おししょーは、魔王に異空間に招待される。
「割と上手く行ってたと思ったんだけど、どこでバレたのかな?」
「ううん、全然気づいてなんかなかったよ?♪」
カノンの返答に、アーサスは片方の眉を上げた。
「あ、そうなの?」
―――まぁでも、話し方から違うしねー♪
それに、様子も変わった。
アーサスは、もっとオドオドとしていて、今のような状況で落ち着いた態度を取る男じゃない。
それまでの様子が演技だった可能性もあったけど、もっと根本的に、彼から感じる気配が違った。
だから演技を辞めたというより、中身が入れ替わったという方がしっくり来る。
「ボクは気づかなかったけど、ウィズは気づいてたんじゃない?♪」
レイザーと連れ立って近づいてきたウィズに目を向けると、彼女は頷いた。
「おそらく、中身は魔王でしょう。違いますか?」
「そうだね。ま、大体もう知りたいことは知れたかなと思ったからさ。それに、全員洗脳が解けたならダラダラ長引かせるのもねー。見せものとして面白いところは終わったからさー」
「見せもの……?」
彼の言葉に、カノンはピクリと眉を動かした。
「そうだよ。君たちの争いを見るために、わざわざこんなお膳立てをしたんだよねー。いや、面白かったよ?」
ニッコリと笑ったアーサスは肩をすくめ、パチン、と指を鳴らす。
すると、役目を終えたはずの結界紋に再び膨大な魔力が流れ込み、グラスに奪われた時のように形を変化させる。
―――ッ!
「ああ、警戒しなくても別に攻撃魔法じゃないから、安心しなよ。……今から使うのは、ただの転移魔法さ」
直後に空間が歪み、ぎゅるん、と体が何かに巻き込まれる感覚。
立っている地面の感触が失われ、上下の感覚まで失せて、滑落感にも似た気持ち悪さが体を支配した。
「―――〝絆転移〟」
それは、一瞬の出来事。
アーサスを操る何者かの言葉と共に、瞬きをすると、カノンは見知らぬ場所に立っていた。
地平線の果てまで、どこまでも広がる草原。
その中で、見上げる高さを備えた大理石の祭壇があり、長い階段を目線で辿っていくと、玉座があった。
座っているのは、褐色の肌に銀の髪を持つ男。
勝気そうな顔立ちだが、ひどく退屈そうな目をしていて、見ているだけで鬱々としてくるような退廃的な雰囲気を身に纏っている。
その横に、金の髪を持つ黒衣の女性が立っていた。
全体的に線が細い印象で、全く戦闘に向かなそうな、たおやかな彼女は、全く感情の宿らない青い瞳でこちらを見下ろしていた。
祭壇の前には、ダガーを構えたアーサス。
そしてカノンの周りには、仲間たちが全員揃っていた。
「ブレイヴ……じゃ、ないよね?」
最初に玉座の男に問いかけたのは、グラスだった。
彼女は辺境伯の砦にいたはずだが、先程の聖気魔法の後に降りて来ていたのか、あるいは魔王が意図的に連れてきたのか、一緒にこちらに転移していたらしい。
ウィズと相似の顔立ちをしている彼女は、真剣な表情をするとやはり双子なのだと思う。
「「そうだね。直接、正体を明かして話したのはウィズだけだったかな?」」
応えたのは、ブレイヴとアーサスの二人だった。
完全に声色が重なっている事から、彼らの体に別々の魔族が入っているのではなく、魔王に操られているのだろうと分かる。
『ブレイヴはオレだよ、グラス』
彼らの言葉を無視して、声を上げたのは毛玉のブレイヴだった。
「いつから?」
『もう数ヶ月経つが』
ブレイヴは淡々と応えて、ゆっくりと立ち上がる自分の体を見つめ、それから横の王妃に目を移した。
『全員の、洗脳が解けて良かった。で、全員が揃ったこの場で言っとくが』
そして、少し低い声音で、言葉を重ねる。
『オレの体ごと、魔王とーーー王妃を、殺してくれ』
「「「「!?」」」」
カノン自身と、グラス、バックラー、スート、の三人が息を呑み、ウィズが黙り込む。
「何でだよ!?」
「……どういう事だ?」
レイザーが噛み付くように吼えて、ティーチは、ブレイヴの言葉に唸るように問いかけた。
「俺たちは、お前さんの体を取り戻す為に、旅して来たんじゃねーのか?」
「それに関しては、僕の方から説明しようかな。ねぇ、ブレイヴ」
玉座から立ち上がった魔王は、階段の手前で立ち止まると、嘲るような笑みを浮かべる。
「ここが、演劇の最後の幕……クライマックスさ。この秘密を聞いて、是非とも盛り上がって欲しいね」
ブレイヴは、彼の言葉に静かに怒気を放ったが、言われた通りに黙った。
嗜虐に愉しみを覚えているように、こちらの面々を見渡した魔王は、ゆっくりと答えを口にする。
「―――勇者は、その毛玉に入った時点で詰んでるんだよ。」




