雨とお天気
・金曜日2回目です。今日もう一回行けたら報告します。
ざあざあざあざあざあ……
雨がとめどなく降り続けています。
河水を渡った董家は、帝都を目の前にして足止めをくらいました。土地の名家に屋根を借りて雨宿りです。
「はぁ……」
そしてこの憂いを帯びた美少女が私、董青12歳。
手元まで伸びた長い黒髪を手持無沙汰で編んだりほどいたりしています。
「うーん、結婚とか気のせいですよねぇ……私はまだ小さいですし。それに父上が断りました。うん、当主が認めない結婚とかありえません」
ぼけっと髪を弄りながら、涼やかな目の匈奴の少年を思い出します。
茶色かかった髪の毛と同じ色の目は、自信満々に輝いたり、シュンとしたかと思うと、にこやかに笑ったり、なんかくるくると表情の変わる少年でした。
でもまぁ……ちょっと小さすぎますかね。せめて私より背が高くて、大人の自信にあふれて落ち着いてる方がいいです。
「って、何をそういう相手として評価しちゃってるんですか私は」
匈奴の少年、劉豹君はたまたま会って帽子を貰っただけ。それにお互い違う方向に進軍してますからまた会うかどうかすらわからないんですよ。
「ああもう、気分を変えましょう!!」
ー ー ー ー ー
「公明さん、公明さん」
「はっ!なんでしょうかお嬢様っ!」
何本も線が引いてある木の板と、多量の白と黒の木片を並べた私は、ちかくにいた公明さんに声を掛けました。
公明さんは巫女業をしてるときに出会った親孝行な若者です。4つ上の16歳ですが、お父様が早くに亡くなられたので、早めに元服して働いてもらってます。奇遇ですね、私もお母さまが早くに亡くなってて働いてますよ。
「むむっ!これは奕ですか!尊命、わかりませんが頑張ります!!」
「分からなくても頑張るのはやめたほうがいいよ?」
「何でも真っ直ぐに頑張れと母の言いつけですので!」
素直でいい子なんですが、何事も全力でまっすぐなのがいいところでもあり、悪いところでもあります。
「えっとね、これは奕じゃなくて、白黒なの。簡単だからやって見せるね?」
私は8かける8の64マスに区切られた盤の真ん中の4マスに、白のコマを2つ、黒のコマを2つ置きました。
「で、黒が先手。黒を置いて白を挟むと黒になるの。縦横斜めでもいいよ?最後に全部置き終わったら白黒多いほうが勝ち。簡単でしょ?」
「はい!真っ直ぐに覚えました!」
はい、リバーシってやつですね。
いや、大漢には簡単な遊びがなくて、大人が脳みそを振り絞って戦う奕……だいたい囲碁です。もしくは十八面のサイコロを使ってコマを進めたり取り合う六博っていう遊びがあるんですが。どっちも子供には難しすぎます。
ある日、董白ちゃんと遊んでいた時に気軽なお遊戯がないことに気が付いた私は、木片を削って六面のサイコロを作って、簡単な双六にして遊んでいたんですが、董卓パパに見つかって。
「子供が博打の真似事なんてダメだ!!!」
って怒られたんです。
だから、この見た目が奕っぽいこれなら、「頭の体操です!」って言って怒られません!!!
「むむ……置けません!」
「はい、私の勝ちー」
「も、もう一回お願いします!」
なかなか負けず嫌いですね。いいですよー、暇なので。
「これは、真っ直ぐに端を取るのに利があります!」
「それに気が付くとは……やはりするどいですね」
3-4回やっただけでメキメキ上達してしまいました。
なかなかやりますね真っ直ぐさん。
ー ー ー ー ー
なんだかんだあって、私たちの馬車は洛陽城に到着しました。董卓パパの部曲の多くは城外で待機します。
城門で簡単な入口検査を終えて、董の旗を掲げた馬車を連ねて城門をくぐると、大通りには大勢の人が、そして軒を連ねた店では商人が呼び込みの声を上げています。
李傕さんが馬車列の先頭に立って人を避けさせます。
「馬車が通るゾ、道をあけロー!」
いつもの遠慮なしに大きな声がとても目立ちます。
都の人々がワイワイ言いながら見物に集まってしまいました。
「董の旗だな、どこの董家だ?」
「河間の董家ではないか?」
「しかし訛りが河北でないぞ?」
すみません、涼州は隴西の董家です……、今の住まいは河東ですが。
ところで河北地方にも董家があるんですか?
「ふふ、この牛輔が教えてあげようか?小青。河間董家というのは皇太后のご一族だよ」
いつもドヤ顔での解説ありがとうございます、牛義兄様。皇太后、つまり皇帝陛下のお母さまですね。偉い人じゃないですか。
「隴西董家と河間董家にはご縁はありますか?」
「あればもっと出世してたんだけどね」
そうですね。
李傕さんが人を追い散らしながら馬車の列は進みます。
「はぁ、さすがに都は人が多いですねー」
安邑に比べるとものすごい活気です。といいつつ、謎の記憶の中にあるはるかに多くの人を車に詰めて運ぶ通勤列車や駅の人出とは比べものになりませんが。
と別に感慨もなく町を眺めていると、董卓パパが呆れたように言いました。
「……小青は全く動じておらんな。弧は初めて都に来た時、都城の壮麗さ、人の多さに呆然としたものじゃが……」
「僕もそうでしたよ。我が義妹は大物ですねえ、義父上」
そうじゃな、と董卓パパは一つ頷くと、
「さて、牛輔よ。ワシは袁隗老師のもとへ参り、今後の相談をしてくる。旻よ、小青と荷馬車は……お前のところに預ければよいか?」
「いやぁ、小生のところは手狭でこの数は入りませんよ。それに行き来も面倒でしょう……陛下への献上品や、お歴々への進物を積んでおりますので、宮中の門番に預けておくのが安心ですな。なぁに、知り合いです」
傍らの董旻叔父さんが軽い調子で答えます。
「では、牛輔、留守を頼むぞ」
「かしこまりました、義父上、義叔父上。青と荷馬車は僕が責任を持ってお預かりします」
いや、そんな公私混同でいいのかな、と思っている間に、董卓パパと董旻おじさんは出発。李傕さん、郭汜さんたちはパパのお供です。
門番の詰所からわらわらと人がでてきて、馬車も荷馬車も、さっそく門の脇に留め置かれました。
牛義兄さんは門の隊長さんと話し合っているようです。
「ほうほう、河東ではそんなことが」
「僕としても最近の洛陽のことが聞きたいのですが……そうだ、酒がありました」
牛義兄さんがお付きの人に命じて積み荷から酒の甕を持ちだします。……えっ、飲むの?隊長さん勤務中では???なんで何かあったらすぐ飲むんですか。飲まないと死ぬんですか?
と思ったら義兄さんは隊長さんと連れ立って詰所に入ってしまいました。
宮殿の門ですし、失礼がないように気を張っていたのが馬鹿らしくなってきます。天気もいいし、私も適当に時間を……あ、本は向こうの荷馬車だった。
「うん、これだ……もうここでいいや」
ぽかぽかと温められた荷馬車の中が気持ちよかったので、私は寝転んで本を読みはじめます。
っていうか長旅の疲れでとても眠いです。床も揺れませんし……ふあ……
半分寝ぼけてうとうとしていると外で声がします。
「兵よ。董氏からの献上品が届いているはずだが?」
「へぇ、荷馬車は預かっておりますが?あちらで」
「ふむ、董の旗があるな。荷物もある。董皇太后の仰せの品はこれに違いなし。運び込め」
「へい」
ん……誰でしょうか……
って、馬車が動き始めましたよ!
なんか知らない人に知らないところに運ばれてますってば?!!
義兄上ーーーーーーーーーーーっ!!!!




