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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第六章
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第十七話

「ディンドラン、何故この時間に呼ばれたのか分かっているわね?」


 夜にサマンサ様の部屋に呼ばれた私は、部屋に入るなり厳しい視線を向けられながら尋問された。


「は! フランベルジュ家での訓練でジークと揉めたことだと思っています」

「そうね、その通りよ。あなたとジークのことだからあまりきつく言いたくはないけれど、フランベルジュ家で起こしたことだから一応、詳しく聞いておかないといけないからね。それで、()()()何があったのかしら? あなたがジークと姉弟みたいな間柄だとしても、他所の家でそんな態度をとったというのは少し違和感があったのよね」


 サマンサ様は、やはり私の行動のおかしさに気が付いていたようだ。あの時、カラード様は実際に見ていたのに気が付いていないようだったから、これは女と男の差……いや、母親と父親の差なのかもしれない。

 それに、この話はカラード様よりも先にサマンサ様にするべきだと思っていたので、呼ばれたのは私にとっても都合がいい。


「サマンサ様、朗報です。ジークに春が来るかもしれません」

「へぇ……続けて……いや、まずはそこに座りなさい。お茶を用意するわ」


 サマンサ様は私の報告を聞くなり態度を変え、腰を据えて話を聞く気になったようだ。しかも、わざわざサマンサ様がお茶を入れてくれるらしい。まあ、私はお茶を入れるのが下手なので、もし代わりに入れると言ったとしても断られていただろう。


「鎮静作用のあるハーブティーよ。まあ、あまり効かないかもしれないけど、多少はマシでしょう」


 サマンサ様の言うことももっともだ。あの時の私も、エリカの反応を見て冷静ではいられなかったくらいだ。

 もっとも、それがいい感じにジークの注意を逸らしたと言える。流石は私と言ったところだ。


「それで、どういうことなのかしら?」


 おっと! あの時のことを思い出して悦に浸ってしまい、サマンサ様を待たせてしまっていた。


「エリカ……フランベルジュ家のエリカ嬢に直接確かめたわけではないのですが、明らかにジークを意識しているようでした。私はジークとエリカが共に行動しているところに何度か一緒しているのですが、私の知る限りではその時のジークとエリカに友情に近い感情はあったように思えましたが、男女の恋愛とは程遠いものだと感じていました」


「確かに、ジークの口から出てくる女性の名前の中で、同年代はフランベルジュのお嬢さんだけ……いえ、旅先で知り合った女性の名前も出たこともあったけれど、一番好感度が高そうだったのはエリカさんだったわね」


 サマンサ様の言う通り、ジークの口から出てきた同年代の女性の名前の中には、今代の白やそのお付き、それに世話になっていた娼館にいたという双子などを聞いたことがあるけれど、どれも女性としてみているというよりは面倒な相手、もしくは仕事上の付き合いという面が大きかったように思える。


「なので、いずれは二人が引っ付けばいいと思っていましたので、なるべく注意して観察……見守っていたのです。そんな中で、エリカが急にジークに対してよそよそしい態度をとっていたので、エリカのことをよく知るフランベルジュ家の騎士たちにそれとなく聞いてみたのです」


「成程、そこで直接エリカさんに声を掛けなかったのはいい判断だったわ」


 少しその言い方が気になったけど、まあ褒められたので良しと言うところね。


「すると、向こうの方も気になっていたらしく、色々と情報を交換することが出来ました。それによると、エリカは合同訓練の数日前から少し様子がおかしかったらしく、時々上の空と言った感じだったそうで、中でもヴァレンシュタイン家、もしくはジークという単語が出るたびに挙動不審になっていたそうです」


「成程、向こうの騎士たちの証言で確信したわけね」


 何故かサマンサ様の声から落胆の気配を感じたけど、多分気のせいでしょう。


「ええ、まあそうですけど……それで、なおさら訓練中のエリカに注目していたのですが、訓練の最中、エリカの視線はジークに向かっていることが多かったです。それと、二人が手合わせした直後の反応も面白……興味深いものがありましたので、訓練終了後のお風呂でそれとなく探ってみたのですが、色々と可愛い反応が見れておも……面白かったです!」


「ついに開き直ったわね、あなた……まあいいわ。そのせいでお風呂上りにジークと遭遇した時にエリカさんがぼろを出しそうだったから、あなたが庇おうとした結果、騒ぎを起こしたというわけね」


「その通りです。あっ! 申し訳ありません、お茶のお代わりお願いします」


 気が付いたらカップが空になっていたのでお代わりを求めると、サマンサ様はため息をつきながら入れてくれた。そのついでに自分の分も入れていたので、先程のため息は興奮して多少の疲れが出たせいだろう。


「本人の口から聞いたわけではないし、報告を聞く限りでは確定に近いけれど、ここで変に外野が口を出すとこじれてしまうかもしれないわね。それに、ジーク本人の気持ちもあるし……ここは慎重に、出来れば向こうの奥様と一度話をしておきたいところだけど……」


「それについてはすでに手を打っております。直接会うことは出来ませんでしたので確実ではありませんが、向こうの騎士にサマンサ様とフランベルジュ家の奥様が面会できないか聞いてもらうように頼んでいます」


 こうなることを見越して、すでに行動していたのだ。


「でかしたわ! あなたにしては上出来どころか、上上上出来よ!」


 ……やっぱり、褒められている気がしない……けど、サマンサ様が喜んでいるならまあいいか。


「でも、急に会うとなればエリカさんが怪しむかもしれないわね……ディンドラン、次の訓練には再度あなたも参加しなさい……と言うか、今後フランベルジュ家との合同訓練に、あなたはすべて参加することを命令します。まずは、あなたは次回の訓練で、向こうの騎士にフランベルジュ家の奥様が私と面会する気があるのかと言うのと、出来れば奥様がジークのことをどう思っているのかを聞いておきなさい。もし好感触みたいなら、時間を合わせて……そうね、男ばかりが顔を合わせているのは面白くないから、女同士でも交流を深めましょうと、私が提案していたと伝えるのよ」


「了解しました! ……ところで、もう一杯お願いできますか?」


「あなたね……まあ、いいけれど、いくら喉が渇いたからとはいえ、あまり飲み過ぎると夜中にトイレが近くなるわよ」


 と言われたけれど、三杯くらいでどうにかなるほど、私の体はやわじゃない! ……はずだったのに、


「うう……危うくおもらしするところだったわ……」


 サマンサ様の言う通り、夜中に危険を察知して飛び起きた私は急いでトイレに駆け込むことになった。

 しかも、変な時間に起きてしまったせいかトイレから戻っても眠気が来ず、その日の私は一日中睡魔に苦しめられたのだった。

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― 新着の感想 ―
エリカさんにはジークさんのどこ・何を好きになったのか?聞いてみたいですね。何が好意を抱くきっかけになったのか?も。 でもジークさんはまだまだ 色気より食い気 な堅物で、特定の女性を一途に愛するようにな…
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