涼州大反乱
・土曜日の投下です
はい、こんにちわ。悪役の令嬢であり、皇子拉致犯の董青ちゃん13歳です。
今回は、皇帝と宦官にむかついたので首都の洛陽を出て、旧都の長安にやってきました。
長安は関西地方の中心都市で、戦国時代の秦の始皇帝の都の近く、漢の高祖劉邦が都を建てた場所になります。
いまは涼州で大反乱がおきていて、その討伐軍の本拠地となっております。
結構前から涼州反乱というのを聞いていたのですが、状況がよく分からないので調べてみました。まずこちらが地図です。
こうやって地図を書いてみると、長安というのが山に囲まれて護りやすい土地だとわかりますね。で涼州というのはこの西部の土地です。
半砂漠と山が多く、匈奴、月氏、羌族、氐族と異民族に囲まれて大変厳しい土地です。
長安から西に抜けると漢陽郡、董家の故郷である隴西郡、金城郡とあり、そこから武威郡、張掖郡、酒泉郡と続き、さらに西には玉門関と敦煌郡がありそこからは西域になります。
なんでこんな一本に町が連なって伸びているかというと、匈奴との戦いの経緯と西域交易の関係ですね。
さて、ここに今回の涼州大反乱が起きてこうなりました。
漢土から西域に伸びる重要拠点の金城がまず落とされ、その結果、武威から向こうは通信途絶。
わたしたち董家の故郷の隴西も押さえられてしまっています。また漢陽も半ば攻め落とされている状況。
反乱軍には韓遂、辺章ら金城の有力豪族に加えて、羌族、月氏族と言った有力異民族が続々参加しています。
いや、これ涼州ほぼ陥落してますよね?!!
旧都の長安もあぶない状況だというのに、皇帝も宦官ももっと危機感を持つべきなんじゃないでしょうか。
おかげで、董家は故郷と連絡が断たれて困ってるんですよ?
あ、故郷ですが、この地図ですと隴西の南の方の山奥の臨洮って土地です。こんな地の果てでしたっけ、河東暮らしが長かったので覚えてないんですよね。
とはいえ、皇帝が貯金を優先したせいで遅れに遅れたとはいえ、なんとかかんとか討伐軍に予算がついて、元三公の張温さんが総司令官、董卓パパが副将として討伐に向かうことになったのです。
配下には孫堅、陶謙といった有名武将が参加。兵力も予算も人材面でも問題はないはずです。
― ― ― ― ―
私は、いつもどおり男装して官吏姿で勤務をしています。割と背が高いほうでしかも肉付きがあまりよくないので、こうしていると髭が生えてないだけで普通の若い男に見えるそうです。
……ああ、はやく何皇后さまみたいな美女に成長したいです!そうしたら恋愛とか検討しなくもないので……
董卓パパからはまた全軍の補給をやってくれと言われています。前回は均輸官としての経験とか情報網があったからできたんですけどね。長安に来たってそれは……ないなら作ればいいか。
さっそく、関西各地の均輸官と連絡を取り合い、相場の調査を行います。そして足りない物資があったら河東と孟津の教団支部で生産しましょう。
穀物は洛陽から送ってもらうのがいいでしょうかね。
そこに牛輔義兄さまがふらっと現れました。
「おお、ちょうどいいところに。青、面倒な客が居るから会ってくれ」
「はい?」
なんか反乱軍の使者が来ているんだそうです。
「私はこうやって仕事はしてますけど、今回の討伐軍の官位があるわけではないので、正式な官位を持っている父上か義兄上がお会いになるべきでは?」
「正式な官位を持ってる人間が反乱軍の使者と会ってるとバレたらまずいだろ、あらぬ疑いをかけられるかもしれない。とりあえずこっそり李傕と郭汜に対応させてたんだが面倒なことになってな。まぁ、会えばわかる。で後で報告してくれ」
「はぁ」
というよく分からないけど分からない依頼で、会うことになったのです。
― ― ― ― ―
「涼州武威の賈詡、字を文和と申します。このたびは涼州軍の使者としてまいりました」
ああ、三国志ではほぼ最高級の軍師の賈詡さんかー。たしかに李傕さんとか郭汜さんじゃ相手にならないのは分かります。
「我らは董将軍に是非降伏したい。大英傑たる董将軍に涼州軍を指揮いただき、ともに洛陽に攻め上がり宦官どもを処刑しましょう」
んんんん?????
……ああ、なるほど。これで李さんも郭さんも説得されちゃったかー。董卓パパを褒めてるし、董卓パパが宦官嫌いなの分かってるし、成功すれば大英雄だもんね。
……うん、これ、私が賈詡さんに反論するの?口とか策略で勝てる気がしないんだけど?!
さすがにこんなことを説得されるわけにいかないよね……だって、あの皇帝や宦官に一泡吹かせられるなら……やれるならやりたいし?!
まずい、適当に反論したら説得される自信がある。そして今は弁くんがいるからさらにまずい。万が一董卓パパが説得されちゃったら、完全に三国志の序盤再現じゃないですか……。
よし、こういう場合は……反論しない!相手に手札を全部見せてもらおう!
「大変すばらしい意見です、ぜひ董将軍にお伝えしたく」
「おお?」
賈詡さん……若白髪で痩せぎすのおじさんが身を乗り出す。
一発で説得されるのは予想外だったようですね。
「ですが、まずはお話をじっくりお伺いしたいです。えっと、今回の経緯と大義についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんとも時間はありますでな」
鶏の首のように細い手を差し出して、賈詡さんが説明を始めた。
― ― ― ― ―
「涼州は土地は痩せ、水は少なく、貧しい暮らしを強いられております。その中で我ら涼州の民は異種と戦いながら、また協力し合いながらも少しずつ土地を開墾してまいりました」
しかし、と賈詡は言う。
朝廷は将軍を派遣してくるが、将軍は戦果と昇進、そして軍事費の着服にしか興味がなく、涼州の生活をボロボロにし、異種との協調を破壊する役にしかたたない。
さらに朝廷から派遣される関東出身の太守や刺史は涼州の特殊状況を理解しようともせず。貪欲に賄賂を求め、重税を課し、異種と揉めるばかりである。
これらはすべて朝廷が宦官に支配され、中央の政治が賄賂と汚職に満ちているのが原因である。
過去に鮮卑の侵略が酷い時には涼州の豪族も羌も月氏も協力して鮮卑と戦った。しかし鮮卑の大人が死んで平和になったというのに月氏や羌に褒美もない。
それどころか太守や刺史は異種だからといって奴隷のように扱うのである。
「よって、異種の大族、羌と月氏がこの扱いに耐えきれずに蜂起し、涼州の豪族は皆彼らに同情して義挙に参加したのです。我らの目的は洛陽に攻め上って宦官を粛正、貪欲な高官を追放して政治を正すこと。董家も涼州の名家。董将軍は羌族とは親戚のように親しくされていると伺っております。むしろ参加されない理由がありますでしょうか?」
「ないですね」
全くないですね。董卓パパにとっても理想ですから、これを聞いたら喜んで参加してしまいかねないです。
無駄な抵抗をしてみますか。
「しかし、反乱軍とみなされてしまうのは漢朝の家臣として不忠なのではないでしょうか?」
「全くそれは当たりません。むしろ国家を食い物にし陛下の民を損なっているのが宦官どもとそれに組する高官たちです。これを討伐するのが真の忠義であり、むしろ放置して国家が傾くままにしておくのが不忠と言えましょう」
うん、知ってた。舌戦で賈詡さんに勝てるわけない。既存の情報なら当然勝つための理論武装してきている……ならば、全く知らない情報を出すしかない。
「今の皇子殿下が英明で、宦官の悪事を告発したことはご存じでしょうか?」
「ほう!?それは寡聞にして存じ上げませなんだ」
よし、これでいけるかな?
「ええ、皇子殿下が皇太子となり、次の皇帝となれば宦官の悪事を懲らしめ、政治を正してくれますよ。なので皆さんも反乱はひとまずやめて……」
「そのように素晴らしい皇子がおられるのでしたら、ぜひ我らの皇帝になっていただきたい。そうですな、新しい国を作りましょう!国号は涼……いや西漢……。なんとか皇子に連絡を取れませんでしょうか?」
そ……っ、そうきたかぁーー。
やばい、これで弁くんが長安に居ますとか言ったら全力で拉致されそうな気がします。
「あ、いや、皇子はいま道士と修行中で誰とも会わないそうですよ?」
「それは残念です」
うーん、しかしますます反乱軍に参加するのが正解に思えてきました。三国志でも西涼軍閥を率いた馬超が曹操を攻めて……負けますよね?
あれ、何で勝てないんだっけ……なんか曹操に上手く関所を守られちゃうんですよね。まず長安を落としたとしても、その先が関所、山、関所、山、関所でやっと洛陽。そこを落としたとしてもその先に豊かな関東地方があります。
あ、そっか。
「しかし、文和さま。いくら涼州がまとまったとしても人口わずか4-50万。うまく関西を確保したとしてもせいぜい100万でしょう。洛陽の朝廷は人口2000万を超える関東を押さえているので、いくらでも補給ができます。その朝廷を向こうに回して函谷関などの難関要害を攻めきれるとは思いませんが?」
「ふむ、大変計算が得意でおられるようだ。たしかに数字で考えればそうでしょうな。しかし」
賈詡さんは一息置いて
「我らの主力、羌や月氏は計算ができぬので数字では考えませぬ、よってまったく恐くありませんな」
「……いやいや?」
それはダメですよね?!
愕然として問い返すと賈詡さんが鶏のように皴のよった痩せた首をひねって笑います。
「ははっ、冗談です。ですが戦は数字だけで決まるものではござらん。黄巾の乱あり、黒山軍の蜂起あり。朝廷には軍事費がないことぐらい把握しております。何よりも軍事費があるならばとっくに我らが討伐されております」
なるほど……いや?
「……大変申し訳ないですが、やはり反乱には参加できません」
「なぜです?」
「皇帝はまだ軍資金を隠しています。数十億銭からおそらく百億銭。私は洛陽で直接見ました。萬金堂という蔵に銭が満ちていました」
「……なぜ我らの討伐に使わんのです?!」
「次の大きな反乱に備えてのことです。皇帝から見ればこんな小さな反乱には本気を出す必要はないということでしょう。我らが参加して大きな反乱になればすぐに本気で対応されてしまいます」
「……ぐっ」
賈詡さんが言葉に詰まりました。畳みかけます!
「もちろん、天下を騒がし続け、それで反乱を続発させることはできるでしょうが、朝廷を打倒できるのは……まだまだ先になります。それまでの間朝廷の討伐を受け続けるのは難しいでしょう」
「ううむ……」
よし、完全に賈詡さんの読みが外れたみたいですね。
「なので、反乱はひとまずやめて、悪い太守や刺史を追放したということで良しとしませんか?」
「追放したということで反乱をやめては、また宦官が腐敗した刺史を送り込んでくるではないですか」
賈詡さんの反論が再開されてしまいました。
「そこはたとえば、董将軍を刺史にするとかでどうでしょうか?」
「……董将軍は涼州の出ですので、涼州刺史には成れない決まりでは?」
「あ、そうでしたっけ」
そういえばそんな決まりが。面倒ですね。たしか地元に利益誘導するのを防止するためでしたっけ。でもそんな決まりがあるから涼州の事情を知らない関東の人がやってきて無茶苦茶するんですよね……。
採用と登用の仕組みを本気で何とかしないと……。
「いずれにしてもそれなりの人物を派遣すると約束しますし、駄目だったらまた反乱してもらってもいいですけど……いったん反乱をやめませんか?」
「……先ほどの話のように朝廷に本当に軍事費が豊富ならば、我らに勝ち目はありません。しかし先ほども言いましたように、羌や月氏は計算で戦っておりませぬ。羌や月氏は異種ですので、力しか理解できぬのです。彼らが討伐され負けたならば素直に降るでしょうし、そのあとでなら涼州の豪族たちも降伏に同意することでしょう」
おお、つまりそれが降伏の条件ですね!先に異民族を倒してくれと。わかりました!
やった、あの三国志最高級の智謀の持ち主賈詡に弁舌で降伏条件を引き出しましたよ!ふふふ、私もなかなかやりますね!
……と思っていた時期が私にはあったんですね。
・いいねくーださい♪




