おししょーは、三星と出会う。
ーーー翌日。
辺境伯軍は、隊列を整えて敵地を望んでいた。
「まぁ、当たり前みたいに警戒してるなぁ……」
要塞都市の正門は閉じており、外壁の上には弓兵隊がズラリと並んでいた。
壁の前にも槍を持った兵士たちが展開しており、防御の布陣を敷いているように見える、が。
「……籠城する様子が見えない、ってことは、こっちとぶつかる気満々か?」
「どうだろうねー♪ バックラーは真面目だから、領民を守る為に中に入れないようにしてるんだと思うよー♪」
カノンは、土色に染めたマントを辺境伯の印章で前留めした姿で、腕を組んでいた。
「戦力としては、こっちが不利なんだよな?」
「んー、そうだねー♪ 兵力もだし、能力の有利不利もかなー?♪」
元勇者パーティーの面々は、こちらは《土》の紋術士カノンと、《風》の槍術士レイザーである。
向こうは、《命》の話術士グラスと、《火》の重戦士バックラーだ。
グラスとカノンは共に遠距離攻撃を得意とするが、属性相性が悪く、レイザーも速度でバックラーに勝るが防御で劣り、こちらも相性は不利である。
「せめて、この毛玉がまともな体を持ってりゃ、ちっと違うんだけどなー」
『足先で小突くんじゃねぇっ!!』
ブレイヴに、ツンツン、と足を伸ばすと、噛み付くような動きを見せたので慌てて引く。
「あぶねーな、おい。戦う前に怪我したらどーすんだよ」
『テメェがふざけた真似するからだろーが! ていうかオレがやれねーからテメェを連れて来たんだろ!?』
「そう思うなら、もうちょっと感謝の気持ちを持ってもいいと思うんだがな……」
『もう少しやる気出したらな!』
扱いが雑じゃねーか? とティーチは口をへの字に曲げてみせるが、まぁ、いつものじゃれ合いの範疇なので特に気分を害したわけではない。
「で、あいつらはどこだー!?」
槍を担いだレイザーが声を上げると、まるでそれに答えるように、正門の前から少数の兵を連れた一団が前に出てきた。
全身鎧を身につけて兜を脇に抱えた大男と、左右に付き従う同じ顔をした二人の女性。
真っ白な肌で冷静な表情と、日焼けした肌に快活そうな表情、という正反対の印象を覚える彼女らの姿に、ブレイヴがうめいた。
『チッ……ウィズもいるのかよ』
「どう思う?」
敵が、元・勇者パーティー二人ではなく三人に増えている、というところで、ティーチは表情を引き締めた。
ウィズは、ブレイヴの魂をこちらに逃した女性だ。
敵側にいるのは、特に不思議なことではないが、洗脳されているかいないか、という点がこちらからは分からない。
それをブレイヴに問いかけたのだが。
『分からねーな。だが、味方だと思って動かねー方がいい』
「だよな……」
ウィズが洗脳されておらず、土壇場になってこちらに味方してくれる、と、無条件に信じることは出来ない状況だった。
『それに、バックラーとウィズは恋仲だ。もし洗脳されてなくても、感情は揺れるだろうしな』
「ああ……そいつも、分かる」
初めて聞いた話ではあるものの、ブレイヴの言いたいことは十分に理解出来た。
そこで一団がお互いの間で足を止めて、兜を抱えた重戦士が声を張り上げる。
「辺境伯軍と見受ける! いかなる用件で軍を率い、我が領地に足を踏み入れたか、その真意を尋ねたい!」
その言葉に、ティーチはアゴの無精ヒゲを撫でながら眉根を寄せる。
「呼びかけてきた……? どういう狙いだ?」
『まぁ、性格だろうな。バックラーは良くも悪くも真っ直ぐな野郎だからな。洗脳されても性格が変わんねーって考えると、多分、正々堂々戦り合うつもりなんだろ』
「こっちを前に引っ張り出して狙撃、とかいう可能性は?」
ティーチは、勇者パーティー全員の気質を深く知っているわけではないので、残りの面々に問いかけると。
「ないと思いますー!」
「ないと思うなー♪」
「ないな!」
『グラスとウィズだけなら、あり得るが。それやったらバックラーブチギレだと思うぞ。洗脳されてても多分関係ねー』
「いや全員即答かよ」
バックラーとやらは、めちゃくちゃ信頼されているらしい。
「えーっと……そしたら、どうすんスか?」
大人しくしていたアーサスが恐る恐る問いかけるのに、ティーチは肩をすくめる。
「話がしたいってんなら、話しゃ良いだろ。とりあえず、準備だけしといてな」
「そうだねー♪」
カノンが前に出るのに、肩にブレイヴを載せたティーチは一緒についていく。
律儀に待っていたバックラーは、鋭い目をしていたが冷静そうな様子で佇んでいる。
「やっほ〜♪ 久しぶりー♪」
「ヤッホー♪」
カノンが相変わらず呑気に手を振るのに、グラスが明るく手を振り返す。
その様子にウィズがため息を吐き、バックラーは特に反応を示さなかった。
「ティーチに、カノン……レイザーも、そちらに降ったか」
「そうだねー♪ スートもいるよ♪」
「何だと?」
大男は、カノンの言葉に眉を潜めた。
「あの子を戦地に引っ張り出しているのか?」
「スートが来たのは、自分の意思だよ」
ティーチが答えると、渋面を浮かべたバックラーが小さくうなずく。
「まぁいい。その肩の上の毛玉は何だ?」
「ただの連れだよ。村近くの森で仲良くなってな」
一応、洗脳されていたら説得が通じないのは、カノンとレイザーの時に分かっている。
ブレイヴをブレイヴと認識しても、それを自分の後ろに控える『ブレイヴ陛下』と結び付けないのも、同様に理解していた。
そこでチラリとウィズの反応を探るが、彼女が特に何かを言いそうな気配はなかった。
ウィズは情報を握っているのに、その事実に触れる様子もないので、やはり敵か味方か判別はつかない。
バックラーは、ティーチの軽口に付き合う気はないようで、それ以上毛玉のことには触れずに話を続ける。
「現状、我々は軍を動かすつもりはない」
「……?」
「俺は、兵を使った総力戦を望まん。そして陛下のご命令は、命を狙う貴様を制すことのみ」
意外な言葉に、ティーチが首を傾げると、バックラーは淡々と続けた。
「貴様が呑むのならーーー俺と貴様の、一騎討ちを望む」




