おししょーは、槍術士と話に行くようです。
「……あんなんで良かったかな?」
角を曲がってスートの姿が見えなくなったところで、ティーチは頭を掻きながら、ぽつりとそう漏らした。
負けて凹んでいるだろうと思ったし、実際に思っていることを伝えただけだが、それをスートがどう感じたかは相変わらず分からない。
『まぁ、言ってることは間違ってねーな。どう受け取るかはスート次第だろ』
ブレイヴが答えるのに、軽くうなずいて、ティーチは続いてレイザーを探す。
彼は食事を終えて、訓練場にいた。
兵士たちが訓練している横で、一人黙々と槍を振るっている。
「熱心だなぁ」
レイザーの様子に、ティーチは感心した。
しばらく眺めていると、彼が基本的な槍で突く挙動を延々と繰り返している。
その動き自体には一切の無駄がなく、理想的な動きであるように思えるし、ともすれば、ただの基礎練習なのに目で追い切れないほどに速い。
「やっぱ、努力してんだよな」
『アイツが天才なのは、身体能力や感覚がズバ抜けてるってだけじゃねーからな。出来ないことを出来るまでやり続ける根気があって、決して基礎を疎かにせずに修練し続けるからだ』
「俺のような凡人は、持ち合わせがねぇヤツだな」
『テメェはもうちょっとやる気出せ、サボり野郎が』
「返す言葉もない」
カラカラと笑ったティーチは、レイザーに近づいた。
スートとやりあった時は汗ひとつ掻いていなかったのに、こちらに目を向けた彼は軽く汗ばんでいるようだ。
「精が出るな」
「何か用かよ、おししょー野郎」
「少し話がしたいと思ってな」
レイザーがスートの前でだけあんな態度なのは、まぁ男特有の好きな子をからかいたくなるアレだ。
完全に裏目に出ているが、それはこの際関係ない。
レイザーが顔の汗を服の裾で拭うと、鍛えられた腹筋が見えた。
決して全身が筋骨隆々というわけではないが、必要な肉が無駄なくついているのだろう。
彼が年齢のわりに小柄なのは、小さい頃から肉体を鍛え続けたせいなのかもしれなかった。
「なんでスートとやりあったんだ?」
「お前に鍛えられて、どんだけ強くなったか知りたかっただけだよ!」
「で、どうだった?」
「それもさっき言っただろ。雑魚スケのまんまだ」
レイザーは、敵意に近い感情を込めてこちらを睨みつけてくる。
そしてふい、と、彼は肩の毛玉に視線を移した。
「なぁ、ブレイヴ。あんな大したことねー状態で、連れて行くのかよ。魔王と戦う時は置いてったのに」
『心配か?』
「おいらが守るって言ったのに、それはダメだって言ったのはブレイヴだろ。なのに、おししょー野郎がいたらいいのかよ? 納得出来ねーな!」
子どもがふてくされている、ように見えるが。
ーーーまぁ、普通はそう思うよなぁ。
ティーチは、感情もあるだろうが、レイザーのプライドが傷ついているのだと感じていた。
状況こそ、最初にスートが置いていかれた時とは違うものの、明らかに自分より弱いティーチを、ブレイヴもスートも信頼しているように見えるのが、気に入らないのだろう。
実際、自分自身でもレイザーの方が明らかに強いことは理解しているので、ここはブレイヴに任せてみることにした。
レイザーは、どちらかと言えば彼の弟子なのである。
『オレは別に、ティーチが居るからスートを一緒に連れて行って大丈夫だ、と思ってるわけじゃねーよ。あの子が十分実戦に耐えるようになったと思ったから、何も言わなかっただけだ』
「どこがだよ? カノンにもやられたし、何ならあのアーサスとかいう暗殺者にも負けたんだろ?」
言われてみれば、全戦全敗だ。
『アーサスに負けたのは、人を庇ったからだ。カノンの時も、アイツがいなけりゃ正気には戻せなかった。お前の攻撃だって、防いだのは見ただろ』
「おいらが狙いを逸らしたからだ! 直撃してたら貫いてた!」
『そりゃ分からねーな。だが、少なくともアイツがいなきゃどの戦闘も、誰かの犠牲が出てた可能性は高かった。それが事実だ』
ブレイヴは、スートを置いていった時と同様に冷静だった。
『人は成長する。そしてスートは、直接戦闘の才能はもしかしたら足りねーかもしれねぇが、もう雑魚じゃねーんだよ』
「でも、次の相手はバックラーとグラスだろ!? 魔王を倒した時より弱いメンツで、あの二人の相手するんだろ!? ブレイヴも戦えねーのに、あの時より危ないじゃんかよ!!」
『そう言われると、返す言葉もねーが』
ブレイヴは苦笑したようだった。
『なら、今度こそお前が守ればいいじゃねーか』
「え……?」
レイザーはキョトンとした。
『スートは必要だ。オレは、その意見を変えるつもりはねぇ』
ブレイヴはハッキリと言いながら、レイザーを真っ直ぐに見ていた。
『スートは強くなったし、お前もあの時より強くなった。パーティーのメンツは、今のオレたちが全員揃った時よりは弱いかもしんねーが、あの時より弱いってことはねーよ』
「……」
『お前はずっと努力してるだろ。スートだって同じように努力を重ねた。そして、オレがいない代わりに今度はティーチがいる』
「え、俺?」
いきなり話を振られて、ティーチは思わずそう口にしていた。
「……おししょー野郎は、どう考えたってブレイヴより弱ぇじゃん」
『そんな事はねーよ。さっきはスートの前だったから、ティーチは断ったが、それこそ今から手合わせしてみたら分かるんじゃねーか?』
「いやちょっと待て! 俺がレイザーに勝てるわけねーだろ!?」
慌ててそう言うが、レイザーがニヤッと笑う。
「よし、じゃあやろう!」
「だからやらねーって……」
「負けねーぞ、おししょー野郎!!」
「いや聞けよ!?」
いきなり張り切り出した彼は、スタスタと少し離れた場所に立つ。
『とりあえず、やっとけよ。実際、テメェも自分の今の実力をハッキリ知っとく良い機会じゃねーか』
「……お前さん、面白がってるだろ」
『アイツの性格からして、言葉だけで完全にゃ納得させられねーよ。本当に味方にしたきゃ、やりあって実力を認めさせろ』
へへへ、と笑うブレイヴは、大昔の悪童だった頃そのままの様子で笑った。




