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入り混じる想い。


 ーーーティーチ。


 ブレイヴは、おそらく鉄仮面の下で笑っているのだろう悪友の顔を見上げて、体を震わせた。


 ーーーテメェは、いつもそうだよな。


 昔から、ヘラヘラ、ヘラヘラと。


 幼い頃、村の収穫前の作物が、魔物に食い荒らされて飢えるかどうかの瀬戸際に立たされた時も。

 お前の両親兄弟が流行病で次々と亡くなって、墓を立てた時も。

 突然の大雨の中、山で行方知れずになった村の連中を、二人だけで探しに行った時も。


『お前さんがいりゃ、どうにかなるさ』と。


 そう言って笑っていた。


 どれだけ辛いことがあっても、ティーチは涙を見せない。


 不安に思っていないはずがない。

 悲しんでいないはずがない。

 心配していないはずがない。

 


 だがこいつは、誰よりも優しい男なのだ。



 優しすぎて。

 自分が心配させるような振る舞いをしたら、相手がどう思うかを考えて……自分の本当の気持ちを、隠すのだ。


 冒険に誘った時も、そうだった。


『俺は、役には立たねーよ。ぐーたらしてるのが、好きだからな』


 そう言って笑ったティーチの真意に、気づかないはずもなかった。


 非情になれない自分では、迷惑になるから。


 そう言って彼が断るのは百も承知で、それでもブレイヴは、ついて来て欲しいと思っていた。


 ーーーオレの方だ。


 お前さえいればなんとかなる、と、甘えていたのは。


 その結果が、このザマ。


 ーーーティーチの左腕を、失わせたのはオレだ。


 どうやったって、償い切れはしないだろう。

 だから。


「暗い顔すんなよ、ブレイヴ。お前さんは俺が死ぬ前に間に合った。後は、勝つだけだ。そうだろ?」

『ああ、行こうぜ、相棒!』


 意味のない後悔など、後でいくらでもすればいい。


 勝って、皆で生きて戻った後で。


 ーーーマーシィ。


 諦めたはずだった、自分と、妻の命。

 自分のためではなく、自分を信じてくれたティーチや仲間の為に、必ず取り戻す。


 魔王を抑えている仲間たちを見据えながら、ブレイヴはティーチに、グラスの導き出した作戦を伝えた。


※※※


 ぼんやりと、自分の意識が漂っているような感覚。


 思考が纏まらないおぼろで不安な暗闇の中で、マーシィは赤く輝く何かを見つめていた。


 人のような、鬼のようなそれは、こちらに向かってずっと呼びかけているようだった。


『……王妃。目を覚まして下さい!』


 それは、盾と槍を持っていた。


 それは、知っている何かだった。


『王妃!』


 それは、決して攻撃をしなかった。


 ただ身を守り、しかし自分の意識を他に向けさせず、ずっと魔法による攻撃を受け続けていた。


 ーーーバックラー……?


 不意に意識がまとまり、気付いたと思えばまた忘れる。


 バックラーというのは、何なのだろう。

 思い出したと感じたそれすらも、すぐに闇に溶ける。


 そうしてまた、必死に呼びかけ続けるそれに、目を向ける。


 幾度、繰り返したのかすら分からないまま。

 マーシィに訪れた転機は、外からのものだった。

 

※※※


「クソ、聞こえねーのかよ、アーサス!!」


 レイザーは、苛立っていた。


 大して強くないはずの仲間を、速攻で気絶させてティーチたちの元に向かうつもりだったのに、それまでの彼ではありえないほどの俊敏さで互角に渡り合ってくる。


 呼びかけてもまるで聞こえている様子を見せず、レイザーはキレかけていた。


 ーーーこの野郎、意識が戻らないならいっそぶっ殺して……!!


 と、生来の凶暴な部分が顔を見せそうになったところで。

 

「レイザー!!」

「グラス!?」


 背後からの呼びかけに、ちょうどアーサスのダガーを弾いたレイザーは飛び退って彼女の横に着地する。


「レイザー! そのまま、戦ってて!」

「どーすんだよ!? 何か思いついたのか!?」


 再び槍を構えて、膝をたわめたアーサスに向かって槍を扱き抜き、連続で風閃を放ってこちらに近づかせないように動きを留める。


 チラリと見ると、グラスは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「魂の扱いは、死霊術の真髄よ。操られた二人は、まだ間に合う!! 今から、あんたとバックラーの意識を、アーサスとマーシィに繋ぐから……説得しなさい・・・・・・!」


 告げられた言葉に、レイザーは一瞬思考が止まった。


「……はぁ!?」

「対話して、目を覚まさせるのよ!! 出来るでしょ!?」

「意味がわかんねー!! 殺さずにぶっ倒す方法を見つけたんじゃねーのかよ!?」


 人の説得……相手を納得させるように話すことなんて、レイザーからしてみれば一番苦手なことである。


「テメェがやれよ、グラス!!」

「四人分の魂を繋ぐ術式展開しながら自分の意識を飛ばすなんて、出来るわけないでしょうが!」

「難しいこと言うんじゃねーよ!」


 絶対ムリだ!


 そう思ったが、グラスはまるで耳を貸さなかった。


「あんたがやるしかねーのよ!! いい!? あんたもブレイヴの弟子なら、その程度のことそろそろ出来るようになりなさいよ!! いつまでも子どもじゃないんだから!!」


 言いながら、術式の展開を終えたらしいグラスが、魔王と戦うウィズの方に目を向けると。


 双子同士、何か特別に通じ合うことが出来るのか、賢者はこちらを振り向くことすらしないまま、杖の先を半円を描くように振るう。


 すると、地面に、先ほどカノンが描いた術式が再び浮かび上がり……それを、グラスが乗っ取った。



「行くわよ! ーーー《鏡面世界交遊術式アリス・イン・ザ・ブラックボックス》!!」


 

 ぐん、と何かに精神が引っ張られる気持ち悪い感覚を覚えながら。


 レイザーは、内心で悪態をついた。


 ーーークソ!! それもこれも全部、ブレイヴのバカが乗っ取られたせいだ!!

 

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