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董卓の娘  作者: 神奈いです
第二章 花嫁修業

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初めての敗北

・土曜日最初の投稿です

独特の緊張感の中で澄んだ空気の中には、ふわり……とかすかな山椒の香り。


塵一つなく掃き清められた床に、つやつやと磨き上げられた家具が並んでおり、遠くにかすかにはーもにか編鐘べるが奏でる曲が聞こえます。


正面には一つ、大きなべっどがおかれていて、そこには絶世の美女が腰かけておられました。




こんにちわ、山賊から校尉たいさに転職した董青トウセイちゃん13歳です。

長い黒髪と白いお肌を持ち、手足はすらりと美しく伸びた美少女なのですが……


私は、今、生まれて初めての敗北感を味わっています。


……


……


ここは大漢かんのくに司隷校尉部しゅとけん河南尹カナンけん洛陽ラクヨウ

大漢帝国の首都で、皇帝陛下のおわすところです。

高祖劉邦が火を吹く赤龍の子ということで、火徳を尊ぶ漢朝ではサンズイを忌まれて雒陽(ラクヨウ)とも書きますね。


むらの開拓やら、農民一揆の首謀者などをやってしまったため、董卓トウタクパパに「大漢このくにで一番安全な場所」に送り込まれることになりました。


挿絵(By みてみん)


「皇后殿下、千歳(せんさい)千歳(せんさい)千千歳(せんせんさい)


隣に立っている丸々と太ったおじいさんが仰々しい台詞を述べたてて、両手を組んで長い袖に包み、頭の上に掲げて深く深くお辞儀をします。


「ははー、 皇后殿下、千歳、千歳。千千歳」

私も真似して同じように拝礼します。千歳というのは皇帝は万歳(ばんざい)なので、遠慮して千歳(せんさい)なのです。



そして皇后殿下。そう、何進カシン大将軍だいしょうぐんの妹で、皇帝陛下の正妻であられる何皇后カこうごうです。

ここは禁中(きゅうでん)の中の長秋宮(こうごうのみや)。壁に山椒さんしょうを塗りこめて魔除けと安産を願っているので別の名を椒房しょうぼうとも言います。



私は恐る恐る何皇后さまに自己紹介しました。


隴西ロウセイ出身、ちゅ、中郎将ちゅうろうしょう董卓トウタクの娘、董青トウセイあざな木鈴モクレイと申します……」

「ふうん、トウね……そう」


あうう、なぜか皇后さまに睨まれています。ですが、私には対抗ができません。

目を伏せて頭を下げるだけです。だって、目の前に……


「殿下、彼女の仕事ですが……」

「礼儀がなってないわね、田舎者まるだしだわ。趙忠チョウチュウ、こんなの連れてきてどういうつもり??」

太った中年のお役人……大長秋(宮内大臣)趙忠チョウチュウさんがだるだるの顎を震わせて発言しましたのを、皇后さまがぴしゃりと止めて仰います。


「いやいや、殿下の兄君……大将軍カシンさまからのご推薦でして。董将軍は、まぁ確かに辺境のご出身ですが、歴戦の武功があり、いまも長安で賊軍と戦っておられます」

「また、トウ!!!」


皇后さまはトウという姓に対して、大変ご機嫌ななめなようです。

私の姓が何かダメなんでしょうか。そういえば皇太后へいかのおかあさまさまがトウでしたっけ?つまり、嫁姑よめしゅうとめ??


皇后さまは趙忠さんに向かってつまらなさそうに手を振りました。


「ああもう、そんなのどうでもいいわ。こんなの適当にあなたが片付けときなさい。妾にみせないでね」

「かしこまりました、ではそのように」

「し、失礼いたします……」


私は震えながら再度お辞儀をします。


この扱い、釈然とはしませんが。私には皇后殿下に逆らえる気はしません。

だって。



皇后さまが興味を失ったようにそっぽを向くと、上半身がぶるんと震えます。

決して太っているわけではないのに、大地のような豊饒さを象徴するその部分が、圧倒的な格の違いを見せつけてきます。


か、勝てない……。


私は、あまりにも控えめで貧相な自分自身を抱え、生まれて初めての敗北に打ちのめされていました。


まさに、皇后さまこそが天下一の美女。天の半分、女の世界に君臨すべきお方です。

私は美少女美少女などと自惚うぬぼれていましたが、ついに現実を思い知らされてしまったのです……。



「では退出さがりましょうか……木鈴さん?」



つい、目が皇后さまを追ってしまいます。


上半身だけでなく、腰にも必要なふくらみがあり、それで手足はすらりと伸びて、顔は白いお肌に魅力的な黒子が一つ。

なんという戦闘力の高さ。皇帝陛下を射止めたのも当然……。


私がこの高みに上るためには一体あと何年の功夫たんれんが……。

でも諦めません。時間さえ、時間さえあれば私にも勝ち目が。


董木鈴トウモクレイッ!!!!下がりますよっ!」

「は、はいっ?!すみません!」



趙忠チョウチュウさんに叱られてしまいましたぁ……

木鈴って自分じゃん。


そういえば、家族は青ちゃんと呼ぶし、信者さんは巫女様、私兵の皆さんはお嬢様と呼ぶものだから、自分のあざなで呼ばれることほとんどないんですよね……。

でも、社会に出たら字で呼び合うのは当然。さっき自分で自己紹介したんだからいい加減慣れましょう。木鈴モクレイ木鈴モクレイ。私は木鈴モクレイと。



 

 ― ― ― ― ―



とっても丸い体つきの大長秋(宮内大臣)趙忠チョウチュウさんと、控室に戻りました。


「す、すみません、皇后殿下の前で失礼を」

「あら、初めてのお目通りですし。年若い貴方が緊張されるのはしょうがないでしょう?」


お気遣いありがとうございます。


「さて、木鈴モクレイさん。来ていただいたのですから、お仕事をしてもらいます。

ただ、別に難しいことはありませんよ、面倒な下働きは我ら宦官がいたしますし。

木鈴モクレイさんには他の女官にょかんの皆さんと一緒に、学問やら、詩歌、舞楽など学んでいただき、儀式などに備えてもらえると」

「はい」


年齢にかかわらず、こんな小娘にたいして大変丁寧です。ちょっと話し方が丁寧を通りこして女っぽいですけど。

大長秋(宮内大臣)ってことは長秋宮(こうごうのみや)の長官ですし。

それに趙忠チョウチュウってあれですよね。大宦官で、十常侍の悪役で、宦官抹殺で殺される人。


でも別に悪い人には見えませんね??「もっと偉そうな人かと」……


「ふふふ、えらそうな召使なんて失格ですよ?あなたも気をつけなさいね?」


き、聞こえてた、すみません?!


趙忠さんに優しく笑われてしまいました……。

うぐぐ。恥ずかしい。

・当時の皇后の敬称は殿下です。皇后を陛下と呼ぶのは明治の新しい文化となります。

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現行連載作  迷宮伯嫡子はカネがない

大借金で領地取りつぶしの危機である。頼れる親や重臣たちは外出中、財布は空で留守番役。
状況を切り抜ける特別なご加護や卓越した武勇や超魔力なんかもない。
そんな状況だけどボクは前向きに取り組んでいく。
まずは軍資金ゼロで軍隊を動員?できなきゃ領地は大変だ?
― 新着の感想 ―
[良い点] 今までの宦官像を打ち破る良いキャラ立てですね。 「偉そうな召使なんて失格」と言われれば、確かに、としか言えませんね。
[気になる点] 何で宦官は皆殺しだーって息巻いてたのに宦官だらけのとこに送り出したんだろう
[良い点] 宦官とも仲良くできそう
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