扉を開いて
とある企画に出す予定が、間に合わなかったというオチの作品です。
安息日以外に見る教会は、いつもより近寄りがたく見えた。ライナスは緊張しながら教会に入ると、懺悔室を使いたい旨を伝え、主の像の前で祈りを捧げる。
膝まずいた時に、土埃で汚れた木靴、穴が開きそうなズボン。そして、破れそうな着古したチュニックが目に入って溜め息をついてしまう。最近背が伸びてきたから踝が見えて恥ずかしい長さになってしまっている。
懺悔室の方から、カタリと音が鳴り、用意が完了したのを気配で感じ取り、主への祈りを手早く済ませてそちらへと向かう。
息を整えて、懺悔室の扉を開け……ライナスは、また息が乱れるのを感じた。
開いた扉から光りが入り込み、ちょうど懺悔を聞こうと身構えていたシスターが、舞台の役者の様に照らされている。シスターもまた、こちら側が開くとは思っていなかった様で、慌てふためいているのが分かる。
ライナスは自分が開けるべき扉を間違えたのに気付いたのだが、同時に目が離せなかった。いつもかぶっているベールを脱いでいた頭へ光りが反射し、金髪が後光の様に輝く。驚きで見開いた目は大きく、瞳もまるで輝いている様だ。頬は赤みが差し、今朝食べて来た林檎の様。紅を指している街で見掛ける姉さんたちと違い、何も唇には塗っていないだろうに、柔らかそうにふんわりとしている。
その唇がふるふると震えると、動揺を抑えたつもりだろう声が漏れる。
「ざ……懺悔の方は、あちらの扉からお願い……いたしましゅ」
語尾は動揺を隠せなかった様で、噛んでしまった唇を抑えながらわたわたとしている姿に思わず笑みがこぼれる。そして、開いた扉を持ったままだった手で、ゆっくりとその美しい御姿を隠すと、反対側の扉を開いて、改めて懺悔室へと入る。
「で……では。神の名において、汝の思いを吐露しなさい」
咳ばらいをえへんえへんと何度も繰り返すその可愛らしい声に、今日持ってきた悩みは吹き飛び、ライナスは気付けば声を出していた。とても素直に。
「シスターが可愛くてたまりません!」
ひゃぁっ! と声が聞こえた気がした。これでシスターが年上なのだから、ライナスの胸には先ほど告げた言葉と同じ気持ちが延々とこだまし続けるのは仕方がないのであった。




