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ビル・ノーウェの冒険の顛末

今朝見た夢が、なんだかあまりにも不思議な気配で、寝ぼけたままメモに書き付けてありました。

それを少しまとめたものになります。

雰囲気重視な習作です。

 ビル・ノーウェは腕の立つ流浪の冒険者であった。だが彼自身も何を求めて旅しているのか分からないまま、何かを求めて常に彷徨う旅人であった。


 ある時、彼は旅の途中で何かの骨で出来た鎧一式を発見した。骨を材料としているのに存外それは丈夫であり、何よりも軽い。喜び勇んで着込み、そしてそのまま旅を進めた。


 墳墓の様な場所を見つけ、そこに迷い込んだのはそれから程なくだった。

 幾つもの回廊から連なるそこは、やけに袋小路が多く、少しずつ道は下り坂になっていた。気まぐれに入り込んでしまったが為に、気が付けば外への道も分からぬままにさ迷い、出口はまるで分からなくなってしまった。

 途方に暮れたその時、近くで骨が擦れて鳴るような音がした。すぐにガシャガシャと音が近付いてくる。壁に背を当ててつつ、顔を出して覗き込むと骨だけの魔物がこちらへとやってくるところであった。一体だけなら倒してやろうと待ち構えていると、さらに音が連続している。どうやら一群のようだ。

 分が悪いと思いながらいつでも抜き打ちが出来るように構えて飛び出そうとした時だった。


「あれ、ビル様何やってるんですか?」


 骨が気さくに話しかけて来た。面食らって黙っていると、骨たちは次々に歩き去りながら「ビル様、脅かさないで下さいよ」

等と言いながらそのまま歩いて去っていく。

 どうやら装着している骨の鎧のおかげで魔物の一種として認識されてしまったらしい。こんな大群と戦わなくていいのはいいが、と不思議に思いながらも道も分からぬので思わず一団の後をついていってしまった。


 魔物たちは、各々の個人の部屋のようなものに立ち寄りつつ、また並んで進んでいった。と、その先に明かりが見える。地上かと喜んで進もうとすると、また別の魔物が横合いから現れた。


「ビル様、最近みないと思ったら印象が変わりましたね」


 よほど「その魔物たちのビル様」は、この鎧をつけたビルに酷似しているらしい。まるで疑われないのが逆に落ち着かない。


 そして捕らえられたのか、それとも見目以外は魔物なのか、幼い少女が四人、門のような形状の物の横に立っていたのがビルを見つけると近寄ってきた。


「ビル様、私たちここでこうやって挨拶するの。どう、きちんと出来てる?」

「あ、ああ……」

 

 まるで問題ないと答えると少女たちは嬉しそうだ。と、後ろからグイと首根っこを掴まれる。


「どうしたビル。持ち場を離れてこんなところで。早くこちらに来い。部下たちから心配されていたぞ」


 ここのビルは随分慕われていたらしい。向かった先でも気さくに歓待され、そのまま歩哨の真似事をさせられ、敷地内をあちこちと回る羽目になってしまった。

 小さいながらしっかりとした魔物の駐屯地らしきここは、人間の集落と同じように活気に満ちていた。そこを練り歩く度に「ビル様、ビル様」と皆に歓待される。

 ぐるりを終えると先の門らしき場所で少女たちが並んで挨拶の用意をしていた。あまりにも堅苦しい挨拶に、思わずどこで覚えたか簡単な踊りの動きを教えてやると、少女たちに似つかわしい華やかさと軽やかさが際立つ。


「ビル様、笑ってる?」


 その少女たちの動きに思わず笑い声が出てしまっていたらしい。何故笑っているのかと聞かれ問わず語りに一言答えた。


――旅に出るからさ


 どこへ自分は行くのだろうか。どこを目指しているのだろうか自分でも不思議に思っていると、(いかめ)しい兜の騎士に肩を掴まれた。ついに人間だと発覚したのかと体を固くする。


「ビル、本当にお前は別け隔てないのだな。改めて見直したぞ」


 と、労われる。周りが平伏しているのを見ると、この場所の長であるらしい。今ここで斬り捨てればここの駐屯地は瓦解するだろう、その内に脱出することも可能だ。そんな考えが一瞬浮かんだがビルは腰の剣を抜く気には、まるでならなかった。


 そうこうする内に食事の時間が来たらしく、椅子に案内される。先の門を見返れば何やら騒がしい。少女たちが戸惑っているのが見え、何者かが押し問答している。


「ここにビルってのがいて、荷物を受け取ってくれるはずなんだ」


 見れば、何故かその荷物というのはビルがいつか倒した魔物の遺体であった。白骨化しており、よく見ればそれは今着ている鎧にも似ているように思える。

 少女たちがこの何者かにも挨拶をすべきか悩んでいる所に割って入り、受領証と思しき羊皮紙に署名をする。それがきっかけだったのか魔物の遺体と入れ替わりに体が門を潜る。そこは外であり振り返っても墳墓の口が静かに開いているだけであった。




「ビルはどうした」

「またいなくなりましたな」


 まもなく晩餐となり、ビルがいないことにガヤガヤと声が上がる中、少女がそこに一声告げる。


「ビル様ね、笑ってたの。そしてね、笑ったから旅に出ないといけないって」


 そうか、と寂しさの空気が走り、墳墓の中は静けさが支配した。




 後に流浪の冒険者ビルは、いがみ合っていた人間と魔物との戦いの仲裁の案を提示。両者の共存の為に活躍し平和締結の後、その命を落した。その身にまとった不可思議な鎧から「骨の君」などと呼ばれ、死した後に骨の魔物として蘇りいずこかの墳墓で目覚めたという噂が広まっているが定かでは無い。


 ただ、少女はその「骨の君のビル」へ、旅は終わったかと聞き、ビルもまた、もう笑えなくなった体ながら優しく、もう終わったのだと答えたという話だけが今もこの地には残っている。

彼にとっては、そこは未来のどこかだったのかもしれないと、改めて見ると、何か想うのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いずこから来たりていずくへと去るものか。 旅人であるがゆえのふわふわとした異邦人の心地が、夢の浮き足だった雰囲気とよく合って、独得の空気感がありますね。
[良い点] 未来への回帰、という風情のお話でした。 魔物たちも慕ってくれると可愛く思えてくる。 骨の鎧は拾われるべく、そこにあったのでしょうね。
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