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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
最終章 クズ王子は――未来に手を伸ばす

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最終話

 今日、カイは私にすべてを話すつもりなのだろう。

 私も、このタイミングでカイに求婚するつもりでいる。結婚指輪も、しっかり用意してきた。

 仲人はメルヴ・イミテーションである。蝶ネクタイを巻き、キリリとした表情でいた。メルヴ・イミテーションも私同様、緊張しているのかもしれない。ソワソワと、手足をばたつかせていた。

 今日は特別な日だということで、めったに袖を通さない王太子の正装をまとってカイを待つ。

 カイはいったいどのような姿でやってくるのか。

 彼女の性格を考えると、ドレスでやってくる確率はゼロと言っても過言ではない。

 最近、騎士隊の正装が新調されたので、それをまとってやってくる確率が高いだろう。

 場所は私が指定した。王族しか立ち入れない、特別な一室である。

 ドキドキしながら、カイを待つ。

 彼女は時間ぴったりに現れた。

 扉を開いた先にいたのは――黒い板金鎧姿のカイであった。


「んんん?」

「クリストハルト殿下、お待たせしました」

「いや、時間どおりだが?」


 なぜ、板金鎧なのかと問いかけると、この恰好が一番落ち着くという返答があった。

 なんというか、板金鎧はまったく想像していなかった。

 この姿のカイに求婚できるのか、ちょっと自信がなくなってしまう。


「まあ、いい。久しぶりにゆっくりできるんだ。くつろいでほしい」

「ありがとうございます」


 板金鎧姿でリラックスできるわけがないが、カイがそうしたいと言うのであれば自由にさせておこう。


 互いに腰を下ろしたのはよかったが、シーンと静まり返ってしまう。

 まあ、性別を偽っていただけでなく、オーガの娘だったなんて言いにくいだろう。

 沈黙に耐えきれなくなったメルヴ・イミテーションは『アトハ、若イ二人デ!』なんて言って部屋から去ってしまった。

 思いがけず、カイとふたりきりになってしまう。カイはもじもじしていて、気まずそうにしていた。

 仕方がない。幼少期の思い出でも話そう。


「カイとは、もう随分と長い付き合いになったな」

「ええ」


 初めて出会ったのは、五歳の春だった。それから十三年も毎日毎日一緒にいたというわけである。


「初めて出会ったカイは、大きな体を縮こまらせて、居場所がないような顔をしていたな」

「ええ。同世代の子ども達とは、力加減がわからなくて、どう接していいのかわからなかったのです。もちろん、私自身が内気で消極的な性格だったというのもあるのですが」


 私が手を差し伸べてしまったばかりに、カイには大変な思いをさせてしまった。

 カイが強くならざるをえなかったのは、私のせいだったのだ。


 ただの貴族令嬢と王太子という立場で会えたら――どうなっていただろうか。

 なんて考え事をしているうちに、カイは顔を上げ、まっすぐにこちらを見ていた。

 決心が固まったのだろう。


「以前、クリストハルト殿下に、私の秘密をお話しする、とお伝えしましたね」

「ああ、そうだったな」


 無理に話せとは言わない。この先黙ったままでもいい。そう言っても、カイは打ち明けたいという。


「私の秘密を知ったら、クリストハルト殿下は私を恐ろしいと思い、距離を置くかもしれません」

「そんなことはない」

「どうして、そう思うのですか?」


 カイの語気が強まる。彼女自身の苦しみや葛藤が滲んでいるように思えた。


「それは、秘密なんてどうでもいいからだ。私にとってのカイは、いつもいつでも傍にいれくれたカイであって、それ以上でも以下でもない。だから、秘密があろうがなかろうが、カイはカイなのだ」


 心からの気持ちをカイに伝える。すると、兜の目びさしから涙が溢れてきた。

 ハンカチを手渡しながら、ひとつ提案してみる。


「カイ、その、なんだ。兜を外した状態で、話したいのだが」

「も、申し訳ありません。兜を被ったまま話すなんて、し、失礼ですよね?」

「いや、いいのだが、今日はその、カイの顔を見て話したいと思っただけで」


 そのままでもいいと言ったものの、カイは兜を外す。

 目は真っ赤で、目の下にはクマがあり、顔色も悪かった。おそらくだが、昨晩は一睡もできなかったのだろう。

 それくらい、カイの秘密は彼女にとって重大なことだったのだ。


「あの、その――ゲッホゲッホ!!」


 まだ何も言っていないのに、カイは咽せ始める。彼女が座るほうへ回り、背中を摩ってあげた。鎧の上からだったので、意味はないだろうが。

 そのまま隣に腰かけ、カイの話を聞く。


「クリストハルト殿下、驚かないでくださいね。私は、実は、オーガの子、なのです!」

「そうか」


 私の反応が薄かったからか、カイは「オーガです! あの、オーガ!」と重ねて主張する。


「あの、驚かないのですか?」

「知っていたからな」

「え!?」

「終わってしまった世界での記憶が、つい最近甦ったのだ。そのさいに、カイはオーガの姿になっていた」


 カイは頭を抱え、ずーんと暗い空気を背負う。


「そんな、ご存じだったなんて。私が、恐ろしいとは思わなかったのですか?」

「いいや、まったく。さっきも言ったが、カイはカイだ。何者であろうが、関係ない」

「クリストハルト殿下……!」


 カイは真珠のような涙を、ぽろぽろ零す。

 ずっと、秘密を言えないことを気にしていたのだろう。気にすることではないと、背中を摩りなががら伝えた。


「カイの母親が、オーガだったのだな」

「ええ」


 オーガの女性は、信じがたいほど美しいらしい。そして、オーガの村から出られないように厳しく隔離されている。

 オーガの男は嫉妬深く、中には家から一歩も出さないように束縛する者もいるらしい。

 当時、カイの母親には夫がいた。けれども、思想と行動を制限する夫に恐怖を抱き、暴力を振るわれた晩に命からがら逃げ出したようだ。

 そんなカイの母親を保護したのは、モンペリアル伯爵だった。

 領地でモンペリアル伯爵と出会い、恋に落ち、子を成したのだという。

 カイは無事産まれたが、そのあと夫であるオーガの男に見つかってしまう。村へと連れ戻されてしまったようだ。

 それで話は終わりではない。オーガは再度、モンペリアル伯爵の前に現れたのだ。

 妻を奪った男を許さないと、怒りを露わにしていたらしい。

 命の危機を覚えたモンペリアル伯爵は、オーガに向かって金銭で解決しようと話を持ちかけた。

 オーガはあっさりとそれに応じ、それから十八年もの間、モンペリアル伯爵は金品を奪われ続けていたようだ。

 カイを狙い、襲ったのは、モンペリアル伯爵がオーガを見限ったから。

 護衛を雇い、オーガが近寄れないようにしていたらしい。

 苛立ったオーガは、その鬱憤をカイに向けて発散しようとしていたわけだ。


「なるほど、そういうわけだったのか」

「きっと、私の魔力跡を辿って、公爵邸に辿り着いたのでしょう」

「オーガが魔法を使えたとは、驚いたな」

「ええ。森の奥地に棲む一族なので、生態についての研究も進んでいないのでしょう」


 ひとまず、オーガを取り巻く事情については理解できた。長年、隠していて辛かっただろうと声をかけると、カイはしゃくりあげながらこくりと頷いていた。


「もう、不安に思わなくてもよい。それは、気にすべきことではないのだから」

「はい、ありがとうございます」


 秘密を打ち明けたカイの表情は晴れない。その理由はわかっている。もうひとつ、秘密を言わなければならないからだ。

 これ以上、カイに告白させるのも気の毒だ。だから、私が先に言ってしまおう。


「実は、カイに頼みたいことがあるのだ」

「な、なんでしょうか?」


 私から願いを口にすることはあまりなかったからか。カイは思いっきり身構える。


「まあ、嫌だったら断ってくれ」

「い、嫌ではありません」

「いやいや、言ってから反応してくれ。こればかりは、カイが嫌だと思うかもしれないから」


 私はポケットから、結婚指輪を取り出す。何もケースに入れていない、剥き出しの指輪だ。石は私の瞳と同じ、サファイアを選んだ。なんでも結婚相手に、自分の瞳と同じ色の指輪を贈るのが流行っているとアウグスタから聞いたから。

 サファイアの石言葉は、誠実。まさに、カイを示すような言葉に違いない。 

 指輪を差し出されたカイは、キョトンとしていた。まあ、性別を隠している相手に、結婚を申し込まれるとは思わないだろう。

 勇気をかき集め、私は気持ちをカイに伝えた。


「カイ、私と結婚してくれ」

「え!?」

「私は、お前を心から愛しているのだ」


 二度と離れたくない。だからどうか受け取ってくれ。

 思いの丈を、カイにぶつける。


「この件は国王陛下と王妃殿下、フェリクスに相談していて、家族全員、応援してくれるという」


 養子縁組みについても、しっかり伝えておいた。


「何も心配することはない。だから、私の妻になってほしい。だが、嫌だと思ったならば、きっぱりと断ってくれ」

「あ、あの、私、私は――!」

「性別を、偽っていたのだろう? ずっと、知っていた」


 カイの瞳が、零れそうなほど見開かれる。


「これも、ご存じだったのですね」

「ああ」

「性別を隠し、男のようにふるまう私を、滑稽に思わなかったのですか?」

「そんなことなど一度も思っていない。凜々しくて、正義感が強くて、かっこいいと、いつも思っていた」


 これから先もカイと一緒に人生を歩みたい。だから指輪を受け取ってくれと、頭を下げて懇願する。


「クリストハルト殿下、頭を上げてください」

「う、うむ……」


 カイが受け取らなければこのままだと言おうとしたが、それでは結婚を強制させてしまう。だから、仕方なく顔を上げた。


 カイはそんな私を見て、微笑んでいた。


「クリストハルト殿下、なんだか捨てられた子犬のような顔をしています」

「今、カイに捨てられそうになっているからな。世界一、惨めな男だ」

「そんなことはありません」


 そう言って、カイは手を差し伸べてくれる。これは、指輪を受け取ってくれるということなのか。

 手が引っ込まないうちに、左手の薬指に指輪を嵌めた。


「私の太い指には、もったいないくらいの指輪です」

「そんなことはない。世界一、似合っている」


 しばし見つめ合い、感極まった私はカイを抱きしめる。


「カイ、感謝する。私は、世界一の幸せ者だ!」

「私もです」


 カイは結婚を了承してくれた。

 もうダメかと思ったが、カイは私を見捨てなかったのだ。


 ◇◇◇


 そんなわけで、私はカイと結婚することとなった。 

 王妃となったカイは、私よりも人気者となり、祭りがあるたびに記念品スーベニアが飛ぶように売れていた。

 大人気過ぎて小説化したり、舞台化したり、広場に銅像が建ったりしたものの、それはまた別の話である。


 私とカイの人生は、幸せに満ちあふれていた。


 物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!――完。 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

後日、番外編など更新する予定ですので、しばしお待ちいただけたら幸いです。

そしてクズ王子、書籍化が決定しました!

発売が近くなりましたら、お知らせします。


そして、本日より新連載が開始します!

『隣国に輿入れした王女付きモフモフ侍女ですが、本当の王女は私なんです〜立場と声を奪われましたが、命の危機に晒されているので傍観します〜』

https://book1.adouzi.eu.org/n8986hi/

不幸だった猫耳の獣人王女が幸せになるために、あれやこれやと頑張る物語です。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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