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市公記~外伝~  作者: 女々しい男
20/23

忠政と通

伊達軍を追い詰めたところで、日が落ちた為、追撃を中断し、陣を立てて休息する織田軍。

その中心に位置する場所に、市討伐軍総大将の任に付いていた織田頼長の本陣があった。

「伊達も運が良いわ、あと少し、日が暮れるのが遅ければ、あやつの首を取れていたものを・・・」

「日も落ち、辺りが暗くなりましたので、これ以上の追撃は困難です。此処は、しばし休息を取るのが最善かと」

「仕方ないか、しかし(クククッ)伊達忠宗?だったか、あのような少数で、我等に立ち向かうとは、愚か者よな・・・そう思うだろ忠政」

嫌らしい顔を浮かべ、笑いながら話す頼長。

「いえ、あのような見事な戦振り、流石は、政宗様のご子息であると、私は思いますが」

感情の起伏など見せず、冷静に返答する忠政。

「何っ!あのような男をその様に褒めるとはっ!」

赤い顔をして、立ち上がり、怒鳴る頼長。

「正直に申したまでの事」

「クッ、興がそがれたわ!下がれっ」

手にした、酒の入った杯を、忠政に向かって、投げ捨てながら、叫ぶ頼長。

「その前に、夜襲に対しての配置と指示を許可して、」

「煩い!あのような者達が、夜襲などかけてくる筈も無いわ!最後尾で柳生と共に、居ると良いわ!」

「しかし、、、」

「こやつをこの場から、追い出せ!」

「森殿、ここはお引きなされ。明日、頼長様に頭を下げて、お詫びいたせば、許してもらえよう」

「・・・では失礼仕る」

忠政から、背を向けて怒りに震える頼長に対して、忠政は食い下がろうとするが、頼長の近習に囲まれ、追い出されるように、その場を去ると、三厳の居る陣に向かう。

「んっ・・・森殿か」

腰に差してあった刀を抜き、見つめていた三厳は、陣幕を潜り、姿を見せた森忠政に、声をかける。

「刀剣に魂が乗り移り、魔を追い払う能力を持つと言われておる刀、大典太光世か・・・お市様の事を考えておったのか」

三厳が持つ刀を見つめながら、話しかける忠政。

「ええっ、この刀を拝領した時の事を、思い出しておりました」

「後悔しておるのか」

「・・・(市談:民の為に、その刀を振るうのですよ)(三厳:はい!民を守る為に、お市様を守ります!)私は幼すぎたのか」

忠政の問いに、沈黙し、市と交わした会話と市の笑顔が、脳裏に浮かぶ三厳。

「迷っておるのか?」

「・・・はい」

「然もあらん、わしも同じだ」

「武士とは、民を守る為にあるのだと思い、剣を振り、技を磨いてきました」

「・・・・・・」

「今の織田に、その心が見えませぬ・・・伊達を羨ましく思いました」

頭を力なく下に下げて、呟く三厳。

「そうか・・・ならば、安土に向かえ」

「えっ!」

「安土に、お市様が現れるであろう。お守りせよ」

「何故、左様な事がお分かりになられるのか」

「お主よりも、お市様との付き合いは長いのだ・・・あの方の動きはある程度分かる。それに此処は危うくなろう」

「まさか、森殿は・・・」

「言うな、わしは織田の名誉を汚した者、わしの首位、差し出さねば、民は納得してはくれまい」

「そんな、、、」

「お主が、付き合う必要は無い。織田の正規兵を連れて安土に向かえ、そこで全てが分かるであろう」

「森殿っ、、、」

「急げ、時間が無い。十中八九、伊達は夜襲をかけてこよう」

「夜襲っ!伊達にその様な力は、残っておりますまい」

「甘いな、三厳。しかしそれで良い、頼長もそう思っておろう」

「森殿っなにを・・」

「今頃は、百地衆が伊達に合力しておろう。それに呼応して、大和の兵が横槍を突けば、織田の兵とは名ばかりの烏合の軍じゃ・・・崩壊する」

「なっ!百地衆だと、それに大和兵・・・!っお通様の御指示か」

「いや、好いた女子の為に、わしが勝手にした事じゃ」

「!っ・・・」

「早くいけ」

「何か伝える事は!お通様に、言付は御座いませぬのか!」

「無い・・・」

三厳に背を向けて、消え入るような声で答える忠政。

「・・・御免」

三厳は目に涙を浮かべて、忠政に短く答えると、外に出て、織田正規兵を纏め、人知れず、安土に向かい、退却を開始する。

残された織田の軍は、頼長の集めた九千の兵だけになっていた。


「忠政殿、お辛い役目で御座いましたな」

安土に向かう織田正規兵の姿を、静かに見つめていた忠政の横に、忍装束に身を固めた、五右衛門が声をかける。

「五右衛門か、良いのだ・・・わしには過ぎた幕引きじゃ」

「森様のお陰で、上手く忍び込めました。それに服部の小僧も動きました。この功績で、民も納得します。お命を大事になされよ」

「気にするな、五右衛門。頼長の様な者を、増長させた責は、誰かが取らねばなるまいよ」

「・・・はっ」

「これで心置きなくこの首、お通様の娘婿に差し出せるわ」

笑いながら、馬に乗り込む忠政。

馬に乗り込む忠政を見て、五右衛門が懐から筒を取り出し、火を着ける。

(ひゅ~~~パァン)

天高く上がった花火が、闇の夜空に小さく咲き誇る。

それを静かに、微笑みながら、見つめると頼長の本陣に向かい、馬を駆けさせるのであった。


「あの合図は、五右衛門殿のようですな。殿!手筈通り、頼長の本陣に、急ぎ向かいましょう!」

織田軍の休息している陣から、立ち登った小さな花火を確認すると、忠宗の傍に居た小十郎が口を開く。

「いやまてっ!あれはっ、大和の方角から、(ドンッドンッドンッ・・・)何か音が」

「砲撃!織田の陣に、次々と打ち込まれておる!」

「おおっ同士討ちも始まっておる!百地衆じゃな」

「伊賀城の方角から、鬨の声が聞こえるわ!服部殿まで動いておるのか!」

綱元、成実は声を上げる。

「クッ、伏め・・・義母上様に伝えたな」

顔色を青くして、呟く忠宗。

「殿、戦よりも戦の後が、恐ろしゅう御座いますな、、、」

「そうだな、、、」

四人は肩を落として、顔色を悪くする。

「しかし、五右衛門殿の勝機があるとの言葉、この事に御座いましたか。確かに大和、伊賀の正規兵二千名ならば、織田軍1万とは言え、寄せ集めの軍・・・それにこの夜襲をかけられれば、我等の勝利間違い御座いませぬな!」

「頼康、近元らの無念晴らしてくれる!」

「よし!時は来た!目指すは頼長の首一つ!かかれぇ!」

こうして山を下り、頼長本陣に向かって、駆け出すのであった。


「あらっ可愛い、綺麗な花ですこと・・・正虎、あの愚か者達の陣に、砲身が焼け爛れて、使えなくなるまで、炸裂玉を打ち込んで、おあげなさい」

五右衛門が打ち上げた花火を見つめると、傍にいた前田正虎に指示を出す通。

「はっ、討ち方用意・・・撃てぇ!」

通の言葉に答えると、立ち並ぶ大砲に向かって、指示を出す正虎。

「通、その様な撃ち方は・・・過剰戦力ではないか」

次々と絶え間なく打ち込まれる砲撃を見て、通に諫言する信幸。

「いえ、これでも少ないぐらいです。婿殿がこの様な場所に誘き出してくれたのですもの、気兼ね無しに打ち込めますしね。それに・・・民に与えた恐怖や不安に比べたら、甘いくらいですわ」

冷酷な顔をして、言い放つ通。

「さっ左様か・・・んっ正虎?お主何故?此処に居る?通に言われて、鞍馬に向かったのではなかったのか?」

引きつった顔をして、通を見つめた後、通の傍に居る男、前田正虎に声をかける信幸。

「それが・・・宗矩様に付いて行こうとしたら、通様に捕っ、いや、お傍に居たいと思い・・・」

「そっそうか、すまなかったな・・・お主の父である慶次殿は、わしにとっても、良き友であったが、通にとっては兄の様に、慕って懐いて居ったからな。面影が残るお主を、傍に置きたかったのであろう」

二人は顔を向かい合わせて、語り合う。

「百地衆も動いたようですね、あらっあの頭の固い正就もやっと動いたようね」

伊賀城の方角から、織田の陣に切り込んでいく軍を、見つめて呟く通。

「正就殿まで、動かしておったのか!」

目を見開いて、叫ぶ信幸。

「頼長も良い事を一つしましたもの、あのような輩を集めてくれたのですから、念には念を入れて、殲滅して差し上げますわ。あのように民を蔑ろにするような者など、根絶やしにしてあげますわ」

「「・・・・・・」」

二人は通の微笑む顔を見て、恐怖に震えるのであった。



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