12、どう考えても炎上する流れ
さて、仕事は終わった。
イケオジ御二方は(すごくすごく)渋々と「外」で待っていることを了承してくれた。
会場は会社から数分ほどにあるイタリアンバルで、ワインをはじめとしてクラフトビールも置いてある、居心地のいい飲兵衛にはたまらないお店だ。
たまに店主が取り寄せた珍しい生ハムが原木で置いてあったりして、それでパスタやピザを作ってくれるので、それが楽しみのリピーターも多くいるとのこと。
かくいう私も、イケオジ御二方を見る前までは外食が多かった。外飲みも多かった。
今は全く逆の生活(おうちご飯)になっているから「人って変われば変わるもの」だと思う。
うん。料理どころか家事全般、私がやっているわけじゃないけどね!!
私は記憶をなくすほど飲んだことないし、酔いつぶれて「お持ち帰り♡」などをされてしまうほどカワイイ歳でもない。
だから過剰なくらいの過保護は必要ないのだけど、イケオジたちにとって私は子どもみたいなものかもしれない。(昔からいるっぽいし)
ギンセイさんもアカガネさんも、今日はずっと着流し姿だ。
『気合を入れる必要がありますからね』
『何かあったらすぐに呼べよ』
あくまでも今日の飲み会は「同期会」であって「合コン」ではない。
だから心配いらないよと笑って、待ち合わせ場所へと向かったのだけど。
「だからさ、俺は河野が心配なんだって」
「へぇー」
あ、このタコのカルパッチョおいしい。白ワインと合わせたいなぁ。
この前の美術館に隣接していた「お高いレストラン」で判明したのだけど、御二方ともワインが苦手みたい。外でしか飲めない今日がチャンスだ。
「連休前は様子がおかしかったし、今はやたら幸せっつーか、満ち足りてるオーラみたいなのだしてるし」
「ほぉー」
もち豚のソテー、やわらかくておいしい。ガーリックソースがビール飲みたくなる。もち豚の「もち」って何だろうと思う。あと、もち麦の「もち」もよく分からないよね。なんか知らないけどもちもちしてそう。
ちなみにアカガネさんはビール好きだけど、ギンセイさんは苦手みたい。そして御二方が共通に好きなのは、やっぱり日本酒だ。
「俺たち、同期だし気も合うし、何でも話してくれよ。な?」
「ふぅーん」
ギンセイさんが家にあると言ってた「秘蔵の日本酒」って何だろう? 蔵で直売しているラベルなしのとかかな? あれは早く飲まないと味がすぐ落ちちゃうんだよね……。
「お前、俺の話聞いてる?」
「聞いてるよ」
池手くんは、営業部のエース。
交友関係も多いし、同期の皆や同僚たちからも慕われている「お買い得物件」だということで社内でも有名だ。
そんな彼は、ちょいちょい私を構ってくるのだ。
……そこに恋愛感情は無いと思っていたのだけど。
「池手くぅーん、こっち来なよぉー」
困った時の肉食系女子……じゃない、池手くんを狙っている女性が自分のいるテーブルへと招く。
まだ言い足りないといった様子でこっちを見る池手くんを、笑顔で送り出す。
「行ってきなよ。私のことは心配いらないからさ」
「すぐ戻ってくる」
去っていく彼の背中を見ながら、やれやれとグラスに残った柚子ジンジャーエールを飲み干す。
そして、池手くんと入れ替わるように同僚女子たち(全員既婚者)が隣に座る。
「ちょっと河野ちゃん! 池手を肉食獣に差し出して良かったの!?」
「あの様子じゃ、今夜食われちゃうんじゃない!?」
「このままでいいの? 普段から塩対応じゃなく、たまには砂糖もあげないと他に取られちゃうよ!」
「いいも何も、そこは本人次第でしょ」
「えー!!」
「もったいない!!」
「有望株だよ!!」
「それに私、今はそれどころじゃないし」
わいわい騒ぐ同僚たちに向けて「ちょっと家で色々あって……」と意味ありげに呟けば、すんっと大人しくなった。
そうなのよ。色々あったのよ。
えんもたけなわになり、そろそろ店を出るとなった時に池手くんが声をかけてくる。
「この後、二人で飲みに行こう」
「お断りします」
「なんで?」
酔っているのか、ふらついている池手くんは私に寄りかかってくる。ちょ、重い、つぶれる。
周りからは私が見えないみたいで、誰も騒ぐことはない。後ろの壁と池手くんに挟まれて苦しくなってきたところで、急に重さが無くなった。
「失礼。彼女が苦しそうですよ」
「ああ? っと、ごめん河野、大丈夫か?」
「う、うん……」
思わず座り込んでいた私は、差し出された大きな手を握って立ち上がる。するとそのまま、ふわっと抱きしめられた。
「なっ!?」
「彩綾、もう終わりでしょう? 帰りましょう」
「え? あれ?」
少し離れたところにいる池手くんがいることに気づいた私は、自分を抱きしめている人物を見上げると……白金色の髪は短めに整えられていて、水色に銀色が混ざった不思議な色の切れ長の目には眼鏡がよく似合っている。明らかにブランド物であろうダークグレーのスーツと水色のシャツは彼の体にとてもフィットしていた。
「ギンセイさん?」
「はい。あちらでアカガネも待っていますよ」
出口のところで、同期女子たちが騒いでいる。
その真ん中にいるのは、体格のいいやたら目立つ男性が。
肩くらいまでのウェーブしている黒髪をハーフアップにして、褐色の肌によく映える金色の目は私に向けられている。
赤いシャツと黒いスーツという組み合わせのアカガネさんは何と言ったらいいのか、とにかく色気が半端ない。
ギンセイさんが清廉とした美しさをまとう色気なら、アカガネさんは野性と妖しさが混じった色気という感じ?
ごめん。ちょっと混乱していて、何を言いたいのか分からなくなってきた。
とりあえず今の状況を整理すると、だ。
「なんで御二方が、皆に見えてるの?」
と、いうことである。
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