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勘違い令嬢は婚約破棄して推しカップルを眺めたい  作者: みん


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6/7

ガードレディ失格


 ──家に帰る為、ビビアンは王城の長い廊下を馬車留めに向かって急いでいた。


 (やっと婚約破棄に踏み切ったのですね! この日の為に準備してきた甲斐がありましたわ!)


 ビビアンは、婚約破棄した後は、トムとリチャードの前から綺麗に消える為、侯爵家の籍から外れ、平民として上流階級向けの家庭教師、ガヴァネスとして生きると決めている。


 修道院に入る事も考えたが、折角の王太子妃教育を棒に振るのも申し訳ないし、同じく実家から離れるのであれば、ガヴァネスとして人々の役に立った方が良いと考えたのだ。


 幸い王太子の婚約者として評判は悪くないし、リチャードから破棄されたという事ならば、雇ってくれる家も多いだろう。


 (ふふ、順調ですわ……。ですわよ……ね?)


 ビビアンは、廊下を半分ほど進んだ所で脚を止めた。

 そこからは中庭が見えて、よくリチャードと共に勉強会をした東屋が眼に入る。

 リチャードは、仮の婚約者であるビビアンにとても良くしてくれた。


 約束通り、色んな本を共に読んで、ビビアンが分からない言葉や文字を沢山教えてくれた。

 王太子妃教育の終わりには、毎日こっそりお菓子をくれた。

 

 『甘くて疲れが取れるんだよ、トムには内緒ね』


 確か、人差し指を唇に置いて、悪戯っぽく笑っていたっけ。


 ビビアンが12歳になってからは、度々家に訪問してくれて、来られない日も毎日の様にプレゼントを贈ってくれた。

 カモフラージュの為と思っているものの、ビビアンの好みに合わせた本や筆記用具は、リチャードが彼女を良く知っていてくれる事が分かって、嬉しかった。


 (わたくしの事なんて気になさらなくて良かったのに、殿下は本当に優しい方ですわね)


 いつしか、二人でお忍びで城下町に遊びに行った事がある。

 あの時は本当に楽しかった。

 普段は立ち寄れない書店に行ったり、巷で流行っているという食べ物を食べたり、平民からすれば当たり前のことだが、普段厳重に警護され、行く場所の限られているビビアンとリチャードには、大冒険だったのだ。


 『楽しいねビビアン!』


 トムが居ないのに、彼女の手を引いて溌溂とした笑顔を向けてくれたリチャードの顔が忘れられない。

 あの時の笑みは、確実にビビアンにだけ向けられたものだった。


 「あぁ、わたくしったら……。とっくの昔にガードレディ失格だったのですわね」


 綺麗にさようならをして、笑顔でトムとリチャードを祝福するつもりだった。

 だが、今の自分の顔はどうだろう?

 とてもじゃないけど笑顔と呼べるものでは無い。


 リチャードの言葉をさえぎって、自分から婚約破棄と言ったのは、彼からその言葉を聴きたくなかったからだ。


 だけど、決まったものは覆せない。

 ビビアンが諦めて廊下の半分を歩き出そうとした時、リチャードの大きな声が響いた。


 「ビビアン──! 待ってくれ!」



 

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