クズ王子は、公爵令嬢に説明する
アウグスタは聖獣を従え、最大の警戒と共に我々の前に現れた。
私やカイはサロンカフェ〝クライノート〟の従業員でないことは、すでに気づいているように思える。
じろりと私達を睨んでいるものの、迫力に欠けているように感じた。
というのも、顔色が青白く、瞳は血走っている。少し痩せたのだろうか? 強い風が吹いただけで倒れてしまいそうに見えた。
行方不明となった私を心配するあまり、こうなってしまったのだろうか?
だとしたら、一刻も早く真実を語る必要があるだろう。
惑わし眼鏡を外し、アウグスタを見つめる。
「あ、あなたは――!?」
「私はクリストハルト・ルードヴィヒ・アルベルト・フォン・リンデンだ」
「何をおっしゃっていますの!? 王族を騙るなど、不敬ですわ!」
「本当だ。信じてくれ。魔法で、このような姿に転じているのだ」
「信じられません!」
アウグスタはポロポロと涙を流し始める。その場に頽れ、声をあげて泣いていた。
やはり、私の死は彼女に大きなショックを与えていたのだろう。
すぐにでも、正体を明かさなくてはならない。
ここで変身を解いたら、ドレス姿の女装野郎になってしまう。それでもいいと思い、変身を解いた。
魔法陣の光に包まれ――私は本来の姿となる。
体が一回り大きくなったからか、ドレスが窮屈だった。布がミシ、ミシと聞いたことのない悲鳴を上げている。
私も、辛い。
見た目は酷い状態だろうし、ドレスがきついというのもある。
けれどもそれ以上に、アウグスタは辛かっただろう。
「アウグスタ、わかるな? 私だ」
「殿下……! ほ、本当に、殿下ですの?」
「ああ、そうだ」
アウグスタは聖獣を振り返る。すると、私だと認めるかのように、膝を折って低い姿勢を取ってくれた。
「ああ、リリー、本当に、あの御方は、殿下なのですね?」
アウグスタの問いかけに、聖獣は小さく『クエエ』と鳴いた。
「なんてことでしょう……!」
ドレス姿のまま腕を広げたが、ここでカイがボソボソと耳打ちする。
「その、変身コンパクトで、男性用の服をまとえます」
「ああ、そうだったな!」
変身コンパクトを用いて、服装を変化させる。フロックコートを選択すると、一瞬にしてドレスから変わった。
その瞬間に、アウグスタが胸に飛び込んでくる。
「殿下! もう、お会いできないとばかり、思っておりました!」
「私もだ。カイも生きている」
「ああ……!」
アウグスタの背を撫で、落ち着くようにと声をかける。彼女は幼子のように、わんわん泣いていた。
「どうして、すぐに姿を現してくださらなかったのですか!」
「すまない。命を狙われている以上、王都で動き回るわけにはいかなかったのだ」
「ですが、知らせる手段は、いくらでもあったでしょう!?」
「そうだな。本当に、すまなかった……」
なんと、アウグスタも捜索活動に参加していたらしい。この一ヶ月間、まともに睡眠を取れなかったという。
「殿下の死を知らされたときは、どんなに悲しかったか」
「ああ……」
もっとやりようがあったのかもしれないが、あの時の私は自分とカイが生き抜くのに必死だった。他の人について考える余裕なんて欠片もなく――その結果、アウグスタをこのように悲しませてしまった。
いいや、彼女だけではないだろう。たくさんの人達に辛い思いをさせている。
「私は、私の命を狙う悪を暴きたい。そのために、死を偽装したのだ」
「……」
責められるかと思いきや、アウグスタは「そう、でしたのね」小さく返す。そして、「生きていてよかった」と、安堵するように呟いていた。
アウグスタが落ち着いたあと、本題へと移る。
「では、噂のとおり、殿下は何者かに命を狙われていたのですね」
「ああ、そうなんだ。カイに暗殺者の凶刃が迫った瞬間、ふたりでメルヴ・イミテーションがいる空間へと逃げ込んだ」
カゴからメルヴ・イミテーションが顔を覗かせ、サッと右手を挙げる。存在に気づいていなかったのだろう、アウグスタは目を見開いていた。
「メルヴ・イミテーションは聖獣を治療する薬草を分けてくれた、世界樹の精霊なのだ」
「まあ、そうでしたのね。では、リリーの恩人だというわけですか」
「そうだな」
アウグスタと聖獣は揃ってメルヴ・イミテーションの前にいき、深々と頭を下げていた。メルヴ・イミテーションは聖獣を見て、『元気ソウデ、ヨカッタ』と言葉をかける。
話が逸れてしまった。
「それで、ひとつ頼みがあるのだが」
「なんですの?」
「私やカイと共に、王宮での潜入捜査に付き合ってほしい」
突然の頼みだったが、アウグスタは頷いてくれた。
ホッとしたのもつかの間のこと。
アウグスタの部屋に突然魔法陣が浮かび上がる。
「転移魔法か!?」
「なっ!? 公爵邸には、魔法避けの結界がありますのに!?」
いったい誰がやってきたというのか。
カイは剣を抜き、私の前に立ちはだかる。
魔法陣から姿を現したのは、意外な人物であった――。




