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決死行。

「覚悟は決まったのかな?」


 カノンとウィズの攻勢を受けながらも、サマルエは全員の動向に気を配っていた。

 動き出したティーチに笑みと共に問いかけるが、返答はない。


 ーーーつまらない男だなぁ。


 あの手の人間は、(かん)に触る。


 世を拗ねた(てい)で、その実お人好しで、いらないことに首を突っ込んでは物事を引っ掻き回してくる。


 そして、諦めが悪い。

 

 ーーー嫌いだなぁ。


 チリチリと、退屈に支配された心に苛立ちのさざなみを立てられて、サマルエは目を細めた。


 どこかの、仙人を気取ってるジジイに、そっくりだ。


 ーーーこの世界に、希望なんか、ないのになぁ。


 魔王は、死なない。

 何度倒したところで、復活することが、世界の論理によって約束されているのだ。


 そして勇者もまた、幾度も復活し、魔王を倒す。


 永劫繰り返されることが約束された予定調和。


 その永い時の中で生まれた、勇者の、魂の双子。


 何故、勇者の魂が分たれたのかなんて理由は、サマルエの知ったことではなかった。


 だが永く永く、幾人もの勇者と対峙してきた中で起こった、ほんの些細な変化……あるいは隙によって、サマルエは勇者の肉体を奪い去ることに成功した。


 この上ない絶望を与えたはずなのに、それでもまだ抗ってくる。


 ーーー本当に、気に入らない。


 その中心にいるのが、あの魂の双子だ。


 カノンの放った土魔法を弾いたサマルエは、ティーチに対して王妃を操って妨害を打つ。


 あの騎士は、王妃を傷つけない。

 こちらに意識を向け切っている状態で横からの不意打ちを食らわせる……はずだったが。


 一瞬の抵抗を王妃から感じた直後に、騎士が射線状に回り込んでそれを防ぐ。


 ーーーあの死霊術師か。


 何やら、小賢しい精神干渉魔法を使っていたのは気づいていたが、どうやら王妃の魂が目覚めたらしい。

 それでも、抵抗に合うとは思っていなかった。


 しかし。


 ーーーだからって、別に負けないけどね。


 ティーチの狙いは、おそらく勇者の魂をサマルエに叩きつけることで、肉体の所有権を取り戻すことだろう。


 曲がりなりにも勇者の肉体である以上、どれほど力に差があったところで、干渉できない勇者の魂に反発されたらサマルエに抗う術はない。


 ならば、その目的を達成させなければ良いのだ。


 サマルエは、左手に瘴気を瞬時に凝縮し、ティーチの進路に腕を振るった。

 横薙ぎの一撃が炸裂し、地面を抉って土砂の壁がそそり立つ。


 ウィズとカノンが散開し、視界を塞ぐ土砂の向こうで、ティーチの気配が回り込むように移動した、のを、感じたところで。




 ーーー黄金に輝く死霊が、土砂の壁を突き破ってこちらに襲い掛かってきた。




「へぇ!」


 闇の自爆魔法。

 かつて潰した暗殺団に継がれていた禁忌の一種で、使用者が対象とした相手を、命と引き換えに喰らい尽くす死霊を生み出すものだ。


 だが。


「所詮、人間の使う魔法だよね」


 サマルエは、瘴気を込めた剣を振るい、その全てを切り裂いた。

 だが、相手の攻勢はそれで終わらない。


「オォオオオオオッ!!」


 ポッ、と土砂壁の一点に穴が空いたと思ったら、そこから小柄な影が飛び込んでくる。


 槍使いだ。


「テメェよくもアーサスをォオオオオオオッッ!!」

「心外だな。勝手に自爆したんだろう?」


 怒りに目を燃やしながら突っ込んできた少年は、勇者パーティーの誰よりも素早い。

 突き込んできた最速の風炎の武技を、サマルエは再び魔力を込めた左手でいなして軌道を逸らす。


「お返しだ」


 全力で突っ込んできた槍使いは、隙だらけ。

 返す刃で斬り捨てようとしたが、そこにさらに、土砂壁を回り込んだティーチが突っ込んでくる。


 ーーー連携は、悪くないね。


 サマルエは、刃を向ける相手をティーチに変えた。

 片腕を失っているせいだろう、動きが鈍い。


 それでは、届かない。


 勇者が宿るスライムを握りしめた手を柄尻で弾き飛ばし、そのまま、胸元に刃を突き込む、と。




「ーーーさせません」




 その刃とティーチの間に、時空魔法を行使して滑り込んだウィズが。


 自分の胸で、その刃を受けた。

 

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