重戦士は、厭わない。
重戦士バックラーは、かつて魔王によって滅ぼされた国に仕える騎士だった。
勇壮な竜騎士の軍勢を持ち、列強の一つに数えられた国。
だが母国は、魔王の配下である四天王の一角によって、地図上から消えた。
ーーーたった一夜で。
『何だ、これは……』
その日、成人したばかりのバックラーは、王の命令で他国に赴いていた。
魔王が他国の秘宝を狙っているという噂があり、その警戒を促すためだった。
使者の役目を終えて戻ったバックラーが目にしたのは、壊れた王都の正門と、まるで無傷の街並み。
その中に、一撃で殴り殺されたと思しき無数の死体が、転がっていた。
『何だ、これは!!』
バックラーは一夜で故郷を失った。
『ほう、まだ生き残りがいたのか』
忠義を誓った王の元へと駆け抜けた先にいたのは、玉座に座ったまま胸を貫かれて事切れた王の姿と、横に倒れ伏す王女と、そばに立つ武闘家の風体をした魔族。
それを為した理由を問うと、魔族は興味がなさそうに『魔王様の気まぐれだ』と答えた。
バックラーは激昂した。
怒りのままに魔族に挑みかかり……そして、死闘の末に勝利した。
『見事だ』
そう言い残して、魔族は消えた。
喪失と絶望に沈んだバックラーは、数ヶ月をかけて、王都の全ての者の死体を埋めた。
ーーーそして、壊れた門の前に立った。
巨大な墓の墓守として、天命尽きるまでそこに座すつもりだった。
だが、ある日、亡国を訪れた者がいた。
『去れ。この国に立ち入ることは許さん』
『人を探してる。ここに、魔王軍四天王を倒した男がいるって聞いてな。お前がそうか?』
女子どもばかりを連れたその男は、ブレイヴと名乗った。
『オレは勇者らしい。魔王を倒すために、力を貸して欲しい』
『去れ。我には、もう守るものなどない。忠義を誓った相手は、我が王ただ一人』
バックラーには、この地を離れるつもりは毛頭なかった。
しかしブレイヴは、肩をすくめて否定を口にする。
『まだあるぜ。お前が守るものはな』
『何だと……?』
ブレイヴが、後ろに従えた従者たちを見やると、三名の女性が静々と進み出て、被っていたフードを脱いだ。
『ウィズと、グラス……それに、マーシィ王女……!?』
バックラーは自分の目を疑った。
そこにいたのは、確かにこの手で死体を埋めたはずの王女と、彼女の従者である宮廷魔導士の娘たちだったのだ。
マーシィは、逃がされていた。
ウィズたちの父が、他の魔導士たちと共に変身魔法を使って王女と娘たちに化け、身代わりとなった。
そして、ウィズたちによって護衛されながら、バックラーが危機を伝えた他国に赴き、保護されていたのだと。
しかしその他国もまた、王と王子が次々に四天王の手による呪いによって倒れ、滅びの危機に瀕しているという。
それを行った四天王はブレイヴたちの手によって倒されたが、王らの病状は思わしくないらしい。
『力をお貸しください、バックラー。今度は国のためではなく、人々の平和の為に……』
『バックラー。オレは、お前がそれでもここに残るってんなら止めねぇ。マーシィがどうしてもって言うから連れてきただけだしな……でもよ』
言葉を失っているバックラーに対して、跪いて頭を下げるマーシィの横で。
自分の首筋に手を添えたブレイヴが、燃えるような目をこちらに向ける。
『お前にとって大切な存在は、オレにとっても大事なもんになった。……マーシィの側にいてくれるだけでも構わねぇから、一緒に、来てくれねーか?』
バックラーは、拳を握りしめる。
涙がこぼれそうだった。
ーーーまだ、守れるものがある。
『顔をお上げください、王女。王族が、臣下に膝をつくものではありません』
バックラーは、その場に膝をついて王女を立たせると、彼女を見上げて胸元に手を添える。
ーーー今度こそ、命に代えても、貴女をお守りいたします。
そう、誓ったはずなのに。
「オォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
一直線にブレイヴを乗っ取った魔王の元へ向かうティーチに、レイザーと共に追従していたバックラーは。
行く手を塞ぐように動き始めたアーサスを槍術士に任せ、祭壇の上で、一歩前に進み出て手をかざした王女に向かって、進路を変える。
「マーシィ様ッ……!!!」
彼女の放った闇を固めたような破壊の波動を、大楯で真っ向から受け止める。
マーシィのために掴み取った、平和のはずだった。
亡国を離れ、魔王を倒すブレイヴに同道したのは、たった三人の、大切な生き残りの少女たちを守るためだった。
それをーーー。
「我は、諦めぬぞ……!!」
波動を打ち払い、ただ愚直に突き進む。
この命に代えて、彼女を救えるのなら、幾らでも捧げる覚悟をもって。
「マーシィ様!! 目を、お覚まし下さい!!」
祭壇の階段を一足飛びに駆け上がりながら、バックラーは呼びかける。
操られていようと、魂が失われていると言われようと。
彼女の身には、傷一つつけない。
最後のひと時まで、呼び掛け続ける覚悟を持って、バックラーはマーシィの前に立った。




