんなことになっちゃったんだろう……」
『それは彩綾が願ったからですよ』
ん? 御二方を知らないのに、願った?
頭に「?」を飛ばしまくっている私に、藤乃は呆れた顔をする。
「もう忘れた? そもそも今の状況は、近所の神社で願いを叶えてもらったのが始まりだろう」
はっ!! そうだった!!
あの白い着物姿のお爺ちゃんと、神社の境内でプチ宴会した時に、私が「毎日イケオジを眺めていたい」って願ったから……うわーん!! やっぱり私のせいだったー!!
そんな過去はさて置き。(現実逃避とも言う)
翌日、せっかく温泉に来ているのだからと、私と藤乃は早朝の露天風呂に入ることにした。
ちなみに飲んだくれていたイケオジ神様たちは放置である。
「ウパちゃんは異界に帰らなくてもいいの?」
「みゅー」
「そっかぁ。じゃあ一緒にお風呂しよっか」
「みゅみゅ!」
もちろん何を言っているのかは分からないけど、なんとなくそうかなって会話をするのが楽しい。
そんな私を見て、藤野が盛大にため息を吐いている。
「異界の謎生物と関わっているのに、彩綾は呑気だな……」
「かわいいは正義ってやつだよ。ねぇー?」
「きゅぅー♪」
「しゅぅー♪」
「にゅぅー♪」
お湯を入れた三つの風呂桶に、それぞれ入っている異界の小さきものたち。
やはり、かわいいは正義だ。
露天風呂は山の中腹にあって、周囲の景色が一望できるようになっている。
山と森と川と……そして森がすごい。緑が濃い。
「それで? 彩綾はどうしたい?」
「うーん……」
もしかしたら御二方のことについては、近所の神社にいたお爺ちゃん神様に会ったら何かヒントもらえそうな気がするんだよね。
あれから何度かお参りしたけど会えないから、望み薄なんだけど。
もしかしてだけど、最初に会えたのってすごくすごく運が良かった……とか?
「氷室に聞いてみようか。そろそろ流れが視えてくるだろうから」
「ん? 流れ? よくわからないけど、ヒントをもらえるなら嬉しいかも」
「了解」
以前、色々と予言めいたことを言った不思議キャラ氷室さんの名前を出した藤乃は、お風呂から上がってすぐに連絡を取ってくれた。
なんと、今日の夜に会えるとのこと。
「普段は予約いっぱいで取れないんだけど、こういうタイミングは外さないんだよね。氷室は」
「あっちが選んでるみたいに言うね」
「人を選んで仕事を受けるタイプだからね。あの人」
へぇー……って、もしや氷室さん、藤乃が私のことで電話をすると分かってたってこと? マジで?
引き続き、実家の手伝いをさせられているキラキラな新人君に別れを告げ、さっさと帰ることにする私たち。
氷室さんへのお土産は地酒です。辛口日本酒と、肴になるカラスミをチョイス。
もちろん、私とイケオジたちのも大量に(経費で)買ってもらいましたよ。
鬼さんたちもお酒が大好きみたいだからね……さすがに私が全額払うのはキツいからね……。
「温泉まんじゅうくらいは払っておくからね」
『遠慮すんなよ』
『そうですよ。もっとおねだりをしていいくらいの働きを、彩綾はしているのですから』
昔から人に奢ってもらうのって、苦手なんだよね。
特に、御二方とは対等でいたいというか……。
『彩綾……まったくお前は……』
『そういうところですよ……』
そういうところって、どういうところ???
お読みいただき、ありがとうございます。




