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イケオジ神様たちに甘やかされて困っ……てません!  作者: もちだもちこ


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32、昔々の遠い世界の物語


 右肩に金色の毛玉、左肩に白い蛇、頭の上に灰色のウパールーパーという面白い状態になっている私は、御二方から話を聞くべく布団を敷き詰めてお菓子と飲み物をしっかりと準備していた。

 もちろん、藤乃が持ち込んだ日本酒もいただく予定だよ。


『おい、俺らは真剣な話をしようとしてるんだぞ』


『彩綾ですからね。ほら、話を進めますよ』


 アカガネさんは不服そうにしているけれど、重い内容の話をされるのであれば、なおさらリラックスムードで聞きたい。

 できればハッピーエンドの物語がいいなぁ。


『……期待に応えたいところだが、あまり楽しい話じゃないぞ』


 そう言いながらも、アカガネさんは私の頭(の上にいたウパちゃんをつまみ上げてから)やさしく撫でてくれる。


 アカガネさんとギンセイさんは、お互いの話を補いながら話してくれた。







 ここではない、どこか。

 その世界にも同じように人間という生き物がいて、動物や植物が存在する。しかしひとつとして同じではない世界が、宇宙には無数に存在しているという。


 彩綾が名付けた「アカガネ」と「ギンセイ」がいた世界にも人という生き物がいて、彼らは常に争い、戦いにあけくれていた。

 中には平穏や安定を求める温厚な種族もいたのだが、それらは荒事を好む種族によって淘汰されていった。


 二人とも戦うことは好きだったが、人を殺すことを彼らは好まなかった。

 殺してしまっては、戦うことができなくなってしまう。それでは楽しくないと彼らは考えていた。

 しかし自らを神と名乗る者たちは彼らに人を殺すことを命じ、強要してきた。


 従わないわけにはいかなかった。

 なぜなら、彼らには守るべき家族がいて、それらを盾にされてしまったから。







「ちょっと待って。なにその神ってやつ。最低最悪なんですけど」


 思わず口を挟んでしまう。

 だって、めっちゃイライラするんだもの。なんだそいつ。しかも勝手に神を名乗っているだけじゃない。

 御二方の家族を盾にするなんて、ギッタンギッタンにしてやる!!


「落ち着け彩綾。もう過去のことだろう」


「でも!!」


 鼻息荒く怒りを表現する私に、藤乃が「どうどう」と背中をさすってチョコレートを口に放り込んできた。もぐもぐラムレーズンが入っているチョコおいしい。


『彩綾がそうやって怒ってくれるから、俺らは救われているんだ』


『その神とやらは粛清されましたから大丈夫ですよ』


 ギンセイさんの微笑みに、粛清についての詳しい内容は聞かなくてもいいかなぁと思った私である。


『まぁ、その粛清とやらをしてもらう代わりに、俺らは管理局に行くことになったんだよ』


『交換条件としては、体を動かす機会が少なくなったこと以外、不満はないですよ』







 勝敗が決まれば次の戦いが始まるという、泥沼状態が何百年と続いていた。

 その中で、同じ戦場で共闘することが多かった二人は親交を深めていく。

 二人は目立つ『色』を持っていた。


 赤、黒、金。

 青、白、銀。


 彼らの戦う様子は美しく、武器を振るっていても舞のように軽やかで自由だった。

 誰もが彼らに憧れ、やがて戦場に身を投じていく。


 それを罪というのならば、それでいい。

 長いこと、彼らは家族や戦場にいる人々すべてを守るために戦い続けていた。

 何十年、何百年、それは続くと思われていたのだが……。


 ある日、天よりも高いところにおわす方々より裁きが下される。

 戦いの日々に心も体も限界だった二人にも、等しく裁きは下された。

 彼らは、人を、生きとし生けるものたちを殺しすぎたのだ。


 それでいい。

 彼は言った。

 そうしてほしい。

 彼も言った。


 やがて、彼らの願いは届くことになる。

 彼らが殺した魂の数だけ、彼らの力は封じられた。

 そして、彼らは異界にある『管理局』で、彼らの『色』を使い、永遠と同じくらいの時を過ごすこととなったのだ。







「なんで! アカガネさんもギンセイさんも悪くないのに!」


『俺らは殺しすぎたからな』


『人だけではなく、動物や植物、多くの生き物を殺しましたからね』


「でも……」


 何かを守るために戦うことで生き物を殺してしまうことが、正しいか間違っているかなんて。…簡単に言えないことは私だって理解している。


 それでも、私は、私だけは。

 御二方は「悪くない」と言いたかったんだ。


『この世界での神なんて、小さな存在だ。彩綾が最初に会った御方は……まぁ、デカいほうだけどな』


『管理局で働くことで償えるのであれば楽なものです。それに、彩綾の魂と出会えましたからね』








 思いのほか真面目に働く彼らは、早くから管理局内でも一目置かれる存在となる。

 部下をつけられ、休日には二人が管理する世界に降りることもできるようになった。


 そのように過ごす中、たまたま取った休日のこと。

 異界に迷い込んだ魂を助けたのが、そもそも始まりだった。


 その魂は小さくとも輝くは強く、二人の心を動かすほどの「何か」を持っていた。

 二人は消えかけた魂に力を与えて、再び現世に返す。それで終わりだと思っていたが、次の休日には同じ輝きの魂が同じ場所に戻ってきているではないか。


 魂には役割があるようで、よくよく観察すれば「異界から何かを持ち帰る」といった内容の『呪』が混じっている。

 運悪く、最初に二人が力を与えたことにより、その『呪』が強くなってしまったようだ。

 何度か『呪』を剥がそうとしたが、それをやると魂の力が弱くなってしまう。


 二人は考えた。

 次の休日には、同じ場所に魂が戻っているだろう。

 ならば今回の休日中に魂を現世に返し、その行く末を見守ろうではないか……と。







 アカガネさんとギンセイさんは、優しい表情を私に向けた。


『だから、俺らがここにいるのは、彩綾の魂が俺らを選んでくれたからだ』


『何度も私たちに会いに来てくれましたから、絆されました』


 そんな、生まれる前のことを言われても……。

 などと文句を言おうと思ったけど、何となくわかっちゃうんだよね。その魂の気持ち。


 弱っている時に優しくされたら懐いちゃうよね。なんていっても私は子犬体質だし。

 犬ではない。子犬というのがポイントだ。

 今は一応「大人」だから抵抗できているけれど、本当は御二方にたっぷり甘やかされたいという子犬的な願望がある。欲望でも野望でもいい。


 おや? そういえば……。


「御二方の休日って、どれくらいだっけ?」


『とりあえず百年だな』


『彩綾の今世の終わりまでは休むつもりですよ』


「ガッツリ看取る気満々じゃん!」


 老後の心配をしなくていいのは嬉しい……じゃなくて。

 私が今やっている、二人を知るために動いていたアレコレは、これからどうなっちゃうの?


「だから言っただろう。彩綾がやることじゃないと」


『確かにそうだけどな。彩綾のおかげで、俺らの仕事は減ったんだぞ』


『彩綾のおかげで、いくつか封印された力が戻りましたよ』


「封印された力が全部戻ったらどうなるの?」


『自由になる』


『解放されます』


 そう言った御二方の顔は全く違うのに、まったく同じ表情をする。

 それは、晴れ晴れとした中にも少しだけ寂しさがあるような……胸がギュッと掴まれるような微笑みだった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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