おししょーは、弟子のために動く。
「《聖盾》!」
スートが盾を構え、聖騎士の自己防御武技を発動すると、その体が白い輝きに包まれた。
《聖護》よりも、さらに増大した聖気の壁が、盾の前面に展開されてバックラーの槍の先端を受ける。
衝突点から弾けるように炎気と聖気が渦巻き、拮抗した二人の動きが止まる。
「スート……!?」
「くぅぅ……!!」
盾と矛の拮抗は、体躯と能力から、バックラー有利。
それでも踏み留まるスートの肩から、毛玉のブレイヴがこちらに向かって跳ねる。
『ティーチィッッ!! ボサッとしてんじゃねぇぞ!!』
言われて、ティーチは正気に還った。
ーーーこのままでは、スートが喰われる。
バックラーは、ここでは引けない。
相手がスートであったところで、そのまま突き抜いてティーチを制すしか勝ち筋がないからだ。
彼女が生み出してくれた隙に乗じて、バックラーを倒さなければ……スートが死ぬ。
ーーーそれは、ダメだ。
そう思った瞬間に、走馬灯のように流れたのは、スートと共に過ごした日々だった。
彼女を、引き取った時に。
『えっと……私、他に何も出来ないので、ご飯作りました……』
遠慮がちに、自信なさげに、そう言って差し出された食事を。
美味いと褒めた時に、少しだけ見せてくれた笑顔の。
『おししょー! 怠けてばっかりじゃなくて、ちょっとは村の皆と一緒に働きましょー!』
少しずつ村に受け入れられて、いつの間にか信頼を勝ち取り、明るさを取り戻していった時の。
『才能……ですか……? 私に……?』
聖騎士に向いているんじゃないかと伝えた時の戸惑った顔と、その後のひたむきさの。
『おししょー!』
『おししょー!?』
『おっししょー♪』
流れるままにのらりくらりと生きて、穏やかだが波もなかった無為の自分が。
スートと共に、慣れない師として過ごした二人三脚の生活に。
覚えていた幸福を。
その、価値を。
与えてくれた彼女が。
ーーー死ぬのだけは、許容出来ない。
自分の命ならば、必死に守る必要などなかった。
ただ生きていただけの自分の命一つで、より良き者達が手を取り合うのなら、それでいいと。
だが、スートが。
「私が死んでも……おししょーだけは、殺させません!!」
自分に生きていて欲しいと、そう望むのなら。
弟子として、そう望むのなら。
ただ一人、彼女の望みだけは、叶えてやらなければならない。
そしてスートが死ぬことを、受け入れてはならない。
ティーチは、スートの師なのだから。
「オォオオオオ……!!」
体に、活力が戻る。
ティーチが命を諦めても、彼女が諦めないのならば。
自分自身が諦めていい道理は、ないのだ。
ティーチは奥歯を噛み締めながら、飛び込んで来たブレイヴの聖気を偃月刀で吸収した。
魂の底から湧き上がる熱と、限界まで受け入れた力が、武具の呪玉で結実する。
腰を落とし、左手を鍔の根元に添えて。
ティーチは、一気に膝をたわめて跳ねた。
スートの頭上を飛び越え、ただ一点、狙うのは鬼の如く姿を変化させたバックラーの額。
彼女の防御を突き抜くのに、全力を傾けていたバックラーは挙動が遅れ、こちらを見上げたまま一瞬、動きを止めた。
ティーチは、落下の勢いに身を任せたまま、偃月刀を扱き抜くと同時に武技を発動する。
「ーーー〝黒の竜牙〟!!」
聖気と炎気が、武具の力で統合される。
尖端から白い光に染まった刃が、バックラーの額を撃ち抜く、と同時に。
死霊を出現させた大規模結界が、反応した。




