弟子の境遇には、意外な事実が隠されていたようです。
「……翁は、小僧っていうにゃ歳とりすぎな気がするけどな」
それぞれに名前を告げた後、白竜の間にある空間で向き合うように座ったティーチの言葉に、トゥスはヒヒヒ、とまた独特な笑い声を発した。
「見た目の歳なんざ、いくらでも変えられるからねぇ」
『要塞都市近くの山に、仙が住むって話を聞いたことがあるな。翁はもしかしてソイツじゃねーか?』
「そんな大層なモンじゃねーんだけどねぇ。ま、そう呼ばれることもあらぁね」
トゥスが、再度そう言いながらキセルをふかす。
不思議と香りのないそのキセルも、老人も、目の前で見てもやはり体を持たないように朧げだった。
「一つ、気になっていることを尋ねても?」
改まるには懐っこい仙人に、どういう口調で話しかけたらいいか迷いつつティーチが問うと、彼はあっさりとうなずいた。
「夜は長ぇからね」
「珍しい魂、と言ったが、ブレイヴだけではなく?」
と、毛玉を指さすと、トゥスはますますおかしげに笑みを深めた。
「そう、お前さんも、そっちの嬢ちゃんもさね」
「一体、どんな?」
「そうさねぇ……まずお前さんとそこの毛玉は〝魂の双子〟さね」
老人の言葉に、ティーチはブレイヴと顔を見合わせた。
『魂の双子……? 俺と、ティーチが?』
「そうさね。お前さんたちは、分かたれた一つの魂さね。なんだって唯一無二なはずの勇者の魂がそんなことになっちまってるのか、わっちにはさっぱり分からんがね」
「勇者……? 俺が?」
ティーチは混乱した。
自分がそんな大層な魂を持っているなどと言われても、違和感しかない。
しかし、トゥスは軽くうなずく。
「そう。ま、お前さんの方が〝影〟っぽいねぇ。本来なら勇者に備わってるはずの、天地の気を世界に満たす力と、その力を吸収して操る力が分かれちまってる」
それは、多分ブレイヴの扱う《湧気増幅》と、黒い木刀を手にすることでティーチが扱えるようになった《武気吸収》のことだろう。
「そいつに合わせて、真竜の剣も分かれたんだろうねぇ。本当に面白いことになってるさね」
『ってことは、ティーチの木刀も勇者の剣なのか?』
「だねぇ。その武器も、なかなかに柔軟なモンさね」
ヒヒヒ、とトゥスは笑い、ティーチをジッと見つめた。
「が、お前さんはその武器の力を扱いきれてねーようだねぇ。教える奴もいねーんじゃ仕方ねぇことかもしれねーがね」
「そう、なのか?」
「今のお前さんは、木刀がなきゃ、吸収の力は扱えねーだろう? だがその力は本来、お前さん自身に備わる力さね。そして、ありとあらゆる天地の気を吸収することが出来るんだよねぇ」
「……それを、教えてもらうことは出来るか?」
敵の武技を吸収せずに戦うことが出来るなら、それは今のティーチにとって、この上ない話だった。
カノンとの戦いも、レイザーとの戦いも、その縛りがなければもっと上手く立ち回ることが出来たはずだ。
しかし身を乗り出したティーチに、老人は、ポン、とあぐらを掻いた自分の膝を叩いて、もったいぶるように目線を上に上げる。
「さて、どうすっかねぇ。わっちはめんどくさいことが嫌いさね」
こちらがどういう答えを返すか、でそれを決めようとでもいうのだろうか。
からかい混じりの言葉に、ティーチは頭を掻いた。
「そいつは困ったが、仕方ないな」
「おや、引き下がるかい?」
「俺もめんどくさい事は嫌いだからなー。気持ちはすげーよく分かる」
『……おい』
「おししょー?」
ジト目の二人に突っ込まれるが、軽く肩をすくめてみせる。
「縁もねー相手なんだから、そこに関しては迷惑だろ。力を使いこなせてないってことを教えてくれただけで十分じゃね?」
『いや、バックラー達と戦うの、もう明日だぞ!? それで良いわけねーだろ!?』
「元々、今の戦力で戦うつもりだっただろ。教えてくれたら幸運ってくらいで、無理強いするほどのことか?」
なぁ、と仙人に目を向けると、彼は要塞都市のある方角に目を向ける。
「戦かい。そいつぁ、ちっとばかし騒がしくなるねぇ」
「住処の近くだしな。巻き込まれるのが嫌なら、しばらく離れてるのもアリだと思うぜ」
「ヒヒヒ、兄ちゃん、お前さんはなかなかに面白いヤツだねぇ」
トゥスは、キセルから吸い込んだ煙を吐くと、片目を閉じてアゴを撫でる。
「気に入ったさね。ちっとばかし、力の扱い方を教えてもいいかと思う程度にはねぇ」
『「は?」』
「そいつは助かるな」
「兄ちゃんは、気も合いそうだしねぇ」
どうやら、ティーチは仙人の目に叶ったらしい。
話の流れが読めなかったのか、いきなり意見を変えたように見える仙人にポカンとする二人は放っておいて、話を先に進める。
「もう一つ聞きたかったんだが、スートの魂が特別ってのはどういう意味だ?」
「ん? そうさねぇ、嬢ちゃん自身がどうってよりかは、神の加護が強いよねぇ」
「加護、ですか?」
ティーチとトゥスが目を向けると、草の上に正座して膝に手を置いているスートが、戸惑ったように目線を泳がせる。
「嬢ちゃんは、神を信仰する教会かどっかで、神との対話をしたことがあるかい?」
「えっと、一度だけ……でも、声を聞けなくて……」
しょぼん、と首を横に振るスートに、ブレイヴが毛玉の体を震わせながら言葉を加える。
『あー、昔一緒に旅してた時に一回、高位魔法の習得を使える適性があるかを、問いかけたことがあるんだけどな。そこでどの神からも反応がなかったんだ』
「へぇ」
仙人は、二度三度うなずくと、ジッとスートを見つめる。
「巫女の素質はねぇ、ってことかねぇ」
「……うう……」
「てなると……まぁ、本当にあの子の気まぐれかねぇ……」
彼は小さく何かを口の中でつぶやいたが、その言葉はティーチには聞き取れなかった。
「嬢ちゃん。嬢ちゃんにゃ、神の声は聞こえなかったようだが、加護はある」
「!?」
「神の加護を得るってのはね、対話することが重要なんじゃねぇ。呼びかけられた神が、お前さんを気に入ったかどうかが重要なのさ」
トゥスは、相変わらず笑みを浮かべたまま、瞳の奥にだけ深い知性の色合いを覗かせて告げた。
「ーーー嬢ちゃんには、最高神の加護があるさね」




