調教(わからせ)
・土曜日3回目の投下です
や、やっぱり好きでもない男の子とするなんて嫌です!
……本当に乱暴されるなら、花瓶でもぶつけて……いや、弁皇子ってきっぱり言えばひるむからその隙に……
私はいざというときに備えて覚悟を固め、拳を固く握りしめて床の上の弁皇子を見据えました。
彼は、見たことのある板に石を並べて……。
「さぁ、勝負だ!寡人はもう宮中で一番強いからね!」
「……はい」
白黒ですかーーーーっ!!!
こ、この、私の、覚悟は、その一体っ?!あと趙忠さんとか思わせぶりなことしすぎなんです!告訴しますよ!
私は静かな怒りともに床の上に上りました。皇子の床は人が複数楽に座れるぐらいの大きさです。
この床やら牀という家具。もちろん寝床に使うのですが、偉い人がそこに座ってお話をすることが多いように、長椅子みたいな使い方もするんです。
だからって年頃の女の子と一緒に座るって、ちょっと近すぎますけどね?!もうすこし気遣いとか……
皇子様が気遣いするわけないか。
……ふふふ、結構ムカついてきましたね。
とりあえず、なんか調子に乗ってるので分からせることにします。
「誰に聞いてもこの遊戯は知らなかったんだけどさ、持ち主だったキミならそこそこ強いんでしょ?」
「ふふふ、皇子殿下には敵いませんですよ?」
パチッ、くるっ。
パチッ、くるっ、くるっ……
「あはは、もう真っ白だよ?本気出してくれないとー」
白番の弁皇子が得意げにどんどん盤面を真っ白くしていきます。
私は務めて冷静に「本気です」とだけ言いました。
「またまた、ほらほら。もう黒が全滅するよ?」
「……はい」
パチッ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ……
「あれ?ここしか置けない……」
「ですね」
パチッ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ……
「まって置ける場所が?」
「では一回休みですね」
パチッ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ……
「ちょっと待って?!端をそんなに取られたら?!」
パチッ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ、くるっ……
端に四隅を全部、黒番が取って、盤面を真っ黒にして差し上げました。
弁皇子は茫然として、何が起きたのかわかっていないようです。
当たり前ですが、白黒で相手の駒をひっくり返すためには相手の駒が盤面にないといけません。では、序盤で駒を極力すくなくするよう、かつ全滅しないように操作すれば?
中盤からは白番のコマだらけですから、黒番はどこにでも置けますが、弁皇子は私が誘導した場所にしか置けません。そうやって四隅や端を取れる場所に打たせて、勝負ありです。
「……」
「皇子があまりにも強すぎたので、本気を出しました。申し訳ありません。ではこれで」
私は深々とお辞儀をして、逃げ出そうとします。
ですが、弁皇子は崩れかけた姿勢を何とか元に戻すと、再度私に向き合って言いました。
「も、もう一回相手してよ!!!」
「はい、かしこまりました」
ふふふ、まだ分からせ足りませんか?
……
……
「な、なんで途中まで圧倒的に有利なのに勝てないの……?!」
弁皇子ががっくりと床に崩れ落ちました。
ふふふ、完全勝利です。これでもう私に構ってこないでしょうね。
がっくりして動かなくなった弁皇子に深々とお辞儀をして、私は堂々と退出しました。
― ― ― ― ―
皇子の部屋から出てきた私は、大長秋の趙忠さんの身体検査を受けました。
きつく締められた腰布のあたりを調べられます。
「……ふむ、お手付きはなかったようね。何かあったらきちんと報告してくださいね?」
「あったら困ります……って報告するんですか?」
趙忠さんが意外そうに言いました。
「当たり前ですよ?したかどうか。何回したか、きちんと全部記録するんですもの」
えええええ……いやいや、そんな、なんですかその辱め……そういう趣味ですか……?
それを聞いて、趙忠さんがキリっと真面目な顔をして仰います。
「董木鈴。勘違いしないで?これは国の大事にかかわるのです。まだ殿下は皇子ですが、いずれ漢朝を継ぐかもしれません。そうなったときに産まれた子は後継ぎという話になるのですよ?なのでお手付きがあった娘がどうなったか、産まれたらきちんと殿下の子かどうか、全部を記録で確かめないとならないのよ」
「はぁ……ま、まぁ、もう呼ばれないと思いますので」
言ってる意味は分かりますが、夢も愛情も感じられない話ですね……しかもそれがお仕事。お疲れ様です。
まぁ、皇子様はあれだけ分からせたんですから、もう顔も見たくないはずです。
「あら、そうかしら」
ふくよかなおじい様に似つかわしくないかわいらしい台詞を尻目に、私はさっさと自分の席に戻っていきました。
― ― ― ― ―
「青よーーっ?!勿体ねー!そこは誘惑しとけよ!いっぱつで外戚狙えたじゃねーか!」
「叔父上まで何仰ってんですかっ!まだ私は子供ですーーーっ!」
なぜかさっそく休沐が貰えたので、宮殿の外にある董旻叔父様のお屋敷に戻った私は、いきなり叔父様から気遣い皆無の講評をいただきました。
「そんなのありえないです!ねー、白ちゃんはどう思う?」
「お姉さまはキレイだし、未来の皇后になれると思うのじゃ」
私の隣に座ってるのは、御年9歳の私の仙女様、董白ちゃんです。黄巾討伐に連れて行くわけにいかなかったので、早くから董旻叔父様に預けられました。しばらく会わないうちに茶色の髪がさらにきらめきを増し、美少女っぷりに磨きがかかっています。
「だめーー、皇后にはならないー、私は白ちゃんと結婚するのー」
「女同士は結婚できないのじゃ?!」
くっ……誰ですか!白ちゃんにそんな余計なことを教えたのは!?
「こ、公明くんはどう思う?!」
一族の団欒風景になぜかちょっと引き気味の徐晃公明くんに次の発言を指名します。
「えっと……あー、その……巫女様なら真っ直ぐになりたいものになれると思います!」
「そうですよね!」
「おい、青。若者がメチャクチャ困ってんじゃねーか」
公明くんの回答に気を良くしていると董旻叔父様がちゃかしてきました。
何か言い返そうと思ったら、叔父様が何かの束をもっています。
「ところで、叔父様。そこの紙束は?珍しいですね、竹簡でないの」
「お?ああ、これか。兄者からの信だぞ、みんなで読もうと思ってな。たしかに珍しいが、いま兄者は長安だから蔡倫紙が買えたんだろ。」
「あ、読みたいです」
董旻叔父様が董卓パパお手紙を開くと、そこには墨で黒々と大きな文字で。
「皇甫嵩死ね」
と書いてありました。
・当時から紙の原型はあったのですが、特に宦官の蔡倫(西暦50年ごろ - 120年ごろ)が作ったものが品質が良いということで、今までの紙と区別して特に「蔡倫紙」「蔡侯紙」と呼ばれました。




