小市の覚悟
宗章と宗矩が互いを牽制し、睨みあっていた。
「宗矩様が動けぬ今、我らで始末する」
小市達を取り囲んでいた集団の中から、一人の若い男が、進み出て叫ぶ。
すると皆、刀を抜き、満身創痍の蔵人と震えながら、蔵人の着物を掴む小市に向ける。
「させぬ!」
(キィン、キィン)
「くっ、柳生本家の若様かっ」
「わしもおる」
(キィン)
「又右衛門まで」
「本気なのだな」
「お互い、引けぬようだな」
小市達を取り囲む男達に、斬撃を繰り出し、割って入ると、小市の傍に立つ柳生利厳、荒木又右衛門。
「熊田の名が泣くぞ!忠茂!宗茂の親父殿は知っておられるのか?」
「クッ、、、」
進み出ていた熊田忠茂に対して、話しかける又右衛門。
「兄上、やはり私には、小市様を斬る事など、出来ませぬ」
「我らも、お市様の意思を裏切れませぬ」
「なっ、錦千代!お主等まで!」
周りを取り囲んでいた集団から、数名の男女が抜け出し、小市の回りに集まると、取り囲む集団に、刃を向ける。
「兄上、この場に父上や母上が、いらっしゃれば、私と同じ事をされるはずです」
「だまれっ、一時の感情で、このような行為、行っておるとでも思っておるのか!」
「しかしっあに」
「小市様が、生きて居られれば、お市様が・・・。我らは、お市様を守る近衛衆ぞぉ!お市様の為であれば、錦千代!お主とて斬る!」
「お市様はそんなことを、望んでおりませぬ」
「織田には、いや、民には、お市様は必要な方なのだ。小市様よりも大事なのだ」
「兄上っ!」
忠茂と錦千代が、お互いを睨みつける。
「こいちが、ちねば、いいのかな」
小市が、震えながら、進み出ると、持っていた守り刀を抜く。
「そうです、小市様が生きて居られては、お市様は命を犠牲に、上様と交渉をされてしまう」
刃を下に向けて、震えながら、悲しく呟く忠茂。
「わかった、みんなのためになるのなら、ちぬね」
満面の笑みを浮かべ、守り刀を胸に向かって刺そうとする小市。
「なっ!なりませぬぅ」
「いかんっ!」
「クッ!」
「しまったぁ!」
「止めぬかぁ!」
呆気に取られていた一瞬の隙に、自害しようとする小市を、止めきれず、叫びながら、小市の元に向かう錦千代達。
「「申し訳ありませぬ、、、小市様」」
宗矩と忠茂は、手に持っていた刀を落とし、下を向き、涙を流しながら、悲しく呟く。
鞍馬の山で、鬼一と修行に明け暮れる天子は、ボロボロの姿になりながら、鬼一に立ち向かっていた。
「弱すぎるのう」
鼻くそを穿りながら、呟く鬼一。
「なんなのよ、あの爺、、、」
「爺ではない、素敵な翁と呼べ」
「クッ、言う訳ないだろうがぁ!くらぇ、、、グハッ」
最後の力を振り絞るかのような渾身の右ストレートを、軽く避けられ、鬼一が放ったクロスカウンターを、顔面に食らう天子。
「こやつ・・・馬鹿なのか?」
「、、、ふっ、、、きっ、きかぁ、、、ないわぉ」
呆れた顔をして、呟く鬼一に対して、産まれたての小鹿のように、立ち上がり、強気な発言をする天子。
「しかし、お主、打たれ強いな。いや異常だな、その打たれ強さは・・・でも馬鹿すぎる」
「馬鹿言うな!言うお前が馬鹿じゃ!ばかぁばかぁ!」
「子供か、、、」
肩を落としながら、引き攣った顔をする鬼一。
「何度も、お主位は、容易く滅せられるほどの威力を込めて、殴っておるのだが・・・馬鹿だからか?」
こやつ、崇徳の体の一部とはいえ、ありえぬ耐久力じゃ。
しかも、回復する早さが異様じゃ、それに攻撃を食らうほどに、どんどん早くなっておる。
もうわしでは、こやつは滅せる事は出来ぬやも知れぬな。
「殺すっ!絶対殺す・・・えっ」
血走る目で、鬼一を睨みつけていた天子は、何とも表現出来ない嫌な不思議な気持ちを感じる。
「んっ?どうした?小娘」
天子の変化を感じた鬼一が、天子に語りかける。
「それが、なんか・・・変な感じがする」
「なんじゃ、変な性癖でも覚醒したのか?」
真剣な表情の天子を見つめながら、鬼一が茶化す。
「いや、そんなんじゃない、すごく嫌な感じがする」
「ふむ」
真剣に答える天子の反応に、鬼一が真剣になり、天子を見つめる。
「なんだろ、、、気持ち悪い」
顔色を悪くしていく天子。
「お主、魂の回廊が開いておるぞ」
それを静かに見つめていた鬼一が、呟く。
「えっ?魂の回廊?なにそれ?」
キョトンとした顔で鬼一を見つめる天子。
「ふむ、お主は魂の回廊を知らぬのか。ならば、無意識に繋げたままにしておるのだな。それでその者が、危険な状態にあるのであろう」
「えっ?誰と繋がってるの?」
「知らぬ」
「・・・役にたたねぇな」
「お主が、繋げた相手など知るか!」
「あたしが、繋げた相手・・・まさか」
「なんじゃ心当たりがあるのか?」
「爺ぃ!その繋げた相手が危ない状態って、どういうことよ!」
「なっ、はやっ、、、ぐっうぅ」
素早い動きで、鬼一の胸倉を掴み、絞め上げる。
「早く言いなさいよ!早く!」
「はっ、はなっ、せぇ、、、はぁなぁ、せぇぬ、、、グッめっ、滅せられるかとおもうたわぁ!」
天子の絞め上げから、解き放たれると叫ぶ鬼一。
「早く言え、、、滅するぞ」
「はい、天子様の繋げたお相手が、生死に関わる状態なのかと」
静かに殺気を放ち語りかける天子に対して、完全に飲まれてしまう鬼一。
「なんですって!急いで行かなきゃ!助けなきゃ!」
「走って行くきか?」
急いで走り去ろうとする天子に、鬼一が冷たく話しかける。
「えっ・・・」
急に立ち止まり、鬼一を見つめる天子。
「魂の回廊が繋がっておれば、転移で行けよう・・・やっぱり馬鹿じゃな」
「うっさい!そんなの知らないわよ!どうすれば、転移できるのよ!」
「転移も碌に出来ぬのか。まぁ良い、思い浮かべて念じればよい、その者の名を心の中で叫び、その者の傍に行きたいと願え」
「・・・・・っ!(小市!あたしは貴方の傍に行きたい!!!)」
一瞬で鬼一の前から、消える天子。
「ほう、このような転移、始めて見るのう」
普通は残像を残しつつ、能力の高さで早さが変わるが・・・。
一瞬で転移しよったわ、このような転移は、全盛期の崇徳でも無理であろうな。
思わず、口から感嘆の声を漏らす鬼一であった。
あたち、ちぬんだな。
でもこれで、みんながたすかるのならいいよね。
おおばばさま、ごめんね。
やくそく、まもれなかった。
てんこ・・・さいごにあいたかったな。
ゆっくりと胸に向かって、伸びてくる守り刀の刃を見つめながら、小市は思う。
「そんなの駄目に決まってるでしょ!」
突き刺そうとした守り刀が、動きを止めていた。
「えっ、、、」
動かなくなった守り刀の刃を見つめた後、自分の手に、優しい暖かい温もりを感じる小市。
「勝手にこんなことしちゃ駄目でしょ!小市は、あたしの一番最初の友達なんだから!」
「てっ、てんこぉ」
守り刀を落としながら、目の前に現れた天子に泣きながら、抱きつく小市。
「よくも、あたしの小市を、寄って集って苛めてくれたわね、、、呪ってあげようか?」
優しく、小市を抱きしめ、周りを睨みつけながら、静かに話す天子であった。




