表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/68

おししょーは、仙人にコツを習うようです。


 ぶらり、とティーチに近づいてきた仙人が、肩に手を置いてくる。


 触られている、というには朧げな感覚だが、しかし触れられたところは何か冷たいものが乗っているように、ひんやりとする。


「……翁は、やはり実態がないのか?」

「いんや。まだ体はあらぁね。まぁ、長いこと生き過ぎたせいで、だいぶ〝薄く〟なっちまってるが」


 トゥスは、トントン、とキセルの先でティーチの木刀を叩いた。


「抜きな。この手のコツは、口で教えるよりも、肌で覚えた方が早いさね」

「ああ」


 ティーチが木刀を抜くと、仙人はするりと後ろに回り込み……背筋がぞくりとする感覚と共に、体の中に何かが入り込んでくる。


「!」

『ヒヒヒ。焦るこたぁねぇさね。ちっとばかり憑依ひょういさせてもらっただけだからねぇ』


 おそらくは、仙術の一種なのだろう。

 違和感を覚えていたが、最初の怖気を抜けると、逆に力が湧いて来るような感じがした。


『力を抜きな、アンちゃん。りきむと、体の気の巡りが悪くなって上手くいかねーからねぇ』

「分かった」


 木刀を半身に構えながら呼吸を整えると、じんわりと体に熱がこもり始める。

 同時に、意識が仙人のものと重なって、視界の中で世界が普段よりも色づいていく。


 天地に遊ぶ精霊の様子や、火や水、大地の気の(さか)えまでもが鮮明に感じられる。


 ーーースゲェ。


 ティーチは、感動を覚えた。


 世界に満ちる輝きは、仙人の目から見るとこんなにも華やかなのかと。


『お前さんは、素直だねぇ。二つに分かれなきゃ、本来はこの景色がお前さんの景色だったはずさね』


 トゥスが、体内からティーチの心の声に応える。

 

『意識を凝らしておくことさね。……天地から直接気を吸うってのは、こうするんさね』


 言われると同時に、体にほんのりと感じていた熱が、足の先からさらに燃え上がるように増していく。


 通常の気を練り上げる感覚ではなく、《武技吸収(アビリティ・ドレイン)》によって相手の力を吸うのと同じように、一気に凄まじい力が流入してくる。


 ーーーく、ぉ……!?


 しかも同一の気ではなく、ありとあらゆる周りの気が無差別に体の中で蓄積され、仙人の力で練り上げられていく。


 体が、はち切れそうだ。


『分かるかい、兄ちゃん。これが〝超越活性〟……本来、勇者に備わる、世界と交流して、己を無限に高めていく力さね』


 力の奔流(ほんりゅう)に耐えるティーチに、トゥスが楽しげに告げる。


『そうして、暴れる力を制し、研ぎ澄ませれば、時すらもが、お前さんの前に屈する。ーーー《竜体活性(ブレイク・アップ)》』


 仙人の囁きと共に、世界の流れが緩やかになったように感じられる。

 スートやブレイヴの動きや、草木の風に揺れる様から、星のまたたきまで、全てが、ひどくゆったりとして。


『木刀を振ってみな』


 言われて、片手で半身に構えていた木刀を両手で握る。

 全てが緩やかな中で、自分の動きだけはいつも通りだった。


 ーーー速い。


 上段に構えた木刀をいつも通りに振り下ろすと、さほど力を込めていないのに風が刀身の周りに渦を巻き、剣閃の圧が、真っ直ぐに眼前の草を割った。


『黒い木刀も、やがてお前さんの意のままに姿を変えるようになるだろうねぇ。こいつは活殺自在、武も呪も思いのままに操れる武具として。……ま、本来なら操れるはずの聖気魔法を操る術は、お前さんにゃねーがねぇ』

 

 最後にからかいにも似た言葉を口にして、仙人が体を離れると、時の流れが元に戻る。


「……ぶはぁ!」


 力の圧から解放されたティーチは、大きく息を吐く。

 あの一瞬で、全身が汗だくになって疲労感がのしかかっていた。


「分かったかい?」


 ヒヒヒ、と笑いながらキセルをふかす仙人の方は、涼しい顔をしている。


「……いやもう、翁が直接、魔王を倒した方が早いんじゃねーか?」

「言っただろう? わっちは面倒なことが嫌いさね。それに、力を御することは出来ても、肝心の戦う力そのものがねーねぇ』


 何せ、この体だしねぇ、とトゥスはおどけて腕を広げてみせた。


 まぁ、言いたいことは分からないでもない。

 そこで、息を詰めていたスートが両手をバンザイの形に上げながら口を開いた。


「おししょー! 凄い速かったです! 剣筋が見えませんでしたー!!」

「いや、俺の力じゃねーよ」


 直感的に、彼が教えてくれた《武技吸収(アビリティ・ドレイン)》の力は多用できないだろう、と理解していた。


 仙人の手助けがなければ、あれほどの力は御せない。

 ティーチはアゴの汗を腕で拭ってから、木刀を再び腰に差した。


「力はお前さんのモンさね。わっちが与えたわけじゃねーねぇ」

「制御出来ない力は、自分のモンとは言えねーよ」


 力を操るコツそのものは、おそらく体感により掴めてはいる。

 だが、あれだけの力を制御出来るようになるには、慣れと、かなりの修練が必要だろう。


「まぁでも……【纏鎧】くらいは自前で出来そうか」


 今の力を少しでも扱えたら、敵の武技を受けずとも、自身の力のみで鎧うことは可能そうだ。

 それだけでも、常に後手に回ることを考えなくていい分、有利を取れるようになる。


「感謝するよ、翁。スートのことも(あわ)せて、スゲェ助かった」

「そいつは、良かったねぇ」


 あまり興味がなさそうな様子で歩き出し、最初と同様の姿勢で再び白竜の体にもたれたトゥスに、ブレイヴがボソリと問いかける。


『爺さん、あんた、本当に何者だ?』

「別に何者でもねーねぇ。……わっちは、ちっとばかし永く生きて、未だに野山で遊ぶだけの、ただの小僧さね』


 ヒヒヒ、と笑ったトゥスは、軽く片目を閉じる。


「今日はちっとばかし面白かったねぇ。……用事が終わって縁がありゃ、次は酒でも持ってきてくれると嬉しいねぇ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ