至福の魅惑の癒しの殿堂
静かにジャズが流れる店内に、リズムを取るみたいに珈琲を削る音が流れる。廻るハンドルも耳を静かに癒してくれる。
――いつ位振りだろう……。珈琲の上品な薫りが漂う喫茶店で、私は伸びを一つ、溜め息一つ。
あんまりにも忙しくて、身体が疲れを知らせてくれる事も出来ずに、二ヶ月位走っていた。家は帰って眠るだけの箱になってしまって、心地いい巣穴ではなく、本当に寝床に。床に散った洗濯物は、畳む余裕すら無く……。
久々の休みにふらりと立ち寄った行き着けの喫茶店は、静かな音と薫りで私を癒してくれる。
「カボチャのチーズケーキに、本日の珈琲。お待たせ致しました」
マスターがふわりと笑って置いてくれたそれは、私を癒す為の供物。いや、天上への乗り合い馬車。
闇にも誘いそうな黒い液体が、薫りと共に溜まった疲れをほぐしてくれて、頭の天辺にある耳までカッカッと熱くなる。尻尾が思わずピンと跳ね、そしてゆっくりと椅子に仲良く降りていく。
油揚げもいいけれど、お稲荷さんもいいけれど、これもまた私には欠かせない大事な癒し。
煙草を喫む(のむ)かの様に、薫りと味を楽しんで、今度こそ満足の吐息が漏れ出る。ピンとなった耳は静かに頭に伏せられる。
明日の仕事は知らない。ただ、今はこの空間に我が身を浸して、私は仕事人からただの女に、狐に戻る。
首をぐるりと回して、ケーキを口に入れる用意。
癒しはまだ、終わらずに、私を待ってくれている。
ここは私の癒しの空間。私の優しい異空間。明日の為の英気はきっと、溶けた身体に湧いてくるはず。
――だから今はただ、何も考えず……
「マスター! お代わり!」
欲望に忠実な獣となる。体重なんて知らない。ケーキは別腹。いざ進めや食欲。
美味しいは正義。合掌。
ほぼ、私のブログ状態でございます。




