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勘違い令嬢は婚約破棄して推しカップルを眺めたい  作者: みん


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4/7

リチャード1


 ──リチャード・ロンバートは、ロンバート王国の第一王子としてこの世に生を受けた。


 乳兄弟のトム・ワイアットとは実の兄弟の様に共に過ごしてきた。

 秀才であったリチャードは、王宮の高度な教育もなんなくこなし、何不自由無く生きてきた。


 10歳の時、婚約者を決めるパーティでビビアンに出会うまでは……。



 ──10歳のガーデンパーティ、完璧な笑顔の仮面を張り付けて、続々と来る招待客に挨拶をしていく。

 ずっと立ちっぱなしで、リチャードは少々疲れてきていた。


 次は確かハンナム侯爵家かと、覚えて来た貴族名鑑を頭に思い浮かべながら、リチャードは低頭している男性と少女に、顔を上げる様に言った。

 男性の挨拶を受け、次に御令嬢の方を見る。

 

 そしてその瞬間、リチャードの時が止まった。


 「ハンナム家令嬢、ビビアンです。ご招待ありがとうございます」


 さらりと揺れる、美しいストレートの金髪の髪。

 猫目気味の、幼いが知的で意志の強そうな紫の瞳。

 背筋をピンと伸ばしてカーテシーする姿は凛としていて、確かな教養を感じさせる。

 桜色の小さい唇は可愛らしく、全てのパーツが小さい白い顔にきゅっと収まっていた。


 (か、可愛い……‼)


 リチャードは自分の顔が次第に赤くなっていくのを感じる。

 ビビアンがそれをじっと見ている事も。

 

 悟られるのが恥ずかしくて、リチャードは少々失礼だとは思いつつも、控えているトムに耳打ちした。


 「僕、この子が良い……!なんて可憐で可愛いんだ!」


 「良いと思います。そんなに緊張していると御令嬢とお話出来ませんよ」


 ぽんっと肩を優しく叩かれ、リチャードは再度ビビアンと話をしようと口を開きかけた。

 すると、令嬢とその父は、さっさと別れを告げて去ってしまったのだ。


 慌てて引き留めようとするが、次の招待客が眼の前に来てしまいそれは叶わなくなった。

 だが、リチャードは心の中で決める。


 (絶対にビビアンを婚約者にする……!)



 ──そして初めての御茶会で会ったビビアンは、それはもう天使の様に可愛らしかった。

 フリルとレースが上品に配置された紫色のドレスを着て現れた彼女に、リチャードは見惚れてしまう。


 城への誘導は少々失敗してしまったが、その後の御茶会はとても楽しかった。


 ビビアンはリチャードに引けを取らない才女で、勉強している範囲も2歳違うのに、リチャードと同じくらいだった。


 彼女は難しい本を読めないと言っていたがとんでもない。

 ビビアンが読もうとしているのは大学生レベルの本の話で、同い年の子と比べたらはるかに上をいっている。

 だが、リチャードはどうにかビビアンにかっこいい所を見せたくて、文字を教えると言った。


 その時の彼女の可愛い笑顔と言ったらない。


 だが、ビビアンの興味は何故かトムに逸れてしまった。

 ビビアンはにこにことトムに話し掛け始め、笑顔で対応するトムにどうしようもなく腹が立った。


 紳士らしくなかったが、彼女に文句まで言ってしまう。


 だがビビアンは、穏やかに微笑んで、機嫌を損ねる事もせず、その後もリチャードの話を聴いてくれたのだ。



 ──そしてビビアンは、正式に婚約者となり、王宮に通い王太子妃教育を受け始めた、

 ほぼ毎日の様にビビアンに会える事実に、リチャードは有頂天になる。


 だが、彼女にそれを悟られるのは紳士としてあってはならない事だ。

 けれど、ビビアンに会いたい欲を抑えきれず、彼女の勉強の終わりに、リチャードは毎回ビビアンの部屋を訪ね、少し歓談する事にした。


 そんな日々が続く中、リチャードはふと気が付く。

 トムが居る時の方が、彼女の笑顔が輝く事に。


 暫くは、ビビアンがトムに恋しているのかと疑ったが、どうやらそうではないらしい。

 トムと二人で話している時のビビアンは普段通りだからだ。


 トムとリチャードが一緒に居る時だけ、その笑顔は輝くのだ。


 リチャードは真剣に原因を探りだした。

 そしてある時、ビビアンのお付きの侍女に、ビビアンの悪癖を聞く。


 「お嬢様は、少々思い込みが激しい所がございまして……」


 思い込みが激しい、つまりは勘違いもしやすいという事だ。

 そしてビビアンは、何故かリチャードとトムを二人にしようとする傾向がある。


 まさか……!


 聡明なリチャードは気が付いてしまった。

 ビビアンは、リチャードとトムが恋人だと勘違いしているのだと。



 

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― 新着の感想 ―
リチャード王子、健気ですね。 それなのに勘違いされて、お可哀想に……笑
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