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槍術士は、決して認めない。


 レイザーは、ファポリス山脈の高山地帯に住む民の生まれだった。


 『ファポリード』と呼ばれ、寒暖差が激しく空気の薄い厳しい環境で生きる、頑健で強靭な肉体を持つ一族の中でも、生まれた時から特別だった。


 病に侵されることもないのも当然として、強大な魔物の住まう山脈をそれら以上の速度で駆け回るだけでなく、膂力だけで、自分より巨大な魔獣を打ち倒すことが出来た。


 だが、レイザーは粗暴ではなかった。


 やって良いことや悪いこと、そうした善悪の観念は薄かったが、面白いことや楽しいことが好きだった。


 たとえば、山で迷った『平野に住む弱い人間』を守りながら下山させれるかどうかの遊戯ゲームをするのは、面白かった。



 ーーーだが、ある日出会ったブレイヴは、今まで見てきた連中とは違った。

 


『よう、小僧。テメェ強ぇな。手合わせしねーか?』


 レイザーが、十に満たない歳の頃。

 山中で出会った時、仲間と一緒に焚き火をしていた彼は、そう言って笑った。


 『こんなところで道に迷ってるのに、何を言ってるのか』と非難轟々の三人……ウィズやグラス、カノンの苦言を意にも介さずに、木の枝を手にした。


『山を降りないのか? 案内してやるのに』


 平野の民のくせに、それも迷子なのにビビってないブレイヴにそう問いかけると、彼は言った。


『それより、俺が勝ったらテメェの里に案内してくれよ。ちょっと用があっから』


 後で聞いた話によると、ファポリードには魔王に関する伝承が伝わっていて、それを求めていたらしい。


 しかしその場で知るよしもないレイザーは、木の枝を構えた瞬間にブレイヴから感じた静かだが強烈な威圧に対する、ワクワクの方を優先した。


 ーーーコイツ、そこらの魔物より強ぇ!!


『良いぞ!! オイラに勝ったら、案内してやるよ!!!』


 レイザーは、『里に人を招くな』という一族の言いつけを破ることになるのを一切忘れて、約束した。


 

 結果、負けた。



 ブレイヴに、拳の一撃すら入れることも出来なかった。


 村の男たちに比べても明らかに細っこい、平野の男に、完敗した。

 ファポリードの大人たちにもほとんど負けたことのなかったレイザーには、信じられなかった。


『嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!! どう考えてもオイラの方が速いのに、力も強いのに、何で負けるんだ!?』

『それが〝技〟ってモンだからな。テメェの戦い方は、力と体任せの勢いだけで、荒いんだよ』


 武器なんて、弱い奴が使うものだと思っていた。

 だから、村の男たちに言われても一切習ったことなんかなかったけど。


『じゃあ、オイラにその『技』ってのを教えろ!!!』

『いいぜ。里に案内してくれたらな』


 レイザーは悔しかった。

 こいつを倒したいと思った。


 だから、それから約束通りに里に案内して……その時に色々あって、結局レイザーは里を追放になった。


 里長は厳格な人物で、『掟破り』は許されざることだったから。


 魔王のことを教える代わりに里を去る、決して場所を口外しない、それを条件にブレイヴたちとレイザーの命は許された。


 許されなくても里の連中じゃレイザーもブレイヴも殺せなかったとは思うが、その条件は特に気にならなかった。


『テメェは強ぇが小柄だからな。槍がいいだろ』


 そう言ったブレイヴに教えてもらった槍が面白くて、鍛錬が楽しかったから。


『どうせ里を出るなら、一緒に来るか?』


 彼にそう誘われた時も、二つ返事で頷いた。


 そうして、魔王を倒し、その上でブレイヴに勝つことを目的にして、鍛錬を続けてきたのに。



 ーーーブレイヴが死ぬ。



 ブレイヴに対する尊敬や、信頼。

 そうしたものは生まれていたが、彼を倒すという気持ちに変わりはなかった。


 レイザーは、まだ彼に勝っていなかった。

 それどころか、おししょー野郎にも負けた。


 ブレイヴの体を取り戻したら、どっちもぶっ倒してやるつもりだったのに。


 魔王野郎に奪われた体ごと倒したら、レイザーがブレイヴを倒せなくなる。

 永遠に勝てなくなる。


 そうなったら、雑魚スケ……スートを守れると、二人に認めさせることも、出来なくなる。



 スートは、出会った頃はただの弱っちくて泣き虫な奴だとしか思ってなかった。

 でも、なんだか気になる奴だった。


 弱いから守ってやるよ、と言うとなぜか怒るが、怒っても、言い争っても、何かと世話を焼いてくれる妙な奴だった。


 彼女をおししょー野郎に預けた時が、『ブレイヴを倒す』という目的に、もう一つの意味が加わった時だった。


 ーーーオイラが守るつもりだったのに!!


 そんな気持ちが、芽生えたのだ。


 レイザーは、難しいことを考えるのが苦手だ。

 内心で渦巻くグチャグチャとした気持ちに、意味を持たせるのが苦手だ。


 その苛立ちと、突きつけられた事実は、容易くレイザーの思考の許容量を超えて、溢れた。



 ーーー認めねぇッッ!!!



 残ったのは、その気持ちだけだった。


 だから、地面を蹴ったおししょー野郎に追随して、槍を構えながら、叫んだ。



「ふざけんじゃねェぞ魔王野郎!!! ブレイヴの体を、返しやがれェ!!!!」


 

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