柳生
秀信の御傍衆として、傍にいた織田頼長は、政宗、氏郷の死去の報告を受けて、混乱する織田秀信を巧みに篭絡し、軍政部の重要な役職に若い親族衆を配置させ、自らの発言力を強くする事に成功し、短期間で陸軍部将補の職を受ける事になる。
この短絡的人事に、三成等は諌言するが、秀信は体調不良を理由に、政務から離れ、三成等の進言を用い様とはしなくなる。
頼長は政務から離れた秀信に対して、又もや付け入るように、近づくと、言葉巧みに秀信を篭絡し、親族衆筆頭を拝領してしまう。
そして、織田家に在籍する重臣達を安土に集め、評定を行う。
「皆、よう集まった。大儀である」
上座から、見下すような目をして、下座に座る重臣や将に声をかける頼長。
「頼長殿、このように皆を集め、上様が座る場所にて、話をされるとは、どのような権限あっての事か」
三成が強い口調で、頼長に抗議する。
「ふっ、成り上がり者の三成か・・・儂は織田親族衆筆頭じゃ、秀信様が政務を行えない状態である為に、儂が采配を振るってやろうというのじゃ、何か不服があるのか?」
馬鹿にした様に三成に答える頼長。
「始祖信長様、お市様が作られた権力構造を否定するような行い、行政参謀長として、承服出来ませんな」
「「「私達も承服しかねます」」」
三成の言葉に対して、大谷吉継、蜂須賀家政、本多正純ら三人も声を揃える。
「お主等の承諾など不要、これからは織田家の血族が、政を全て行う」
冷めた口調で、四人に答える頼長。
「それで、国が動くと、お思いか?」
三成が冷めた目で、頼長を見つめる。
「この世は織田の天下なのじゃ!お主等の様な下賤者の言い分など、聞かぬわ。黙って高貴な我の言う事を、聞いておれば良い」
手にした扇子で三成を指しながら、叫ぶ頼長。
「・・・・・・」
「静かになったな、では用件を話す。先頃、明より使者が訪れ、同盟したいとの申し出を受けた」
「なっ!」
「それで、儂は受ける事にした。よって近日中に、明との国交正常化を行うと共に、明が奨めておる朝鮮李王朝を統合する事に対して、織田は合力すべく、援軍を送る事に致す。吉継用意しておけ」
「お主は馬鹿か?後蜀や清に対して、どのような申し開きをするつもりだ!」
「何故?明の為に、兵を出さねばならぬのだ!」
「その様な大儀なき戦など、民を苦しめるだけじゃ!」
「その様な事、お市様が許される訳なかろう!」
次々に不服の申し立てをする重臣達。
「そうか!お主らは、お市が怖いのか?わかった、我が直に、物の怪に取り付かれ、逃げ惑っておる市を成敗してやろう!」
胸を逸らしながら、自信を持った声で答える頼長。
「その様な行為に、従う者がおるものか!」
「「「そうじゃ!そうじゃ!」」」
「このような事になるから、品疎な民を引き上げるなど、反対しておったのだ・・・我は織田親族衆の筆頭ぞ!我の命を聞けぬ者は、全て罷免致す!立ち去れ!」
不平不満を口にする重臣達に、苛立ち叫ぶ頼長。
「やめよ、頼長」
「ちっ父上・・・」
「何も分かってはおらぬ、市の恐ろしさをお主は分かっておらぬから、その様な虚勢が張れるのじゃ」
「虚勢だと!あのような女子!なにするもっ」
「有楽斎叔父上の言うとおり、知らぬから言えるのだ。お市様の力、お主如きで押さえ込める訳が無かろう」
「くっ信孝殿か」
「それに勘違い致すな、若い親族衆の者は、お主を筆頭と考えておる様だが、儂等は認めてなどおらぬ」
「「「信孝殿の言うとおり・・・」」」
「なにぃ、、、」
信孝の言葉に、有楽斎を含む年老いた者達が同意する。
「お市様探索も、お市様保護の名目だからこそ、軍を動かしてでも、追っておる」
「・・・・・・」
「まっ、お連れしている、幼子には問題があるがな」
信孝がうっすらと微笑みながら、頼長に語りかける。
「それよ!お市は物の怪を連れて逃げておる!織田を捨て、民を捨て、逃げておる!その様な女子等、恐れるに足らぬ!」
「ならばやってみよ、お市様を討てたら、お主を認めようぞ・・・」
「その言葉、忘れるなよ!信孝」
立ち上がり、信孝を睨み付けながら、叫ぶ頼長。
「ところで、お市様の居場所は分かっておるのか?」
微笑を絶やさず、頼長に問いかける信孝。
「くっ、すぐに探し出して見せるわ!」
「その様な時間があるのか?早くせねば、明との交渉も難しくなるぞ」
「諜報は役に立たぬ故、難儀しておるのだ」
蜂須賀家政を睨みながら、話す頼長。
「教えてやろうか?」
「何ぃ、織田の諜報も行方がわからぬのだぞ」
「「「「!・・・(まさか)」」」」
信孝の言葉に、頼長はおろか、石田三成、大谷吉継、蜂須賀家政、本多正純
の四人が反応する。
「高野山」
お市は伊賀を通過し、大和国の街道を通り、紀伊を目指していた。
ふっと市は目を細め、誰にも聞こえないような声で呟く。
「んっ、塞がれてる・・・通の手の者では無いようね」
数人の武士が市の行く手に、立ちはだかっていた。
それを確認した市は、馬の速度を落とさず、駆け抜ける事にする。
「お待ちくだされぇ!儂です!宗章です!柳生宗章で御座います!」
市に向かって、両手を挙げて、左右に振りながら、叫ぶ宗章。
その仕草と声を聞いて、市は馬を急いで止める。
「あらっ、宗章?久しぶりね、織田からの刺客なのかしら?」
市が微笑みながら、宗章に話しかける。
「ご冗談を、我ら柳生は松永家に禄を頂いてはおりますが、亡き先々代久秀様の命にて、生涯お市様に、忠誠を捧げておりますれば」
深々と頭を下げて、挨拶する宗章。
「でも、貴方が来るとはね」
「お市様が織田家に追われておるとの報を聞き、我が殿が心配しておられまする、松永の領地にて、匿いたいとの仰せで」
「そんな事が露見したら、一丸じゃないわね、久長が困る事になるわ」
「それでも良い、松永はお市様と共に有りたいと仰せで」
「もう、困った子ね・・・気持ちは嬉しいけど、出来ないわ」
「では、どちらに行かれるおつもりか?お通様の居られる城には、行かれないようですし、周辺の街道は殆ど封鎖され、紀伊ぐらいしか緩くありません」
苦しげな表情を浮かべて、市に話しかける宗章。
「あらっ、よかったわ。紀伊が封鎖されて無いなんて、日ごろの行いが良いからかしら?」
「へっ?」
微笑みながら、話す市に、思わず、キョトンとしてしまう宗章。
「行きたい場所が、紀伊にあるのよ」
「まっまさか!」
「そっ、そのまさかだと思うわ」
「しかし、あそこは・・・女人禁制では?」
「あたしは入れるのよ。それに応其が、あたしを呼んでるのよね」
「応其・・・高野山座主になっておられる、木食応其大師様ですか!」
「良く知ってるわね?流石は柳生かしら」
「ならば、我ら、お供致しまする」
頭を深々と下げて、言葉を発する宗章。
「駄目よ、松永の禄を貰ってる宗章が居れば、一丸の迷惑になるわ」
困ったような顔をして、話す市。
「我ら、いざとなりましたら、切り捨てるように、殿にはお願いしております。迷惑はかかりませぬ」
「でもね、一丸の性格なら・・・あんた達を斬り捨てる事なんてしないと、」
「「「お願いします」」」
宗章とその傍に居た男達が、声を揃えて、市に嘆願する。
「もう、仕方ないわね。ところで貴方達は誰?名前くらい知ってなきゃね」
「柳生利厳、厳勝父上からは、お市様によろしくお伝えせよと言われました」
「あらっ、懐かしいわね。厳勝は元気なのかしら?」
「元気すぎて、自分がお市様の元に行くと、最後まで言っておりました、、、」
「あらあら、相変わらずのようね」
利厳と市の会話が終わると、最後の男が話しだす。
「荒木又右衛門と申します」
浅く、頭を下げる又右衛門。
「ふ~ん、あんた中々の使い手みたいね」
「!・・・」
市に見つめられて、顔を赤くして、目を逸らす又右衛門。
「どうしたのよ?気分でも悪いの?」
首を傾げながら、問いかける市。
「いえ・・・余りにも、美しいと思ってしまい、ご無礼を」
素早い動きで、土下座をすると、勢い良く頭を、地面に打ち付ける又右衛門。
「昔、居たわ・・・こんな子。もう80近くになるお婆さんよ?まっ嬉しくは有るけどね。じゃ・・・頼むわよ」
市達は笑いながら、紀伊に向かうのであった。




