女性陣は、お互いに手を打ち合う。
ーーーティーチが、土檻に閉じ込めたバックラーに聖気を叩き込んだ直後。
「準備出来たよ♪ 始めよっか♪」
「はい……」
「おう」
カノンの言葉に、スートは緊張を感じながらうなずいた。
ブレイヴも、こちらの肩の上に乗ったまま聖気を溜め込んでいる。
準備は万全、のはずだ。
先ほどからずっと集中して、力を溜めている。
バックラーの炎気によってティーチの土檻が弾き飛ばされ、二人が何かを話していた。
そのタイミングで、カノンがペロリと唇を舐める。
「行くよ……《地描》♪」
ーーーティーチの策は、カノンの土の紋術によって『聖の結界紋』を描くことだった。
彼女の足元から、強烈な土気が一瞬で平原を包み込むように広がる。
そして、ドン、と音を立てて紋が描かれた瞬間、ブレイヴが声を張り上げた。
『スート!』
「はい! ーーー《最上位浄化魔法》!!」
ブレイヴの聖気を受け取り、スートは魔法を発動した。
この魔法は、体を一切傷つけない魔法だと、トゥスは言っていた。
その代わり、穢れの全てを浄化し、魔族であればその魂を滅する魔法なのだと。
カノンの敷いた魔法陣を、聖気が走る。
二人の補助を受けたことで、確実に発動する……はずだった魔法が。
ーーー発動の直前に、ズォ、と不穏な乱れを起こし、瘴気に転じた。
「……!?」
『何だァ!?』
ブレイヴにも状況が分からなかったのか、スートが息を呑むと同時に声を張り上げる。
カノンが、その状況に目を細めて、ポツリとつぶやいた。
「グラス……やってくれたわね」
※※※
「ふふん。お見通しだよ、そんなチャチぃ策はさー」
怒気を放ち、本気になったバックラーを眺めながら、話術士グラスは唇を指先で撫でる。
バックラーが一騎打ちを提案した時。
グラスはすぐに、相手の取りうる手を読んでいた。
戦力を考えるのなら、辺境軍とこちらの軍はほぼ互角、もしくはこちらの方が有利。
その上で、相手には行軍の疲労があり、こちらは鉄壁の要塞を保持している。
最悪は籠城すれば、バックラーとウィズがいる限りこちらの負けはない。
もし仮にバックラーが落ちたとしても、ブレイヴへの援軍を頼めば問題はないと思っていた。
カノンは少し厄介だが、レイザーは脳筋であり、グラスにしてみれば使う側によって強烈なコマにも役立たずのデクにもなり得る存在だ。
故に。
「相手が取れる手は、正攻法でバックラーを抜くか、不意打ちでこちらの戦力を崩すしかないんだよねー。そこまで読めたら、相手のコマが割れてるんだから余裕だよ」
カノンの紋術によって、何らかの大規模魔法をこちらに叩き込んで来る、のが、一番固い手だったのだ。
相手はまんまと、それをした。
グラスは話術士である。
話術士とは言葉を操ることに熟達した存在だ。
それは人との交渉など『口が上手い』ということ以外に、もう一つ。
『呪を操る』ことに長けている、という意味でもあった。
ウィズが回復魔法と攻撃魔法を同時に操り、どちらも得意とする賢者であるように。
双子の妹であるグラスはーーー相手の魔法を変容させることに長けていた。
「……穏便には、収まりませんでしたね」
「元々期待はしてなかったけどねー」
ウィズのため息混じりの言葉に、グラスはアハハ、と笑う。
グラスがやったことは単純だった。
相手の聖魔法が発動する瞬間に、一点、中核となる呪言を反転させたのだ。
そのため、発動する予定だった何らかの聖魔法は、同様の威力を持つ闇魔法に変化している。
「でも、凄いねー。この規模の死霊魔法を操るのは、アタシも初めてだなー」
言いながら手を前に差し出したグラスは、生じた瘴気混じりの死霊魔法を暴発する前に発動した。
「ーーー《最上位死霊魔法》」




