武威(ブイ)
・金曜日の投下です
はい、こんにちは。男装美少女官僚の董木鈴13才です。
長年の風雨がまるで砂遊びの山をひたすら削ったようなギザギザ山を越え、シワシワの谷を越え商隊は進みます。
冬の気温はカラカラに乾いていて、とても冷え込みますが凍るほどではないです。
馬車にじっと座っているほうが底冷えがするため、あえて歩いたりもします。
弁くんは毛皮にくるまって馬車の中で震えてますね。うーん。
乾ききった河の底を踏みしめて歩くと土がぼろぼろと崩れます。
「まだ寒さがきつくなくて良かったですなぁ、もう少しすると水にも氷が張ります」
私の奴婢として助命された賈詡さんが言いました。
若白髪で痩せた身体ですが見た目と違ってどこにそんな元気があるのかひょいひょいと歩いていきます。剣は取り上げられているので長い杖をついています。
「どこにも水なんてありませんよ?河も乾いていますし」
「ああ、こちらは南山の雪が解ける春にはぞんぶんに水があふれかえりますぞ」
「だから今はないんですよね?」
北のかた武威に向かう商隊の左手には山頂を白く染め上げた祁連山脈が連なっています。武威の人たちは南の山だから南山と呼んでいるらしいです。いや、そういう呼び方だから史書に南山とか西海とかが大量に出てきてどこのことかわからなくなるんですよね。
こちらに降る雪が春から夏には融けて水源となることで、乾燥地帯にある武威などの城邑が生きていけるのです。
と、気が付くと護衛に着いてきてくれている若武者、徐晃公明くんがこちらを睨んでいました。
「公明くん……そんなに睨まなくても賈詡は悪いことしませんよ?」
「……僕はその賊はまだ信じていません」
「まぁ、公明様のご懸念も当然ですな。主公はよい部下をお持ちです」
賈詡さんが主公って呼んでるのは私のことですね。まだ若い公明くんをあっさりいなして人生経験の厚みを感じさせちゃっています。
うーん。公明くんが警戒しちゃってますけど、もう少し仲良くしてほしいんですが。
あれ?というか反乱軍の人をあっさり信じて部下にしてる私がおかしいのかな??
隣で馬に乗って部隊を率いている人生経験豊富そうなオジさんに聞いてみることにします。
「玄徳様はどう思います?」
「……いや、そいつは完全に屈服してたんで大丈夫だと思いますぜ?ってバキバキに心を折ったご本人が聞きます?」
「ええ、私はそんなことをしたつもりは」
「してましたって」
劉備玄徳さんにとても酷いことを言われましたが、やっぱりあの賈詡があの程度で諦めるわけがないですから、一度話し合うべきですね。
― ― ― ― ―
半砂漠の中に突然木々が増え、農地が広がります。
遠くに土を突き固めてつくった立派な城壁が見えました。
「武威に到着いたしましたぞ!それではさっそく商賈を呼び集めてまいります」
故郷に到着した賈詡さんが大喜びで走り出そうとするので、公明くんが追いかけて捕まえました。
「お嬢……小爺、こいつ逃げようと?!」
「ばかな、逃げて何になるんじゃ。そんなに気になるなら公明様もついてきてくだされ」
賈詡さんと公明くんが近くの集落に消え、暫くすると城門から兵士がワラワラと湧いてきました。
兵士の隊長が大声で呼ばわります。
「どこの部隊だ!韓遂の反乱軍か?!」
「いえ、官軍です。武威は無事でしたか」
自分の校尉の印綬を見せ、董卓パパから預かった牌符もお見せします。
「おお?!これは失礼しました……ということは反乱軍は?」
「董将軍が見事討伐なさいました、金城も奪還しております」
「それは太守もお喜びになるでしょう!!」
大喜びの隊長につれられ、劉備さんの騎馬隊と商隊を入城させます。
宿舎も手配いただき、無事に武威の太守にもお目通りが叶いました。
「おお、反乱は無事制圧されたか……それは重畳。我らは朝廷の勝利を信じておったぞ……」
武威の太守に面会すると、口では喜んでいますが、目が全然喜んでいません。
なんとなく不満そうです。
「いや、しかし金城を制圧したばかりではまだ盗賊などが出るのではないか?」
「はい、まだまだ戎狄も服属していませんし、いまは盗賊の討伐に尽力しております」
「そうかそうか!では街道が安全になるまでは交通はできんな、いや、軍隊ならばともかく、貢納は輸送できんなー。ああ、なんと辛いことだ。報告書を書くゆえ朝廷にはよろしくお伝え願いたい。いや、昨年は貢納が賊に奪われ、軍事費の支出もあり大変厳しくてだな」
「かしこまりました」
……太守さん、めっちゃ嬉しそうですね。
まるで朝廷と通信を遮断されてたのをいいことに全員で脱税してたような言いぶりです。
本当にロクな高官いませんね涼州?!
西域交易が途絶してるから美味しいわけないと思うんですが、と思いつつも武威の周りは祁連山脈の豊富な水量で狭いなりに良田もありますし……税を払わないでいいならそれなりにいい生活もできるってことなんでしょうか。
いやいや今は敵対してる鮮卑族が大人しいからいいですが、孤立してたらそのうち異民族に滅ぼされると思うんですけど……
私は喜ぶ太守さんを冷ややかな目で見ていました……
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