おししょーは、槍術士に一矢報いる。
「ーーー《纏身》!」
スートが自分の武具である【防御の腕輪】に魔力を込めて、【纏鎧】を発現する。
「さっきのを見て、行けそうか? スート」
ティーチが問いかけると、彼女は緊張した顔でうなずいた。
「防御に徹すれば、一発だけなら多分、大丈夫ですー!!」
こちらが考えた作戦には、全員の力が必要だった。
しかし、ティーチは内心穏やかではない。
ーーー本当に、大丈夫か?
スートの力を信用していない訳ではないのだが、どうしても不安に思う。
まして彼女を『盾』として使うのは、特にレイザーには劇的な効果を発揮するだろうが、どことなく卑怯な手にも思えた。
「なぁ、ブレイヴ」
『……今さらグダグダ言うな』
多分同じ気持ちなのだろうがブレイヴは、こちらが問いかけを口にする前に答えを口にする。
「除け者はなしですよ、おししょー! 私だってちょっとは強くなったんですー!!」
「……分かったよ」
「鏃は出来たよー♪」
カノンが言い、ぽん、とこちらに手にした金属の塊を放り投げてくる。
彼女が地面に描いた紋で生成した、巨大な矢の先っぽだ。
パシリと受け取ったティーチは、要望通りのそれを見て、一つうなずいた。
それは、聖なる力を秘めた鏃だ。
ティーチは、虎ゴーレムを作る時にレイザーの力を得ることで空を飛べる、という話を聞いて思いついたのだ。
カノンが、ブレイヴの聖の力を込めた地の武器を作れば。
ーーー離れた位置から、レイザーに聖の一撃をぶち込める。
「ブレイヴ、アーサス。もう一回だ」
『おう』
「う、うっす!」
《共感》と《凝視》の武技を受けて、再び【纏鎧】したこちらの肩にブレイヴが飛び乗る。
ティーチは大きく一度深呼吸をして、射線が開けた場所に躍り出た。
レイザーは、それを待ち構えていたようだ。
「そろそろケリをつけるぞ! おししょー野郎!」
「こっちのセリフだ。……スート!!」
鏃を三本指で挟み、左手の弓を構えたティーチに、レイザーが槍をしごき始める刹那。
ーーースートが目の前に飛び出して、手にした剣を正眼に構えた。
「は!? 何して……!!」
レイザーは、天才だ。
その武技や武具を扱う技量だけでなく、元々の身体能力まで含めて。
しかし、彼に欠けているものもある。
あまりにも強すぎて、敵の動きを頭で考えないのだ。
反応速度のみで、相手が動き出してからも反応でき、さらに直感で先読みをするような戦い方。
自分の推察をブレイヴらに話したら、彼らはあっさり肯定した。
魔王を倒すような練度を誇る仲間がいて、ウィズやブレイヴといった頭脳役もいるパーティーに加入していたレイザーには。
素質があったとしても、磨く必要のない部分が、あったのだ。
「くっ……!」
そしてレイザーはその反応速度によって……スートを傷つけまいと、技の途中で照準を変えた。
本能と才能で戦ってきた彼は、認識してしまえば体が勝手に動くと、ティーチが予想した通りに。
そのまま、大きく後ろにティーチが跳ぶのと同時に、スートが吼える。
「《聖護》!」
彼女が【纏鎧】により強化された聖騎士の自己防御武技を発動すると、体が白い輝きに包まれた。
全身を防護するその武技は。
スート自身にしか効力を発揮せず、短時間しか発動せず、動けば解除されてしまう下位の武技だが……防御力そのものは、上位防御結界に匹敵する。
アーサスの時に使わなかったのは、彼女にとって格上の相手であったから。
互角以上の相手に使えば隙を突かれるくらい、使い所の難しい武技だが。
今、この瞬間、この局面ならば、スートの最も有用な武技だった。
レイザーの《風炎爆槍》が、スートの手前の地面を抉る。
そして爆炎が上がるが、距離を取ったティーチの視線は、レイザーに対して通っていた。
手は、ピタリと照準をレイザーに向けたまま。
距離は《凝視》のスキルによって意味を為さない。
行ける。
「ーーー〝黒の狙撃〟」
ティーチは、〝黒の散弾〟の威力を一点集中した武技を放つ。
パッと弾け散るような風の余波と共に、聖の力を込めた鏃が風の矢に押し出されて、狙い違わず、残心するレイザーの額に迫る。
「くぅ……!!」
それでも、音を置き去りにする速度で迫る矢に、彼は反応した。
圧倒的な戦闘センス。
左手前に倒れ込むように首を落として、鏃の焦点から外れ、おそらくはかすりながらも外れる位置へと、頭が移動する……が。
ーーーブレイヴ。
心の中で毛玉勇者に呼びかけると、彼は完璧なタイミングで聖魔法を発動した。
「《聖撃》!」
鏃には、もう一つ仕掛けを施してあった。
その両側面に刻まれているのは、ブレイヴの力を遠方に伝える、身代わり人形にティーチが描いたのと同種の紋だ。
紋術士カノンにとっては、さほど描くのに難しくもないその紋を通じてーーー。
ーーーブレイヴの発動した、聖なる下位衝撃魔法が、レイザーの側頭部に叩き込まれた。
「……!!」
気功である浸透勁同様、物の中に衝撃を伝えるその魔法に頭の中身を揺らされて、レイザーが、ぐらりと前に倒れ込む。
そのまま、動かなくなった。
「っしゃぁ!」
ティーチは、極限の集中が解けると同時に【纏鎧】を解き、両拳を握り締めて突き上げながら、自分も草地に倒れ込む。
『うぉっと!? 何してんだよ!?』
肩から落ちかけたブレイヴの抗議に、ティーチは大きく両手を広げて大の字になりながら答えた。
「めちゃくちゃ疲れた……もう動きたくねぇ……」




