おししょーは、心底休みたいようです。
レイザーが負けた。
その衝撃で明らかに狼狽えている兵士たちの前に出たカノンは、再び虎ゴーレムを作り出して、城壁に向かって大声で呼びかける。
「おーい、カノンだよー!♪ 今からそっち行って城壁を駆け上がるから気をつけてねー!♪」
すると、見張り台の上にいる兵士が何か下からの伝令を受けて、ブンブンと白旗を振る。
「良いってさ♪」
「おし」
そうして魔物共を蹴散らしながら城壁の上で伸びているレイザーの元にたどり着いたティーチらは、彼を起こした。
「ううーん……」
目を覚ましたレイザーは、自分を囲む面々とその周りに集まった兵士たちを見て、状況を理解したのか悔しそうな顔をする。
「クッソー! 負けたー!!」
「どうですかバカレイザー! あなたじゃおししょーには勝てないんですよー!!」
「いやどう考えても運が良かっただけだろ……」
ここぞとばかりに勝ち誇るスートに、ティーチは思わずそう漏らした。
カノンの時もそうだが、かなり綱渡りで勝っているのである。
それも自分一人の力ですらなく、スートを盾に使うというレイザーにしか通用しないような方法だった。
「勝ちは勝ちですー!」
「お前は本当にめげないよな……」
彼女の精神的な強さは見習いたいところだが、それでレイザーにヘソを曲げられても困るのである。
そんな風に思いつつ、少年のほうを見ると、不思議そうな顔をしていた。
「あれ? おいら、なんでおししょー野郎を倒そうとしてたんだっけ?」
「ウィズに言われたからでしょ?♪」
「あ、そうだった」
ぽん、と手を打ったレイザーは、洗脳が解けているのかどうなのかイマイチ分からない感じだったが、暴れ出しそうな様子はないので、多分大丈夫だろう。
「なんでって言えば、そういやブレ……」
「おま、バカ!!」
「むぐっ!?」
ティーチは焦って、レイザーの口を塞いだ。
「そういうことをデカイ声で言うんじゃねーよ……!」
いくらなんでも、さすがに大量の兵士が周りにいる中で言うことではない。
先程の戦闘が始まる前のやり取りで不思議に思っている連中もいるだろうが、この場で詳細を明かすわけにはいかないような話なのだ。
しかし、カノンは一応兵士たちに持ち場に戻るように指示した後、あっさりと口にする。
「良いんじゃない?♪ どうせこの領地の皆の力を借りなきゃ、こっから先には行けないしさー♪」
「……どういうことだ?」
ティーチが問いかけると、彼女は肩をすくめる。
「だってこの先にいるのって、バックラーとグラスだよ?」
《火》の重戦士バックラーと、《木》の算術士グラス。
その二人は、王都に向かう前にある要塞都市を預かっている守護騎士と、パーティーの頭脳であり現王国参謀である二人である。
「この規模のパーティーで向かっても……まぁレイザーがいるし、バックラーはもしかしたらなんとかなるかも知れないけど。グラスは多分、無理じゃないかな?♪」
カノンがブレイヴに目を向けると、毛玉は目を閉じて大きく息を吐くように体を震わせる。
『……仕方ねーな』
「どうせさっき大きな声で話してるんだし、今さらだと思うよー♪ ……それに、間者が混じってるなら、どうせもうバレてるだろうし」
ーーー気付いてたのか。
カノンも、楽観的なだけで、かなり頭が回るタイプではあるのだろう。
ブレイヴの正体がバレること自体は、ティーチも想定内だ。
レイザーの口を塞いだのは、魔王がブレイヴの体を乗っ取っていることまで漏れるのを恐れたからである。
『まぁ、オレの魂が逃げたのは相手も知ってる。謀反でも起こって影武者が立ってることにしときゃ、中身はごまかせるだろ』
ボソリと言うブレイヴに、ティーチとカノンはうなずいた。
「……結局、何がどーなってんの?」
「バカレイザーには、後で説明してあげますー!」
「なんだよ雑魚スケ! おいらだけ仲間はずれかよ!?」
「雑魚スケって言わないでください! 私もちょっとだけは強くなったんですー!」
「なわけねーだろ! 後で確かめてやるよー!」
「キー! 望むところですー!!」
そんな子どもらの口ゲンカは放っておいて。
「だが、攻めるにしても兵士たちの練度はどうなんだ……?」
「そんなこと心配してるの?♪」
カノンは、疑問を覚えたティーチに、ちっちっち、と指を振る。
「ここ、辺境伯領だよ? 魔物を放っておいたのは、そういう指示があったからってだけで、別に駆除自体は難しくないよ♪ うちの兵士たちの練度はね、王国内でも随一だからね♪」
『国の壁』に対する自信を覗かせるカノンに、ティーチは肩をすくめた。
「なら、安心だな。なら、とりあえず休もうぜ……すげー疲れたし」
『いや待てよ。まだ、一仕事残ってるだろ』
提案に水を差してきたのは、ブレイヴだった。
「何だよ一仕事って』
『外の魔物ども、そのまま放置するつもりか? 今から倒すんだよ、全部』
「げ」
その言葉に、ティーチは心底嫌な気分になった。




