おししょーは、相手が背負うものの重さを悟る。
ーーー木刀が……?
ティーチは、未だかつてない状況に戸惑っていた。
常は、木刀が変化した【纏鎧】を纏っていたため、基本的には素手で戦うか、あるいは武具を別に持って戦っていたのだ。
【纏鎧】を纏った上に、木刀自体が変化して武具になったことなど、今までない。
ーーーこれも、トゥス翁に習った練気法の副産物か?
しかし、そんな事に気を取られている内に、受け止めたバックラーの十字槍に力がこもる。
「ほう、先ほどよりも強い気配を感じるな。貴様も力を隠していたか」
「そんな余裕はなかった、よ!」
相手に合わせて身を引きつつ、ティーチは偃月刀で十字槍をいなす。
「死霊どもを始末しねーと、街がヤバいんじゃないのか?」
「貴様らが引き起こしたことだろう!」
「違うんだがなぁ……」
ティーチの狙いは、あくまでも聖気によって相手の洗脳を解く事だったのだ。
それが、よく分からないままに死霊を現出させる術式になった。
「休戦しないか? お前さんの洗脳は解けてるはずなんだがなぁ」
「戯言を抜かすな……! 王と、民を守ることが我が使命! その命を脅かし、あまつさえ約束を違えた……そんな貴様の言葉に、耳を貸す必要などない!!」
ーーーそうなんだよなぁ。
バックラーが言っていることの方が、ド正論だ。
向こうから見れば、ティーチは信用に値する存在ではなくなっている。
しかしこのまま一騎打ちを続けて仮に打ち負かしたところで、結局最後までバックラーは諦めはしないだろう。
彼は武人だ。
それも、一本芯の通った漢である。
ーーーとりあえず、時間は稼ぐか。その上で……。
どうにかウィズとグラスの洗脳も解き、そっちから止めてもらう。
あるいは一度撤退して策を練り直す。
その二つしか、道はなさそうだった。
ーーーまぁ、一番あり得そうなのは、このまま俺がバックラーに殺されるっていう流れだけどな……。
自分の首を差し出して和解が成るなら、一興なのだが。
望みが薄い以上、全力で抵抗しなければならない。
ティーチは、再び突撃してきたバックラーの攻撃を、真正面から受けて立った。
木刀によって生み出した火の【纏鎧】は元々、非常に力に優れた攻撃的な形態だ。
それが、今回の重気法により鎧が強固かつ巨大になり、土の形態を超える防御力を手に入れているようだった。
バックラーの力に、タメを張れるくらいに。
数度打ち合った後、ティーチは両手で偃月刀を握り直し、気力を込めて大きく横に薙ぐ。
「ーーー《黒の剛断》!」
刃から炎が吹き出し、射程の伸びた斬撃がバックラーを襲うが、鬼のように巨大なバックラーの体が重さを感じさせない動きで再び跳ねる。
ドン! と音を立てて、足元を薙ぎ抜けた炎が半円状に周りの死霊たちを薙ぎ払い、消滅させていく。
同時に、再び《炎滅落鳳破》を放ったバックラーが落下し、再度避けると同時に、ふと、ティーチは偃月刀の呪玉が光っているのを見て。
「……《武技吸収》」
出来るのでは、と感じた行為を実行に移した。
すると、ティーチの意思に応えて偃月刀がその威力を吸収し始める。
ーーー出来た。
それも、先ほどよりも吸収量が多い。
トゥスが言った通り、この偃月刀は……ひいてはティーチ自身は、本来勇者の持つ『天地の気を吸収する力』を備えているのだ。
完全に使いこなせれば、際限なく敵や周囲から無限に継戦するための力を補給できる、途方もない能力。
その力に、ティーチは自分自身で空恐ろしさを覚えた。
ーーー勇者の力ってのは、何なんだ?
あまりにも桁外れの力に思えた。
何のために、そんな力が存在するのかも分からないほどに。
魔王を倒す、ただそれだけのために存在していい力ではない、気がした。
バックラーの武技がさらに死霊たちを吹き飛ばし、そのまま、さらに自身の勢いでギシギシと音を立てるほどに全身に力を込めて落下の勢いを無視しながら、こちらに突っ込んでくる。
「ぬぅうううう……!!!」
相手から放たれる確殺の意志と覇気が、ティーチの体を叩いた。
『負けられぬ』という強烈な気合いは……自分にはないもの。
背負うものの重さを力に変える、勇者パーティーの中でも年嵩の連中から特に感じる覚悟こそ、自分に足りないものだ。
ーーースゲェな。
ティーチは、素直にそう思った。
そして、負けても良いか、と、同時に思ってしまう。
バックラーの洗脳は解けているのだ。
自分がこのまま時間を稼いで、その後に殺されても、ブレイヴたちが彼の元に降れば、話に耳を傾けない、ということはないのではないだろうか。
関係の薄いティーチと違い、彼らは、仲間同士なのだ。
そう、思ったことが悪かったのか。
バックラーの突進に対して、ティーチは反応が遅れた。
偃月刀が弾く前に、扱き抜かれた十字槍の先端が、胸元に届く……と判断したところで。
「おししょー!!!!」
という声と共に。
小柄な影が、ティーチとバックラーの間に滑り込んだ。




