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イケオジ神様たちに甘やかされて困っ……てません!  作者: もちだもちこ


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18、そろそろ専門家に相談だと思う


 玉砂利の上を、転ばないよう走っていく。

 赤い着物は気に入っているけれど、動きづらいから苦手だ。


「逃げなきゃ……」


 どこに逃げよう。

 せまくて暗い、押し入れに入らないと。


「逃げなきゃ……」


 誰から逃げているんだろう。

 でも、捕まったら大変なことになっちゃうから。


「逃げないと……」


 何が大変なんだっけ。

 押し入れに入って、お布団にもぐって。


 それから。

 それから。


 あの人を待つんだ。







「赤い着物……」


『どうした?』


『着物のほうがよかったですか?』


「いや、服装についてはお気になさらず」


 やたら空いている電車にのって向かっているのは、私の実家だったりする。

 金曜の夜に母から「アスパラ届いたよ」メールが来たため、急きょ取りに行くことにしたのだ。


 それと、もうひとつ。


「まさか、実家の近くに印があるなんてね」


『まさか、生まれ育った場所の地図が読めないとは思いませんでしたね』


『いいじゃねぇか。かわいくて』


『そうですね。かわいいですね』


「方向音痴って、かわいいの?」


 イケオジたちの感性が迷子になっている件。


 地図の本だった「おいでよ! 魔界の地へ」には、いくつか印がついている。そこが魔界……ではなく、現世うつしよと別の世界が交わっている場所らしい。


『確かに魔界と言われても否定はできないな』


『あそこは化け物だらけですからね』


 化け物ってなんだろう。

 私は藤乃みたいに霊感がないから、幽霊とか怪奇現象とは無縁の生活を送っていたのだけど……どこかの神様に視力アップ? されちゃったからなぁ。


 ん? おかしいぞ?


「ねぇ、私って目が良くなったというか、視えるようになったんだよね?」


『おう。意図的に隠れている奴らはともかく、色々と視えるようになってるな』


 右側に座っているアカガネさんは、外の景色を眺めながら答えてくれる。ちなみに住宅街と果樹園があるくらいで、特に面白いものはないと思うよ。


「私、御二方とか鬼さんたち以外、視えていない気がするんだけど」


『私たちのようなものは、そうそう姿を見せないからでしょう』


「幽霊とかそういうのは?」


『視えませんか?』


 そう言ったギンセイさんは、視線を隣の車両に向ける。

 ここから見えるのは座っている老夫婦くらいだけど。


 ……え?


「ま、まさか、アレ? アレなの?」


『気づいてなかったのか?』


『彩綾の怖いというものの中に心霊現象があったので、心配していましたが……まさか気づいてなかっただけとは』


『んだよ。かわいいかよ』


『かわいいですね』


 イケオジたちの感性が迷子になっている件。(本日二回目)


 ということは、イケオジ御二方が視えるようになってからも霊的なものが近くにいたということ?

 え、それって怖くない?


『俺らが倒してるから、変なのはいないぞ』


『悪しきモノは滅していますからね』


 心強いイケオジたちよ。

 でも言動が過激なので、悪い霊の皆さんは気をつけてもろて。


 それより隣の車両にいるの、何度見ても普通の老夫婦なんだよね。

 もっと近くで見てみようかなと思ったところで、アカガネさんに腕を引っ張られる。


『あまり視て邪魔するなよ。あの二人にとって大事なところなんだ』


「大事なところ?」


『未練のある場所を回って、次の場所へ行こうとしているのですよ。迎えに来たのは女性で、男性を案内しているところですよ』


「……そう、なんだ」


 未練って、きっと思い出の場所とかなんだろうな。

 ちゃんと電車に乗って移動するのは、それも思い出のひとつだからかもしれない。


「そういえば、私のおじいちゃんとおばあちゃんも、旅行が好きだったなぁ」


『ああ、そうだったな』


『ちゃんと逝かれてましたよ』


「よかった。ありがとう御二方」


 こういうことも、御二方がいなかったら知らなかったこと。

 亡くなった方の行く末を、生きている私たちが知る必要はないのかもしれない。でも、安らかにと願って、それが叶っていると知ることは嬉しいことだから。


「あの神様にも感謝しないとね」


『そうだな。最初は余計なことしやがってと思ったが』


『私も少し複雑ですが、彩綾と触れ合うことができるのは嬉しいです』


 両側から交互に撫でられるのは慣れてきたけど、やっぱり少し恥ずかしい。

 いい年して甘える子どものようで、微妙な気持ちになるのだ。


『そうだ。今日はこの服装で良かったのか?』


『彩綾のご両親にご挨拶ですから、きちんとした格好にすべきかと思いまして』


「御二方とも、よくお似合いですよ。私しか見ないですけどね」


 なぜ御二方とも「両親にご挨拶」みたいなムーブなのか。ちょっとおかしいと思うのだけど。


 アカガネさんは黒の着物に赤茶色の羽織の姿、ギンセイさんは灰色の着物に空色の羽織の姿で、御二方とも羽織に紋が入っている。

 その紋の形が気になるのに、うっすらとぼやけていてよく見えない。


 とはいえ、見えても何を意味しているのかは分からない私なので、それは良しとして……。


「紋付きって、かなり気合入れてない?」


『親御さんに失礼があったら困るだろう』


『長い付き合いになるのですから』


「だからナンデ? ナンデ?」


 気合いがじゅうぶん過ぎるイケオジたちに首を傾げながら、電車を降りて歩くこと数分。

 色とりどりの花に囲まれた実家に到着。


「うん。相変わらずだ」


 門から玄関に向かうまで、わっさわっさと庭に生えている植物たちをかき分けていく。

 今日は晴れているからいいけれど、雨の時は本当に面倒なんだよね。傘の意味なく全身が濡れるからね。


『これは……。アカガネ、見えますか?』


『ああ、こりゃ思いっきり影響出てやがる』


 何やら納得している御二方がいるけれど、虫がすごいんで私は先に入ってますね。どうぞごゆっくりー。


『つれないですね。そこがたまらないのですが』


『なんだ、拗ねてんのか? かわいいやつめ』




 御二方の趣味嗜好が迷子すぎて、わりとガチで心配になってきた件。



お読みいただき、ありがとうございます。

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