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双子は、覚悟を決める。


 ーーーどうする、どうする、どうすればいい。


 話術士グラスは、それぞれに戦闘を始めた仲間達とティーチの姿を見ながら、カリ、と爪の先を噛んだ。


 ーーー考えろ、考えろ、考えろ。


 ありとあらゆる可能性を考慮しながら、この状況の突破口を探す。


 ブレイヴの体を奪った魔王。

 マーシィ王妃の魂を捕らえた魔王。

 アーサスというらしい名前の暗殺者を操る、魔王。


 ーーーあの魔王から……どうすれば・・・・・彼らを奪い返せる・・・・・・・・


 ブレイヴが助からないことに、ショックを受けて立ち尽くすカノン。

 激情に駆られたレイザー。

 

 そして……王妃の元に一目散に向かった、バックラー。


 ーーーこの盤面からの、打開策は?


 ティーチは、魔王を殺すのか?

 その首に刃は届くのか?


 届いたとして、ブレイヴの願いを受け入れるのか?

 届かなかったら、どうやって殺すのか?


 考えなければならないのに、千々に乱れる思考。


 ブレイヴ達を、どうしても殺さなければならないのか?


 冷静な自分は、状況が打破出来るのであればそうすべきだと囁く。

 だが、感情的な自分が『救いたい』と叫び、その方向でものを考えるのを掻き消す。


 焦っている。

 焦っているのが分かっているのに、焦りが消えない。


 荒れる思考の海から、現実にグラスを引き戻したのは。



「落ち着きなさい、グラス」



 自分の、双子の片割れ……ウィズだった。

 彼女を見ると、強い目で戦場を睨みつけながら、言葉を続ける。


「陛下……いえ、ブレイヴ。ティーチは、勝てるのですか?」

『勝てる』


 ブレイヴは、即答した。

 

 しかし彼の声は、それを確信しているというよりも、そう信じたい、というような色を浮かべていた。


「なぜ、そう言えるのです?」

『……本物の勇者は、オレじゃない。正確に言うなら、オレだけが〝本物の勇者〟って訳じゃねーからだ』


 ブレイヴの言葉に、グラスは戸惑った。


「どういう意味?」

『奴は自分を〝影〟だと言う。そして、竜の魂とやらを持つオレが〝主体〟だと思ってやがる。そいつは、テメェらも同じだろう? しかしな』


 ブレイヴは、力を溜め込む気配を見せながら、チラリとこちらに目を向けた。


『オレたちは、本当に半分なんだと、オレは思ってる。アイツもまた、勇者なんだ』

「おししょーが……?」


 彼を肩に乗せたスートもまた、混乱した顔で戦場とブレイヴの顔を交互に見ていた。


『そうだ。オレは神具を扱える。魔王に対抗する魂も持っている。……だが、ブレイヴの黒い木刀……それが変化したあの偃月刀もまた、神具の片割れだ。そして俺が増幅の、ティーチが吸収の力を持っている』

「それだけ聞くと、竜の魂を持たない分、ティーチの方が劣っているように思えるけど?」

『それは間違いだ。オレの増幅の力よりも、本当はティーチの吸収の方が、優れた力なんだ』


 ブレイヴは、体内に極限まで聖気を溜め込んでいるようだった。


 バックラー、グラス、ウィズが洗脳から解放されたことで、封印されているに近い状態だった竜気を、完全に取り戻しているのだろう。


 しかしその竜気を存分に振るうための肉体は、もう彼にはない。


『オレは、ティーチの力を使えない。だがな』


 グラスの抱いたそんな疑問を察したように、ブレイヴはすぐに口にした。



『ティーチは、吸収することで(・・・・・・・オレの力が使えるんだ・・・・・・・・・



 だから。


 ティーチは竜の魂を持ち合わせていなくとも、ブレイヴと対等なのだと。


『オレ達は出来損ないの勇者だ。二人で一つの、本来なら二人で力を合わせて真の意味での勇者に成る』


 ブレイヴは、自分を肩に乗せたスートに目を向けた。


『スート。オレは、オレの力の全てを、ブレイヴに託す。……連れて行ってくれ、アイツのところまで』

「でも、でもそれじゃ、おししょーがブレイヴを殺してしまいますー!」

『アレは、魔王が奪ったオレの抜け殻であって、もうオレじゃねぇ』

「でも!!」

『ティーチを死なせるわけにはいかねぇんだ!!』


 ブレイヴがそう口にした瞬間、戦況が動いた。


 それまで互角と見えたブレイヴの動きがいきなり遅くなり、魔王に対して劣勢になる。


「お、おししょー!!!」

『カノン、グラス、ウィズ。……そして、スート』


 ブレイヴの声音は、震えていたが。


『分かってくれ。ーーーオレは、ここにいる。人じゃなくなったが、力を振るえなくなったが……マーシィを、救えなかった、情けねぇ男だが……ッ!!』


 彼の言葉は、どこまでも力強かった。



『オレは、それでももうこれ以上、誰も喪いたくねーんだ!!』



 救うのだ、と。


 グラスたちが、初めて魔王に対峙し、気圧された時のことを、グラスは思い出した。


 彼は一歩前に出て、大剣を携えて、こちらを振り向いて……笑ったのだ。


『何ビビってんだ? テメェらは強い。怖がることなんざ、何もねぇ。ーーーさぁ、世界を救おうぜ』


 ーーーブレイヴは、何も変わっていない。


 彼の力強い言葉に、スートが最初に反応した。

 じわ、と目尻に浮かんだ涙を拭って、彼女は唇を噛みながら戦場に目を向ける。


「……行きます! おししょーを、助けます!!」

『そうだ! テメェはもう、十分強くなった! なんせ、ティーチの一番弟子だからなぁ!!』


 そんなスートの横に、杖を携えたウィズが立つ。


「貴女には、ティーチを奮い立たせるために申し訳ないことをしましたが。……彼の元に辿り着くまで、私が貴女たちを守ります。指一本、触れさせはしません」

『ウィズ。……すまねぇな。身重みおもなのによ』

「私も、死ぬ気はありません」


 ウィズは自分の腹を撫でて、小さく微笑む。


「未来を守るために、覚悟を決めましょう。私も。私は、貴方の選択を尊重します。……私と、グラスが見つけ出し、従うと決めた勇者は、貴方なのです、ブレイヴ」


 そうして彼女が、こちらに視線を向けた時。


 グラスは、自分の思考に一滴の雫が垂れたのを、自覚した。


「待って……ブレイヴは、力を取り戻してるよね?」

『ああ。そいつがどうした?』


 逸っているのか、少し早口になっているブレイヴに、グラスは再度爪を噛む。


「魔王の魂は、勇者の魂と相反する……それに、魔王自身も、勇者の肉体を得たとはいえ、完全じゃない……」


 何かに気づけそうだった。

 どうにかなりそうな、予感がする。


 でも、その予感がどこに通じているのかの答えが、後一歩のところで見えない。


「分かる、分かるはず、答えがあるのよ……勇者と魔王の関係に、この状況を打開する答えが……!!」


 頭痛を覚えるくらいに、今までの記憶を、知識を、掘り起こそうとしたグラスの耳元で。




『ーーーヒヒヒ。答えが知りてーかい? 嬢ちゃん』

 



 と。


 まるで気配を感じない、皮肉げな口調の誰かが、囁いた。


 

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