おししょーは、聖気の一撃を叩き込む。
ーーーなるほどな。
バックラーは、ティーチと剣を交えて少し納得した。
ーーーブレイヴが、信頼を置いていた理由も分かる。
体の動きに、無駄がない。
単純な膂力や速度という点においては、おそらく優れた者がごまんといるだろう。
バックラー自身も、仕掛けてきた彼に対応出来ないというわけではない。
だが、技量、という点においては、決して自分たちに劣らないと感じた。
技量というものは、単純な身体能力のみを指すものではない。
己に出来ることを十全に理解して、最適に行使する練度のことだ。
ティーチは、片田舎の辺境で……ブレイヴと共に育ったとはいえ……隠棲していたとは思えないほどの力量を持っている。
浸透勁による初手の一撃も、バックラーが油断していれば通っただろう。
ーーー最適を瞬時に採択する頭の回転、そして、想定外に動じない精神性……。
彼は、こちらの不意打ちに冷静さを欠かなかった。
体勢を立て直して即座に動き出すと、こちらから見て右回りに曲線を描いて迫ってくる。
ーーー掴み所のない男だと思っていたが、喩えるのなら、柳だな。
今回の動きの理由も、大楯を構えている左側は、浸透頸をこちらに読まれている以上抜きにくい、という判断だろう。
一合で、思考の流れを含めた状況を把握している。
バックラーは、そんなティーチの動きに合わせて、相手の正面になるように体を構え続けた。
速度で劣るにしても、向こうから仕掛けてきている現状、移動距離の差でこちらが優位。
ーーーさぁ、次はどう出る?
お互いに目まぐるしく動いている状況であれば、一瞬の隙を突いて来ることも可能だろうが、バックラーは待ちの姿勢を貫いた。
すると、ティーチはこちらの周りを半周したところで、ピタリと動きを止める。
そのまま、ダラリと両手を下げた自然体で大きく息を吐いた。
ーーー……?
その行動に不審を感じたバックラーは、一歩、重圧をかけるために足を踏み出す。
こちらの間合いまで、後二歩。
しかしティーチはそれには反応せず、鉄仮面に備わる赤い両眼でこちらをただ、見返して来る。
ーーー来ないのか?
そうバックラーが考えた途端、ズォ、とティーチの体を包む天地の気が増大した。
そして、姿が変化する。
白を基調とした【纏鎧】が黒に変化し、両肩と胸、そして両手足の外殻が分厚くなった部分が黄色に染まる。
頭部にも、虎のような隈取のような黄色の筋が浮かび上がった。
同時に、ティーチは前に両手を突き出す。
「喰らえ…… 《黒の重圧》!!」
武技。
ティーチが呪言を発した瞬間、グッと体を押さえつけるような重圧を感じた。
さらに周りの地面が円形に抉れ、抉れた分だけ大きくそそり立ち。
押し潰すように、土の津波が襲いかかってきた。
※※※
「《鏡纏身》!」
土の波がバックラーを呑み込むと同時に固まり、半球系の土檻に囚われる。
ティーチは、武技を放った直後に解けた【纏鎧】を再び纏い直した。
トゥスに習った、《武技吸収》のもう一つの使い方。
上手くいったが、本番はここからだ。
土の檻が完全に相手を固め切った以上、アレを破壊した直後にこちらに合わせて大楯を構え直す暇はない。
今度こそティーチは、聖の一撃を叩き込むために、全ての聖気を両手に集める。
「オォオオオォ…… 《黒の聖掌》!!」
バックラーが土檻を破る前に、聖気の浸透勁が檻の中を貫く。
土檻は完全に身動きが取れなくなる為、破らない限りいなす方法はない。
ーーー取れた!
少なくとも、この段階で洗脳は解けたはずだ。
後は、気絶していれば……と考えたティーチだったが、そこまで相手も甘くはなかった。
残心に入ったところで、土檻の中から凄まじい覇気の圧が湧き上がり、メキメキとヒビが入る。
そのひび割れから、炎が吹き出した。
「……!」
残心を解いてティーチがとっさに飛び退ると、土檻が砕け散って炎球が辺りを包むように膨れ上がった。




