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おししょーは、薬草を摘んで弟子に渡す。


 ゾンビウルフを片付けて、翌日。


 スートが、とてもご機嫌ナナメになっていた。


「私のお世話は、おししょー専用なんですけど!! あなたは私のおししょーじゃないんですけどっ!」

「まぁまぁ。そう怒るなって」

「うぅ……面目ないっす……」


 原因は、川に飛び込んで濡れたまま走り回ったアーサスが風邪を引いてしまったことだ。


 ずびー、と鼻をすすりあげ、毛布を被って震えている彼に無理をさせて街まで歩くわけにもいかず、仕方なくティーチは山にある薬草を探しに行ったのだが……。


 ……戻ってきたら、麦粥(むぎがゆ)を炊きながら、スートが頬を膨らませていたのである。


「ちゃんと必要な薬草は摘んできたから、すぐに復活するだろうし。今日1日だけだからよ」


 な? と薬草を乗せた平らな網カゴを持っているのと逆の手で、彼女の頭を撫でる。


「お前はデキた女だよ。文句言いながらでもやってくれるんだから。な?」


 弟子の機嫌がどうすれば良くなるのかイマイチ分かっていないが、そこまで怒っていない時は頭を撫でると割と治ったりする。


 今日はダメな日だったのか、彼女はキッとこちらを睨みつけてきた。


「ぐーたらおししょーは、そうやっていつでも誤魔化ごまかせると思ったら大間違いですよー!!」

「いや、誤魔化してる訳じゃねーんだけど……」


 マズったか、と内心で思っていると、腰に両手を当てて無い胸を張っていたスートは、不意に表情を緩める。


「全く、仕方ないですねー!! 街に着いたら餡子アンコのおまんじゅう買ってくださいね!!」

「おー、報酬が高ぇ……」

「イヤなんですかー!?」

「いや、別に。金の管理してるのもお前だろ。路銀が尽きなきゃ何でもいいよ」


 ティーチは、金には大して興味がない。

 甘い菓子は確かに高級品だが、たまに隣街に出かけた時と祭りの時くらいしか食べられないモノでもある。

 

 その程度の報酬でいいなら、普段の家での働きを考えれば安いモノだ。

 

『その薬草、なんかいい匂いするなー。腹減った』 


 我関せずでそこら辺の草を食んでいたブレイヴが、プルプルと鼻を鳴らすような仕草を見せる。


「毛玉の体のどこに鼻があるんだ?」

『知らねーよ。感じるモンは感じるってだけだろ』

「つーか、いつものモンしかねーぞ。毛玉になってなんか味覚とか変わったのか?」


 ティーチは、手元の網カゴを見て首をかしげた。

 入っているのは、体力を増す薬草、体を冷やす薬草、腹の調子を整える薬草、後は眠りを助ける薬草くらいのものである。


 これを今から鍋と水で煮出し薬にして、アーサスに飲ませるのだ。

 ちなみに普通に不味い。


『多分、体力草だろーなー。この体だと、なんか草が美味くてな』

「そのまま、頭の中まで毛玉並みにならないように気をつけろよ。元からかも知れねーけど」

『誰が頭の中毛玉だ!? テメェより賢いっつーの!!』

「うるせぇ。魔王に体乗っ取られるまで気づかなくて面倒ごと持ち込んできたくせに、偉そうにすんな」


 ティーチはスートに網カゴを渡し、体力草を一枚抜いてブレイヴに与えながら、からかい半分にそう告げる。

 するとモソモソと草を食みながら、ブレイヴが言い返してきた。


『よし、じゃあオレの賢さを見せてやらぁ。後で付き合えよ?』

「あん?」

『どーせ今日はここから動けねーだろ。ちょっとその【感知の呪玉】を改良する』

「……そんなこと出来んのか?」


 ティーチは、自分の腰紐にぶら下がった呪玉を見下ろした。

 スートが【纏鎧】した時に感知するもので、その中身がどうなっているのかまでは知らない。


『そいつも、魔導文字で動くモンだからな。昔カノンに習ったことがある』


 カノンは、元勇者パーティーの一人で、この辺りの土地を治める領主の名前だ。

 ティーチたちのそもそもの目的も、魔王に意識を乗っ取られた彼女を正気に戻すことである。


紋術士もんじゅつしってのは、そんなことも出来んのかー」

『魔導文字の読み取り自体は、魔法を扱う人間にゃ必須の技能だけどな。スートも読めるぞ』

「え? そうなのか?」


 初耳である。

 すると麦粥を全員分、器によそって軽く洗った鍋に薬草を放り込みながら、スートはうなずいた。


「一応、これでも元は白魔導士ですー!! 魔法の才能ないですけどー!!」

「ないって事はねーだろ」


 単に、他者に影響を与える白魔法に適性がなかっただけの話だ。

 それが証拠に、彼女は自己強化の能力に長けていて、聖騎士としての才能を開花させ始めている。


『って事で、呪玉を改造する。方向音痴のテメェが、離れててもスートの位置が分かるようにな』

「そいつは助かるな!」


 気配を感知するだけでは、例えば街中ではぐれた時など、確かに心もとない。

 都などに行こうものなら、迷子になるのはスートではなく、ティーチの方である。


「で、手伝うって何を手伝うんだ? お前がやるんじゃねーのか?」

『この体で出来ると思ってんのか!? やるのは魔導文字の書き足しだよ。【身代わり人形】の印も魔導文字だしな。あれを彫れる手先の器用さを貸せ』

「あー……なるほど」


 ティーチは話を聞いて、少しメンドくさいと思ってしまった。


 魔導文字を彫るのは、結構神経を使うのだ。

 久しぶりにゆっくり昼寝が出来ると思ったのに、午後からの時間が潰れそうである。


『一気にテンション下がったな』

「疲れることやるのって、疲れるだろ?」

『当たり前のこと言ってんじゃねーよ!!』

「その当たり前が嫌いなのが、俺っていう人間なわけだが」


 無精ヒゲを軽く指先で触ったティーチに、薬草を煮詰める準備を終えたスートから声がかかる。


「サボりおししょー!! ご飯を食べるのは当たり前ですけど、早く食べないと冷めちゃいますよー!!」

「お、そうだった」

「後、話全部聞こえてますからねー!! ご飯食べたらちゃんとブレイヴさんのお手伝い、するんですよー!?」

「へいへい……」


 ここで『嫌だ』などと言おうものなら、飯を抜かれる可能性があるので、ティーチは逆らわなかった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ぐーたらは楽でいいよねw
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