それぞれの本分
森忠政を追い出した後、頼長本陣では怒り狂った頼長を静めようと、近習の者達が、頼長に酒を注ぎ、褒め称える事で、機嫌を取り繕おうとしていた。
「しかし、忌々しい。誰も彼も、わしを愚弄しよる」
怒りに任せながら、注がれた酒を飲み干す頼長。
「その様な事は御座いませぬ、奴らは、高貴なお生まれであり、才能豊かな頼長様に嫉妬しておるので、御座いましょう」
「んっ、やはりそうか」
近習の言葉に、身を乗り出し、笑顔になる頼長。
「はい、今回の市討伐を成した暁には、元帥の位を賜れましょう」
「元帥・・・か」
にやついた笑顔を取り繕おうとする頼長。
「その際には、我等の事も良しなにお願い致します」
「ふっ、官位であろうが、役職であろうが、権利であろうが思いのままよ!溢れるほどの織田の富で、世界を征服してやろうかのう」
胸を仰け反らせながら、叫ぶ頼長。
「何処までも、付いて行きます。頼長様」
「私も」
「我も」
「何のわしこそが、頼長様と共に」
次々と周りにいた者が声を上げる。
「そうかそうか、わしに付いて来い!この世の贅を堪能させてやる!」
満面の笑みを浮かべ、高笑いする頼長。
(ドンッドンッドンッドンッ)
(ドカァーン、ドカァドカァドカァーン)
「グァ!なんじゃ!何の音じゃ!」
「茶臼山の方角から、大筒の砲撃が我等の陣に、撃ち込まれております!」
「なっなんじゃと、、、茶臼山だと・・・」
手にした杯を落としながら、顔を青くする頼長。
「撃ち込まれている砲弾が、炸裂弾の為、我が軍の被害甚大!」
「さっ炸裂弾だと!その様な砲弾を使える者など、限られておろう!伊達は長坂山に封じ込めておる、伊達では無い・・・」
「茶臼山・・・まさかっ、大和の兵が動いたのでは、、、」
「大和と言えば、市派である信幸の領地じゃ!」
「不味いぞ!我が軍は1万とは言え、大和正規兵千であれば、精強差が違いすぎる!我等が集めた兵では相手にならぬ!」
「後方に待機させてある陸軍正規兵を向かわせるしか手は無い!急ぎ向かわせろ!」
近習達が慌てだし、次々に叫び始める。
「何故だ、何故逆らう・・・織田の勅命を受けた軍なのだぞ、、、」
体を震わせながら、呟く頼長。
「報告!炸裂弾による被害が広がる中で、同士討ちが起こっております!どうやら伊賀の忍びが暗躍しております!」
「なんじゃと・・・同士討ち、忍び、、、」
「伊賀城の方角より、伊賀正規兵が我が軍を攻撃しております!」
「伊賀正規兵まで、参戦したというのか!」
「クソォ、、、森忠政!柳生三厳を呼べぇ!大和伊賀正規兵に立ち向かわせろ!」
伝令の使者や近習の叫びを打ち消すように、頼長が立ち上がり、叫ぶ。
「その様に叫ばずとも、参りましたぞ」
陣幕を潜り、忠政が姿を現す。
「おおっ森!柳生は如何した!早く、陸軍を織田に歯向かう不埒者に当て、粉砕して参れ!」
「陸軍はもう居りませぬ、三厳に任せ、安土に帰しました」
「なっなんじゃと!貴様ぁ!何を勝手な事を」
「心配なさるな、我と我の付き人は残っております」
「お主達で勝てるのか!」
「分かりませぬ、やれるだけはやってみましょう」
「確信できぬのか!良いわ!こちらは1万じゃ!正規兵とは言え二千の兵など、返り討ちにしてくれるわ!」
「左様か、ならば此処はお任せする。我は、伊達の突撃に対応する」
「なんじゃと、伊達が此処へ向かってくるとでも、言うのか」
「このような機会を、見逃す事はせぬであろうからな・・・」
(相手のみならず、自分の力量すら読めぬのか・・・悲しいほど、愚かな男よ)
蔑む様に頼長を見て、静かに本陣を後にする忠政であった。
「爺、すまぬな」
「何を仰る、可成様からお守役を受けた時より、忠政様は我が子同然。最後までお供いたしますぞ」
「ふっ、仕方ないのう」
遠くを見つめながら、呟く忠政。
「しかし、森家のみならず、ご自身の命すら捨てるとは・・・其処まで、お通様を思われておるとは、爺は呆れましたぞ」
「なっ何を申す!」
慌てふためきながら、叫ぶ忠政。
「最早、この戦にて、消え行く定めであれば、愚痴の一つも溢したくなるものです」
「クッ、、、」
「あれは、お市様より、攻めの三左と可成様が名付けられ、奥州征伐の功もあり、殿の許婚として、お通様をと伝えられた事が、そもそもの間違いに御座いました」
「もう過ぎた話じゃ、、、」
「それを、お通様があの武藤昌幸の長男、信幸の嫁になると言う事が起こらなければ」
「もう良いと申した!」
「・・・・・」
「わしの我侭じゃ、すまぬ」
「いえ、我等はそんな一途な殿を好いております」
「可笑しな奴らよ・・・もう昔話も、此処までのようじゃな」
忠政は満面の笑みを見せ、付き人達を見つめた後、長坂山の方角から、黒い騎馬武者が、混乱する織田軍を切り裂きながら、本陣に向かってくるのが目に入る。
「殿の仰る通りで御座いましたな、皆!雑兵等に、殿の最後を迎えさせるまいぞ!食い止めよ!」
「「「「「おう!」」」」」
無人の野を行くかのごとく、突き進む伊達軍が、森軍の前で防がれる。
「何っ!あの家紋、鶴之紋!森か!」
「あと少しで、本陣であったものを!」
「クッ森じゃと!よりにもよって・・・鬼の一族か」
破竹の勢いで織田の陣に切り込み、あと少しの所で、森忠政率いる森軍に押さえ込まれる伊達軍。
「伊達忠宗殿は、居られるか」
「なんだとっ!お主如き、わしが相手じゃ!」
「・・・ふんっ」
(ぐわぁ、、、ドサッ)
「つっ強い!」
「良い、下がっておれ」
「しかし、」
「森忠政殿とお見受けいたす。私をお呼びの様で・・・」
「如何にも、お主が、忠宗殿か?」
「はい、忠政殿の武名聞き及んでおりますが、些かその武名偽りが、おありの様で」
「ふっ何故この様な、織田に組するのかと思っておられるようじゃな」
「・・・・・・」
「お主には分からぬ事よ・・・(ぶんっ)」
忠政が手にした槍が、忠宗の前を横切る。
「クッ」
(なんという斬撃と威圧じゃ、勝てぬ)
「我と一騎打ちを致そうぞ」
軽く微笑みながら、問いかける忠政。
「おう、受けて立とうぞ!」
(受けねば、頼長の首を取れぬ!)
「その心意気やよし、では」
槍を構え、馬を駆けさせようとする忠政と、それを待ち受けるように構えを取る忠宗の間に、馬を走りこませた騎馬武者が現れる。
「待て、娘婿をお主の槍の餌食にはさせぬ!代わりにわしが、相手となろう・・・不服か?」
「なっ!義父上」
「信幸か・・・フフフッ不服など有ろうはずがない!お通様には申し訳無いが、お主は切り捨ててくれよう!」
馬の首を、信幸に向かわせると、獰猛な笑みを浮かべて、槍を突きつける忠政。
「そうこなくてはな、婿殿・・・先を急がれよ」
「しかし」
「お主では、この男には勝てぬ!目的を見失うな!頼長の首取ってこい!」
「!っ、はっ!お任せいたします、行くぞ!目指すは本陣!頼長の首一つ!」
戦は、佳境に向かっていた。




