決着と裏切り
「セイッ!(シュ)」
陣幕を切り裂き、姿を現す黒き鎧を身に纏った男。
「だっだれじゃ!」
頼長が切り裂いた陣幕から、姿を現した男に叫ぶ。
「ふっ、会いたかったのではないのか?頼長」
「まさか!伊達、、、忠宗か」
「如何にも、我が首欲しくて、此処まで追ってきたのであろう?任務すら忘れてな」
馬鹿にしたような顔をして、頼長を見つめる忠宗。
「クッ、忠政は!忠政は如何したのじゃ!」
「義父様が、相手をなさっている。最早、お主を守る者など、其処にいる取り巻き位だろうな」
怒鳴りながら、問いかける頼長に対して、周りにいる者達を見ながら、冷たく答える忠宗。
「奴は一人じゃ!皆でかかれば良いのじゃ!行け!」
「「「はっ!」」」
頼長の言葉に従い、近習達が、忠宗に叫びながら、斬りかかる。
「甘いなっ(シュッ)」
「(ドスッ)グアッ、、、」
「なっ!」
「若を一人で、お主等の元に向かわせるとでも、思ったのか?」
忠宗の脇から、漆黒の槍が飛び出し、忠宗に斬りかかった男に突き刺さる。
「もう駄目じゃ、、、」
「ああっ、、、」
「うわぁぁ!」
頼長の周りにいた者達が叫びながら、本陣から逃げ出す。
「なっ!逃げるな!我を守れ!」
「愚かよな、そのような者達にしか、慕われておらぬとは・・・ある意味、不憫よな」
「なにっ!お主如き、、、(ザシュ)グハッ」
「我とした事が、一撃で仕留めてしまうとは、お主には・・・地獄のような苦しみを与えてからと、思っておったものを」
刀を抜き、立ち向かっていく頼長。
しかし、迎え撃つ忠宗の放った一振りの斬撃で、切り裂かれ、容易く事切れる。
そして、頼長を忠宗に討たれた討伐軍は、完全に瓦解し、頼長が集めた兵が、逃げ出し始める。
「逃がすな、全て討ち取れ!民に害を成す者等!生かしておくでない!」
「はっ!これより掃討にかかれ!一人として逃がすな!」
頼長の首を掴み掲げながら、叫ぶ忠宗。
それに答える、小十郎達。
「どうやら、お主の大将は、わしの娘婿殿に討たれた様だな」
「フンッ、お通様の娘婿であろう」
「なにっ!通の子でもあるが、わしの子でもあるわ!」
「伏姫は、美しく思慮深いお通様の良く似ておられる。お前に似ておらぬ故、それが救いよ」
「なにぃ!」
数え切れぬほどの傷を双方受けても尚、軽口を言い合う二人。
「そろそろ、決着を付けるとしようか」
「降伏してはくれぬのか、忠政」
真剣な目に変わり、信幸を見つめ、話しかける忠政に、降伏を促す信幸。
「無理だな、民が納得はしまい・・・それにお主には討たれる訳には行かぬのでな!死ね信幸!(シュッ)」
「クッ、、、(グサッ)」
忠政の放った槍を避け切れず、肩を貫かれる信幸。
「さらばだ、信幸」
「・・・・・・」
槍を上段に構え、信幸に向かって、振り落とそうとする忠政。
「お待ちなさい!忠政!」
白馬に乗った女が、忠政の前に躍り出る。
「なっ!おっお通さ、、、」
槍を上段に構えたまま、硬直する忠政。
「我が夫、信幸様を斬るなら、先に私を斬りなさい!」
忠政を睨みつけ、叫ぶ通。
「そっそんな、、、」
「早くなさい!」
「出来ませぬ(カランッ)」
手にした槍を力なく落とす忠政。
「旦那様、腕が鈍ったのですね」
「先に言う言葉は、大丈夫ですか?とかであろう!」
槍を落とす忠政を見届けた後、振り向き、冷たい眼差しで信幸を見つめる通に対して、信幸は刺された肩を抑えながら、立ち上がり、通に叫ぶ。
「でもこの様な風景、昔もありましたね。その時は、貴方と忠政殿の立場が逆ではありましたが・・・」
二人を見ながら、呟く通。
「お通様、我を・・・討ってください」
馬から下りて、座り込み、首を差し出しながら、呟く忠政。
「はい、お覚悟を!」
「・・・・・・」
「エイッ(ペチッ)」
「えっ・・・」
通は手に持っていた扇子で、忠政の首を叩く。
「これで、頼長に従った森忠政は、討たれました」
「なっなにを仰って」
驚きの表情を浮かべ、通を見つめる忠政。
「貴方が、裏で暗躍して、民を保護していた事を、分からない私だと思っておりましたの?其処にいる各務元正殿が、全て教えて下さいましたよ」
「爺っ」
「何のことですかな?」
爺を睨んだ後、下を向き、震える忠政。
「貴方は、今日より、犬田犬太郎と名を改め、私の付き人になりなさい」
微笑みながら、呟く様に忠政改め、犬太郎に問いかける通。
「えっ、、、」
「いいですね、犬太郎」
「はっ、、、はい」
通と犬太郎の会話を聞き、苦笑いを浮かべる信幸と爺に対して、何処か安心したように肩を落とし、了承する犬太郎。
「では、犬太郎!民を蔑ろにする者達を全て斬り捨てよ!」
「はっ、お通様のお言葉に従いまする!行くぞぉ鬼の力!教えてやれ!」
「「「おうっ!」」」
駆け出す犬太郎達を見つめながら、お通は優しく微笑むのであった。
市の命を受け、高野山を出立し、鞍馬山に住む鬼一の元に、急ぎ向かう小市と世瀬蔵人は、御経坂峠を越えようとしていた。
「小市様、辛くは御座いませぬか」
幼い小市を気遣いながら、話しかける蔵人。
「うん、大丈夫」
心配をかけさせないように、笑顔を作り、答える小市。
怪しまれないように、子連れ商人を装っている為、馬に乗っていないので、幼い小市には辛く苦しい状況であった。
「この峠を抜ければ、」
言葉を途中で止めて、後ろを振り向く蔵人。
「どうしたの?」
「・・・不味い」
小市の問いかけを聞き流し、顔色を変える蔵人。
「小市様、頭を下げたまま、けして動かれませぬように」
「えっ?」
「御免っ!」
小市の頭を抑えて、地面に擦り付ける蔵人。
其処に、数十騎の騎馬武者が、後方から現れ、小市達の前を通過していく。
「どうしたの?蔵人っ」
「お静かに・・・」
小市の頭を抑えながら、呟く蔵人。
「・・・(行ったか)」
蔵人が心の中で呟くと、蔵人達の前を過ぎ去った騎馬武者達の先頭を走っていた男が、急に立ち止まり声を上げる。
「とまれぇ!」
すると、追従していた者達が馬を止める。
「何故?頭を下げて顔を隠す・・・」
叫んだ男は、馬を反すと、頭を下げていた小市と蔵人の前に、馬を進めると声をかける。
「何で御座いましょう」
「顔を見せてくれぬか?」
頭を下げたまま、答える蔵人に対して、馬を静かに下りて、優しく語り掛ける男。
「何か、おありでしょうか?」
「いや、勘違いかも知れぬが、その隣に居る子の顔も見せて欲しいのだが」
「この子は、顔に火傷を負っており、お見せする訳には」
「そうか、当りか」
そう呟くと、一瞬で刀を抜き、小市目掛けて振り下ろす男。
(キィン)
男の放った斬撃を、短刀で防ぐ蔵人。
「我の斬撃防ぐか、流石は蔵人か」
「クッ、何故、小市様のお命狙いますのか!柳生宗矩様」
小市を後ろに庇いながら、男と対峙する蔵人。
「すまぬ、蔵人 (シュッ)」
「(ザシュ)グッ、、、」
「くろぉどぉ!」
宗矩の放った一撃で、胸元を斬られ、負傷する蔵人。
「鎖帷子を着込んでおったか、次は無い」
刀を中段に構え、蔵人を睨む宗矩。
周りを囲まれて、小市を逃がす事も出来そうに無い状況に、蔵人の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「お市様が、命を賭してまでも守ろうとなされている小市様を、市近衛衆の副頭である貴方が、何故!」
「小市様は生きて居られてはならぬのだ」
悲しく呟いた後に、刀を振り下ろす宗矩。
(シュッ、キィン)
「誰だ」
飛んできた小刀を刀で弾いた後、小刀を放った男を睨む宗矩。
「宗矩、お主には小市様を斬らせぬ」
「まっまさか、兄上か」
驚愕した顔を浮かべて、宗章を見つめる宗矩。
「あれほど、お市様のお傍にいて、お市様の心が分からぬのか!宗矩」
「・・・・・・」
静かに刀を宗章に向ける宗矩。
「そうか、わしと殺るのか」
「御免っ!」
(キィン、キィン、ガシッ)
共に斬撃を放ち、鍔迫り合いをする二人。
「こうして、やり合うのは、幼き時以来か」
「いえ、こうして殺り合うのは、初めてで御座いましょう」
「そうか」
二人は獰猛な顔を浮かべて話し合う。
柳生が誇る最強の剣士である二人が、お互いの感情を剥き出しにして、斬り結ぶのであった。




