リチャード2
──ビビアンは勘違いをしている。
リチャードはとんでもない事実に頭を抱えた。
だが、彼はまだ14歳、誤解を解くのはこれからだって遅くない。
問題は、ビビアンをいかに傷付けずに真実を告げるかだ。
──そしてリチャードは、自分の考えが甘いと悟る事になる。
ビビアンが突然、美しい金髪を縦ロールにして現れたからだ。
彼女は自慢気に縦ロールを揺らし、リチャードに感想を求めてくる。
きっとこの前小説で見たという、気の強い魔女の真似をしたのだろう。
つまり、ビビアンはリチャードとトムを護ろう等と考えているのだろう……。
リチャードの心境は複雑になる。
嬉しそうにしているビビアンは可愛らしいし、実際に縦ロールは彼女の凛とした雰囲気に似合っている。
だからつい、褒めなければと思うが、歯切れが悪くなってしまったのだ。
だが、優しいビビアンは機嫌を損ねずに、トムにも同じ質問をする。
「えぇ、とても御似合いですよ。一輪の花の様です」
トムの完璧な返しに、完全に出番を奪われたリチャードは心の中で叫ぶ。
(トムぅぅぅ! それ以上言わないでくれぇぇぇ!)
その思いを抱えたまま、ビビアンを部屋までエスコートした後、早々に彼女に別れを告げて、廊下の隅にトムを引っ張る。
「トム! これ以上ビビアンを勘違いさせる言動はよしてくれ!」
「はて、勘違い?」
「そうだ! ビビアンは僕とトムが恋仲だと勘違いしているんだ!」
沈黙が過ぎ去り、トムが肩を震わせて笑い出した。
「なんだ、何が可笑しい?」
「いえいえ、今更お気づきになられたのかと思って……」
「お前まさか、最初から気付いて……⁉」
「それはまぁ、ビビアン様の視線を辿ればおのずと答えは出ますよ」
トムは、少々腹黒い一面があるのだ。
今まで面白がって、敢えて誤解を解かなかったに違いない。
「ビビアンは僕の婚約者だ! 面白がって放置している場合ではないだろう!」
「大変失礼しました、ならば殿下、これから挽回せねばなりませんね」
そう、ビビアンはきっと、身代わりか何かで婚約者に選ばれたと考えている筈だ。
リチャードの事を本気で好きになって貰わないと、勘違いは解けないだろう。
そうしてこの日から、リチャードはビビアンに積極的にアプローチを始めたのだ。
──そしてリチャード18歳の現在。
彼は執務室で、ビビアンに勘違いされたまま婚約破棄を言い渡され、頭を抱えていた。
「くくっ……。遂に勘違いされたままでしたねぇ」
トムはあの日と同じ様に、肩を震わせて笑いをこらえている。
「過去形にするな! まだ破棄が決まった訳ではない!」
リチャードは今日まで、あの手この手を尽くしてきた。
時にはビビアンの実家に訪問し、談笑したり、毎日の様に贈り物を送ったり。
お忍びで城下町のデートだってした。
その時、ビビアンは輝く笑顔を確かにリチャードに向けてくれていたのに……。
「何がいけなかったんだ、僕はこんなに君の事が好きなのに……、ビビアン……」
肩を落とすリチャードに、トムが寄って来る。
「それ、ビビアン様に直接伝えた事がおありですか?」
トムの言葉に、リチャードは、はっとなった。
確かに、様々なアプローチに夢中になってしまい、明確に好きだと伝えた事は無かった気がする。
顔を上げたリチャードに、トムは肩をすくめて言った。
「さっさとビビアン様を追いかけませんと、本当に話が進んでしまいますよ」
リチャードは、ビビアンが閉めて行った時より大きな音を立てて、扉を開けた。
「っ、ビビアン、待ってくれ……!!」




