三国志回避の道も一歩から
・火曜日の投下です(この前に資料集の投下が2回ありました)
中平三年の春。
まだまだ子供で結婚とかまだ早い巫女ちゃん、つまりこの私、董青14才は河東郡安邑県の教団本部に居ました。
「うーん、なかなか水路の案が決まりませんね」
新田開発には水路が必要ですが、まずそもそも川から水を引けば良いわけではありません。
あまり多くを取ってしまうともともとの川の水を使っていた人たちの水が減ってしまいます。
なので、誰も使っていない水源を使うのがいいのですが、河東郡のような昔から開発が進んでいる土地にはそんな水源はほぼありません。
なお、河東郡にはすぐ隣に黄河という無限の水源があるのですが、こちらの水は半分以上が泥です。なので黄河の水を引き入れた瞬間に水路が埋まります。いくら水が豊富だろうと黄河以外から水を引かないといけないのです。
「うーん、やっぱり長安の近くの埋まった水路の復元が先ですか」
「残念じゃの。せっかく水路の許可は降りたんじゃが、水量の調整を自分でやれと言われるとは」
頭頂部が奇麗にハゲたいかついオジサン、ハゲ熊こと楊奉さんがモジャ髭を撫でながら呟きます。
河東郡の太守に新田開発の許可は貰ったんですが、一番面倒な水源調整は全部ぶん投げられてしまいました。いやそれこそ政治の仕事なんですけどね……。
「しかたがないので、山裾の湧き水を使って棚田を作りますか。それなら同じ水を使いまわせますし、下流にも水を流せます。稲作なら収穫が倍は違います」
「棚づくりが大変じゃが……稲は嬉しいねぇ。やるしかねえか」
なだらかな山を切り崩して平たくして棚を作って、できれば耕牛をいれられる大きさにとワガママをいうととんでもない労力で、小さな棚田しかできないでしょう。
しかし、稲と聞いて楊奉さんがやる気になってくれました。
前に長安で見ましたが、灌漑を失敗すると塩が湧いて土地が死にます。そうなると表土をひっくり返したりして無理やり麦や粟を耕作する必要があり、収穫も悪いです。
しかし!稲作なら常に水を流しているため、塩を洗い流せる上に、毎年同じ作物を植えても土地が痩せないのです!なので麦に比べて稲の収穫は2倍から3倍と言われています。
ただ、水がよほど豊富なところでしか稲作はできないので乾いた黄河流域にはあまり向きません。あと、気温的にも北限に近いかもしれません。
「では、案ですけど……ここの谷川がよさそうです。まずこちらにため池を作って、そこからこう谷に沿って棚田を」
と棚田作りの案を楊奉さんと練っていると、いきなりまっすぐな声が房子に響きました。
「巫女様!許可が取れました!僕の実家の楊県の父老が、旱魃の際は元の水路を優先すると約束すれば新たな水路を作ってもよいと!」
「おおお?すごいですね公明くん!」
楊県というのは安邑県の北、百五十里ぐらいにある県です。
楊奉さんがパンパンと公明くんの肩を叩いて祝福します。
「いや、よう説得できたな?水の権利なんて父老が死んでも手放さんやろ?」
「巫女様のためですと誠心誠意まっすぐに頼んだら許してもらえました」
「まぁ、お前さんは巫女様のためと決めたらいっつも命も要らんとばかりに真剣じゃけのー……巫女様?」
いや、その、あまり真剣なまなざしで私のためとか私のためなら命もいらないとかそんな……。
そういうの面と向かって言うの本当に照れるからちょっと。
巫女用の面紗で顔を隠してて良かったですよ……。
袖で口もとを隠しながら、あらぬ方を向いて適当に答えます。
「あ、いえ。なんでもないですよー?」
楊奉さんは何か変なものを食べたような顔をして、目をぱちぱちさせていましたが気を取り直したようです。
「……あー、ほいじゃあ、水路の相談しようや。公明さん」
「あ、はい!」
― ― ― ― ―
水路の工事を始めてしばらくすると、洛陽から漢朝の皇子の劉弁さんが遊びに来ました。
「へぇ、ここが新しい田になるんだ。いいね」
「お姉様、あれは大きな穴にみえるのじゃー?」
立派な馬車を美少年宦官の小羊さんが操り、弁くんと姪の董白ちゃんが一緒に乗っています。
熟練騎兵信者の護衛がついていますので道中も安全ですね。
弁くんのほうに近寄っていって説明します。
「いいえ、皇子様、あれは田ではなく、ため池になります」
「なんで田じゃなくて、穴を作るの?」
「三つほど用途が。旱魃に備えて水を貯めるためと、土地に塩が溜まったら堰を切って水を溢れさせ塩を流すため、あとは鯉やら鯰を飼って増やして食べるためですね」
「へぇ、便利だね」
「魚は美味しいのじゃー」
うう、白ちゃんの反応がいちいち可愛いですね。11才になって手足も伸びてきてどことなく大人っぽくなってきました。今回もお願いしたら快く会いに来てくれましたし。うん、やっぱり姪と結婚して仲良く暮らせば、男の人と結婚とか考えなくて済むのでは?
とか考えていたら、その男の子がやってきてしまいました。
徐晃公明くん17才です。背はすっかり伸びてその辺の大人よりも頭一つ高く、筋肉もがっしりと付いていて、お髭も短いですが精悍な感じに生えています。
ず、ずいぶんカッコよくなりましたね。
「お嬢様、近くの里から手伝いの人が来てくれました。謝礼はいつもどおりでよろしいでしょうか?」
「はい、予算から出しておいてください」
水の権利で揉めないように父老の許可を得たとはいえ、さらなる懐柔策として水路づくりで近くの里から大勢の人を雇っています。
交易や装飾品の生産で稼いでいるとはいえ、かなりの出費です。
しかし、これで数千人の田地ができたとして、漢土全体の人口は4000万以上と言われています。全然足りませんね。
さらに銭を稼いでもっと大規模にやりたいものです。
パカラッ!パカラッ!
そんなことを考えていると、騎馬で走ってくる人が居ました。
……この音は匈奴の劉豹くんでしょうか?
あいや、馬で走ってきたのは若白髪の痩せたおじさん、私の個人的な軍師の賈詡さんでした。
「大変ですぞ!新任の涼州の刺史が羌族を攻めて大敗しました。董将軍の降伏交渉が白紙です!」
「はぁ?!何やってんですかあの人はぁ?!」
さぁ忙しくなってきました!結婚とかちょっと今考えてられないですね!後で後で!!
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