教団討伐
・木曜日の投下です
せっかくお偉いさんに銭を払って、真っ当な里として認められた我が河伯教団孟津支部。
気がついたら孫堅さんの部曲約100名に包囲されてしまっていました。
「孫堅の部隊って黄巾討伐でも活躍した精鋭だよな。もう討伐終わってるんじゃね?」
不吉なことを言う董旻叔父様と一緒に慌てて駆け付けた私、男装官吏版の董青ちゃん13歳です。
だ、大丈夫です。まだにらみ合いを続けてますから……。
……
……
見ると、趙雲さんが里の防柵に隙なく弓信者を配置し、その後ろに盾信者や矛信者を並べていました。
手抜かりのない配置を見て董旻叔父様が感心したように言います。
「ほう、趙雲のやつやるじゃねえか、あの孫堅が攻めあぐねてるぞ」
「いや、批評はいいですから早く止めましょうよ?!」
どうやら、孫堅さん。勢いよく攻め込んでみたものの、想定よりも防衛がきっちりしていたので様子を見ているようですね。
私は董旻叔父様を引っ張って孫堅さんの陣に駆け込みました。
赤い頭巾をかぶった肩幅の大きい偉丈夫を見つけて声を掛けます。
「孫文台さま!!!董木鈴です、どうか兵をお引き下さい!」
「おお?董家の若いのに……これは董校尉も。一体全体そんなに慌ててどうしやがったんでい?こちとら河南尹のご命令だってんで、ここの黄巾討伐の命を受けてんですぜ?」
「……ここの里は河南尹の認可を受けて正規の里として戸籍を作ったばかりです!!!」
というと孫堅さんはびっくりしたように大きな口をぽかーんと開けて。
「えぇ……なんだそりゃ。どっちの命令が正しいんだこりゃ」
「いや、なんでこうなってるんですか?!」
私も混乱して頭を抱えます。
「あーー、なるほど……、こりゃ面倒くさいぞ……」
董旻叔父様が分かったように言います。
「……孫君、討伐令を出すのに、いくら払った?」
「賄賂ぉ?俺がそんなことするわけねぇ。嵩山の道士さんたちが黄巾の残党がいて迷惑だってんで、そういう『手続き』は全部やってくれたんだぜ?せっかく武功になると思ったのによぉ」
孫堅さんがバツが悪そうに言いました。
って嵩山の道士さんたち何してくれてんですか?!ちょっと肉食べてるの見抜いて追い払っただけで心の狭い人たちですね?!
「担当者違いかぁ……」
「どういうことなんですか叔父上?!」
董旻叔父様がめんどくさそうにつぶやきます。
「いや、多分これ、どっちも『手数料』払ってそれぞれで命令貰ってるからどっちも正規の河南尹の命令だわ」
「……なんで河南尹はそんな矛盾した命令出すんですか!!」
「今の河南尹閣下は素人だしなぁ。仕事に興味ないそうだし、属吏が書類持ってきたらいいなりでハンコ押してるんだろ」
なんでそんな仕事に興味がない人が……って今の河南尹は何進大将軍の弟で、元は肉屋でした……。妹が皇后だというだけで採用されてます……。
「おいおい、困るぜそれじゃあよ?だったら河南尹のお役所に行って白黒つけるか?」
「……そうですね、矛盾した命令を出したところに確認をするのが……」
「どっちもそれでいいならいいけどよ。幾ら出せるんだ?」
董旻叔父様が指を丸めて銭の形を作ります。
「え……銭なんかねえぞ?」
「なんで銭を出す話になるんですか」
「なんでって、『手数料』が多いほうの意見が通るからだが?」
「……」
「……」
私も孫堅さんも開いた口がふさがらなくなりました。
「あー、めんどくせぇ?!なんか怪しい神を祭ってんのは間違いねえんだから、攻めちまえばいいんだろ?!」
「やめてくださいいいい?!」
話がこんがらがったのでブチ切れた孫堅さんが里を攻めようというので必死で止めます。
「なんで止めるんでい?!……そういや、なんで董家がここに絡んでるんだ?」
「董家でこの里の戸籍登録の世話をしたからです!」
「うげ……、じゃあここ攻めたら董将軍怒るか?」
「怒ります!」
「……いや、どうすりゃいいんだよこれ」
孫堅さんは完全に板挟みになって困ってしまっています。
私もです。頭を抱えてしまいました。
「うーーん」
えっと、私と教団はちゃんと政府に降伏して戸籍が欲しくて、孫堅さんはちゃんと命令どおりにここを攻めたくて……。あれ?
「文台様、この里の人間を皆殺しにしろとか命令受けてます?」
「討伐しろってしか言われてねえぞ?」
なるほど!私はポンと手を叩きました。
「ああ、そっか。じゃあ順番が逆だったんですね」
― ― ― ― ―
孫家の討伐軍が河伯教団孟津支部を包囲しています。
包囲軍の先頭に立った赤い頭巾の偉丈夫、孫堅が大声で叫びました。
「やいやい、世を騒がす黄巾の残党とはおめえらだな!この江東猛虎が討伐してやらぁ」
「なに、江東猛虎が討伐に来たのか?!ならばこの常山の趙子龍が相手だ!一騎打ちせよ!」
河伯教団から趙雲さんが白い甲冑に身を包んで討って出ます。
「なにぃ、山賊風情に俺様が一騎打ちなンぞもったいねえ!韓当いけぇ!」
「はっ!」
孫家軍から韓当さんが出撃します。おお、孫堅四天王の一人ですね。たしか程普、韓当、黄蓋、朱治、祖茂の5名でいずれ劣らぬ豪傑………あれ?
趙雲さんが馬を駆って戟を振るい、韓当さんが同じく馬上で戟を舞わせます。
カキーン!!
一合、二合、三合と打ち合い、だんだんと趙雲さんが追い詰められ……追い詰められ……てませんね。
ガキッ!ガキン!!!
激しく戟を突きこんで韓当さんが防戦一方になりつつあります。
「子龍さん?!」
「……む」
私の呼び声に、なんか夢中になってた趙雲さんが我に返ったようです。
趙雲さんが攻撃の手を緩めると、韓当さんの攻撃が趙雲さんの戟を跳ね飛ばしました。
「わー、戟が飛ばされたー、これでは戦えんぞー」
「おい」
……棒読みぃ?!!
韓当さんが苦笑いしてるじゃないですか……。
趙雲さんが馬を降りて、頭を下げます。
「ははー、逆らって申し訳ございませぬ。どうか俺の命で信者たちはお許しください」
「韓当を手こずらせるとはなかなかやるじゃねぇか、その腕に免じて命だけは許してやるぜ?……というかおめえさん強ええな?」
それを聞いた信者さんが戸籍をもって進み出ます。
韓当さんが戸籍を受け取って、孫堅さんに見せました。
「主公、この里ぁ降伏すてえて、戸籍ささげでおるで」
「認めるぜぇ!これで討伐任務はおしめいだ!」
これで無事に両方ともに命令達成となりました……。はぁ、面倒……。
って……韓当さんって幽州なまりなんですね?!
「幽州の者ば戦につええはんでな。主公が是非にって採用すてくれだんだ」
そうなんですか……。なんか孫家軍の半分近く、武将で言うと程普さんと韓当さんが幽州の人らしいです。全員江南の人だと思ってました。
「あ、一つお願いが」
― ― ― ― ―
嵩山。
この大陸の五方に五山あり。
東岳泰山、南岳衡山、中岳嵩山、西岳華山、北岳恒山といって漢人が尊んでいます。
とくに中央に位置するこの嵩山は首都洛陽のすぐ近くということもあり、信者も多く、道士が多く集まっています。
「道士様!?河伯教のものたちが……孫家軍をつれてきています?!」
そこに河伯教団が孫家軍といっしょに押し寄せました。
男装して官服姿の私が周りを見渡しますが、なぜか誰もいません。
別に何をするわけでもないんですけどね?持ってきた羊を殺して山に捧げてお祈りしただけです。
あ、血があちこちに飛び散っちゃいましたけど。まぁ生贄をささげたらしょうがないですよね。
「あれ?道士の皆さんどうしたんでしょうね?お参りに来たのに誰もいらっしゃらないなんて」
「……なかなかいい肚してんなぁおめえさん」
孫堅さんが感心したように仰ってました。
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