戎狄(いみんぞく)対策
・日曜日の投下です(土曜日2回目のつもりだった)
降伏させたばかりの賈詡さんを心服させるべく、よく話し合おうと思ったらいきなり女だと見抜かれてしまいました。
「えっと、やっぱり女に仕えるとか嫌ですよね?でしたら父上に推挙しますのでそちらで賈詡の智謀を活かしてもらえれば」
「いいえ?ワシに否やはございませんが、主公はお嫌で?」
「……賈詡が嫌だと思ったんですが」
というと賈詡さんは若白髪に包まれた頭を軽く振ると。
「主公は董将軍の信頼もあつく、いろいろ任されておられます。それに今回の反乱を早期に収めたのも主公の策です。ワシのような降伏した賊将が何を言っても官軍で取り上げてもらえることはありませんが、主公に献策させていただくのが一番良いかと思います。女でしても董将軍が信頼されている以上問題はないかと」
「女でも問題ないですか」
「はい」
さんざん男女差別というか世界の違いに苦しんで男装女装巫女装を使い分けてきた私からするとあり難い言葉ですね……って私が賈詡さんを信頼してどうするんですが、逆です。
「えっと、賈詡の望みを聞きたいです。私は……私は漢朝を建て直したいです。みんなが辺境で走り回って苦しんでるのも、政治が腐敗しているのも、流民があちこちで発生しているのも漢朝の政治に限界が来ているからです。一刻も早く立て直さなければ反乱が続発し、乱世が訪れるでしょう。これを防いで私は幸せに暮らしたいのです」
そこまですっと言い切りました。そうですね、こういう風に口に出して他人に宣言するのは初めてかもしれません。自分の目標がしっかりと定まった気がします。
そして私の目標を聞いて賈詡さんも口を開きました。
「……天下についての望みは全く一緒です。その原因は宦官、宦官を倒すためでしたら策をいくらでもお出ししましょう。またワシ個人としては自らの策で天下を動かしたい、状況を一変させ万民を驚かせるような策を成功させたい。と思っております。富貴は特に望みませぬ」
なるほど、生まれつきの策謀の士、いわゆる軍師なんですね……。しかし一つ誤解がありますね。
「……全く一緒ではないですね。宦官は原因じゃないですよ」
「と仰いますのは?」
「宦官が実権を握っているのは皇帝が気に入っているからです。皇帝が宦官を気に入っているのは、名士や外戚が腐敗していて信用できず隙あらば権力を皇帝から奪おうとするためです」
「しかし、宦官も甚だしく腐敗しているのでは?」
賈詡さんは納得しがたいようです。
「それでも、皇帝にとって宦官が最後の味方なのですよ、歴史はそうなってます。外戚や名士が権限を独占して皇帝をないがしろにして、皇帝が宦官を使って外戚や名士を粛正する。漢朝はその繰り返しです」
「ううむ、しかし宦官が良いものとは思えません」
「良いものではありません。宦官も腐敗していますが、皇帝が信用しているので宦官を選んで使っているのです。だから宦官だけを排除しようとすれば皇帝が敵に回ります。つまり……」
「まさか、皇帝を除こうと?」
賈詡さんが驚きの表情を浮かべます。
公明くんも隣でちょっとびっくりしているようです。
「いいえ、政治を正すのはあくまでも乱世を防ぐため。皇帝を取り除くのが目的ではありません。政治については腐敗した人間を除き、能力のある政治家を登用する仕組み。また、本来はただの皇帝の母方の親戚である外戚、そしてただの召使である宦官、これらが政治に口出しするのを防ぐ仕組み、この二つがあれば政治は改まるでしょう」
「それは……壮大な改革になりますな」
賈詡さんが遠い目をして思いをはせているようです。
「それだけでなく、反乱が頻発している本当の原因である民の困窮を救うため、新田開発や商工業の振興も必要になりましょう。これらをすべてやって、はじめて天下が安定することでしょう」
「……ああ」
ざざっと賈詡さんが居住まいを正し、真っ直ぐに私に頭を下げました。
「この賈詡文和、主公の改革の実現のため、身骨の一片まで尽くさせていただきたく。どうか参加をお許しください」
「むしろこちらからお願いするところでした、ぜひお願いします。賈詡」
「ははっ」
しばらく目と目を合わせてお互いを見つめ合ったあと、賈詡さんが言いました。
「ところで、具体的にどう進めていくのでしょうか?」
「さぁ、具体的には何もありません。足元バタバタしてばかりですので」
「いやいやいや」
なんか拍子抜けしたようにガクっと崩れおちる賈詡さん。
「えっと、そうですね。策に使えるものは説明しますので、ぜひ一緒に考えてください」
「かしこまりました、使えるものとは?」
「えっと、今回、商隊の馬車の上で転がってた若者いたじゃないですか」
「皇族の小爺で、主公の婚約者でしたか?」
「婚約者じゃないです、フリをしてるだけです……あの方が皇帝の長子の劉弁皇子殿下です。ちょっと拉致ってきました。あの方を教育すればすべて解決すると思いません?」
「は……」
今度こそ賈詡さんの表情が完全に死にました。
― ― ― ― ―
武威からの帰路。
途中に金城の董卓パパのところに立ち寄り、金銀財宝をお見せします。
「さすがは青だな」
と董卓パパは大変上機嫌でした。
あとは長安で換銭したり、絹や穀物と交換して軍資金の穴を埋めれば……少しぐらい余分も出るはずです。
さてと、漢人の反乱はあとは残党の討伐だけですが、異民族については絹をばらまいて帰宅してもらっただけで、時間がたてばまた反乱するのは確実です。賈詡さんに考えてもらいましょう。
「賈詡、あとは盗賊になった残党を成敗し、羌や月氏を服属させればいいですが、戎狄の反乱をしばらく起こさないようにしたいです。彼らを心から服属させるようにしたいですが、どうすればいいですか?」
私が一言聞いただけで、賈詡さんはすらすらと策を述べてくれました。
「前に面談で申し上げた通り、羌や月氏は実力、戦力しか分かりません。また文字もないので一度負けても十数年で忘れます。そして官軍が歩兵で攻めたところで相手はすぐに家を捨てて逃げ散ってしまいます。羌や月氏の財産は家畜です。彼らを捕まえるには彼らの家畜を押さえる必要があり、そのためには軽騎兵を十分に育てなければなりませぬ。馬は今回の交易で確保できましたので、これらを騎兵とし、董将軍に精鋭に鍛え上げていただくのがよいかと。よく訓練された官軍の騎兵を差し向ければ、彼らとて不利を悟ることでしょう。また、その間に涼州の刺史、太守の腐敗無能を調べ上げ、朝廷に上奏して総取替えしてしまいましょう。高官が高潔な人物に一新され、官軍の騎兵が揃っていれば戎狄はあえて背かず、そのうえで絹や穀物を与えれば、皆が官軍の徳を慕って降伏するはずです」
「なるほど、騎兵なくして絹や穀物だけでは?」
「それでは相手はつけあがってさらに寄越せと反乱するだけでしょう」
「絹や穀物なくして騎兵だけでは?」
「戦って勝てるでしょうが、戎狄の困窮は変わらず、生活のためにいずれ反乱するでしょう」
「騎兵を揃えて絹や穀物を与えるだけでは?」
「腐敗した刺史や太守が戎狄を迫害し、絹や穀物を取り上げて反乱に追い込みましょう」
なるほど……
「いつもそうですが、賈詡の献策は中途半端に用いると害がありますが、全部採用すれば完璧ですね」
「いつもそうなのですが、主公は違います」
賈詡さんがにっこり笑いました。
― ― ― ― ―
なお、董卓パパに進言したら二つ返事で全部採用してくれました。
……あの、もう少し董卓パパの眼からこれを変更しようとか、ここを改善しろとかないんでしょうか。
董卓パパはこともなげに全部採用した上で、一言付け加えました。
「いや?青の案は完璧だと思うぞ……ただ人事変更は上奏はするが、弧の権限を越えているから、上手くいかんかもな」
そこは何か考えなきゃいけませんね。
・いいねくーださい。
・賈詡さん話長い




