おししょーは、真竜の偃月刀を手にする。
「あれらの死霊は、操れるのですか?」
バックラーの武技による爆炎が弾けるのを見ながら、ウィズは杖に魔力を込めた。
「細かくは無理だけど、ある程度は。ただ、さすがにカノンが結界紋を描いていて規模が大きい魔法だったし、維持する程度しか出来ないかなー」
グラスはのんびりとした口調で答えたが、額には汗が浮かんでいる。
ーーー長くは無理、ということでしょうか。
ウィズは、遠くに見える辺境軍の動きを予測した。
この状況で突っ込んでくることはないだろう。
静観か、撤退か。
どちらにしても、動くのは自分の役目だろう。
「全軍、現状の陣形を維持。前線部隊は、万一都市側に死霊が向かってきたら駆逐して」
ウィズはグラスが指示を出すのを聞きながら、術式を展開する。
「私も向かいます。維持が不可能になった時点で、魔法陣の解除を」
「オッケー。どうするの?」
「レイザーたちの無力化を目指します。殺害も止むなしの状況かと」
「だね」
ウィズは、そのまま時の魔法を発動した。
「〝秒針よ、疾く進め〟」
同時に、ギシ、と自分の周りの空間が軋んだ。
世界から色が消え、周りの人々だけでなく、その場に在る全ての動きがゆったりと流れ始める。
世界の流れを緩やかにする魔法……と言われているが、実際は逆だ。
これは、自分だけ時の流れを加速する魔法である。
ウィズは、戦地を回り込むように相手の中枢へと移動を始めた。
※※※
「ッ!!」
ティーチは、視界が赤くなった瞬間に最大限集中した。
一気に飛び退き、《武技吸収》を発動する。
バックラーの《炎滅落鳳破》で放たれた炎気を、練り上げるように吸えるだけ吸い込んでいく。
「グゥぅ……!」
吸い込みきれず、体に届く炎が肌を焼く痛みに耐えつつ、大きく吹き飛ばされたティーチは、なんとか転がらずに踏みとどまった。
痺れにも似た感覚が全身を覆い、自分の体から白い煙が上がっているのが見えた。
倒れないように堪えつつ、奥歯を噛み締める。
バックラーは、抉れて黒ずんだ地面の中心でゆらりと立ち上がった。
周りにいて巻き込まれた死霊どもが燃えて異臭を放つ煙の中で、十字槍を引き抜き、こちらに目を向ける。
ーーーマジでとんでもねぇ。
吸収してなお、これだけの威力を持つ武技など、そう何発も食らってはいられない。
逆に相手も、そうそう放つことは出来ないのでは……と楽観視出来る状況でもなかった。
しかし、まだ手はある。
今吸収した炎気を使えば、もう一度【纏鎧】出来る。
が、吸収した炎気で作った【纏鎧】だけでは、対等にやりあえはしないだろう。
もっと強く。
より強く。
ティーチは、自分でかき集めた天地の気をそこに重ねて、ありったけの力を込めて【纏鎧】を発現した。
「《鏡纏身》ーーー〝重気法〟!!」
その瞬間、ゴゥ! と音を立てて木刀から黒い炎が吹き出して体を包む。
普段と違う反応ーーーそれが自身で蓄えた天地の気を重ねた結果なのか、あるいはバックラーの強烈な武技を吸収したからなのかは分からないが。
体の奥底から、熱が湧き上がるような感覚と共に発現したのは、普段よりのっぺりとして分厚い、巨大な黒い外殻だった。
そのまま拳を握りしめて全身に力を込めると、ビキビキと手の甲や胸元から全身にひび割れが走り、そこから高温の炭に似た赤黒い輝きが覗く。
手の中には、黒い木刀がそのまま残っていた。
さらに手に気力を込めると、木刀の形が変化していく。
槍のように長く伸びて、先端が花開くように金属質の刀身を発現する。
バックラーの十字槍に似た……しかし傘のない黒い鍔と赤く巨大な呪玉を備える、より攻撃的な形の片刃の武器。
ーーー偃月刀。
ティーチは、こちらの変化が終わると同時に突撃してきたバックラーの一撃を、とっさにその武器で受け止めた。




